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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
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147話 正体11

 空から降りて来るコーネリウスを見て、座っていたノルとチラは立ち上がり手を振った。


「あっ、コーネリウスさんだ!」

「こっちだよー!」


 エアもノルの中から出てきてサミューの隣で手を上げた。コーネリウスは4人が無事な姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。魔物はノルの笛とサミューによって全て倒されたようだった。


「なぁ……ノーガスは……?」


 そう言いながらキョロキョロと周りを見回すエアにコーネリウスは首を横に振る。


「捕らえる事は出来ませんでした。ですが恐らく死亡したものと思われます」


 コーネリウスの返事にサミューは眉をひそめた。


「『恐らく死亡したもの』とはどう言う事だ?」


 コーネリウスは事の顛末と合わせ、自分が妖精族であり特別騎士隊に所属している事を話した。ノルが顎に手を当てながら、頭の中を整理するように声を出す。


「えーっとコーネリウスさんが妖精族だったのは今更だとして。……ノーガスの遺体が見つかって無いって事なのね?」


「はい。途中の木に引っかかっていなかったので恐らく海に転落したと思われますが、僕が見たところあの辺りは潮の流れが複雑になっているようでした」


「なるほど、何処かへ流されて行ったのかもしれないし、海底の何かに引っかかっているかもしれない。そう言う事だな?」


 サミューがそう尋ねるとコーネリウスはバツの悪そうな表情で頷いた。


「え、ええ。僕が気を失っていなければ見失う事は無かった……。悔やまれる限りです」


「……ま、これで俺たちが命を狙われる事も無くなったって事だな!」


 あえてエアが明るくそう言うと、その場にいた全員が頷いた。だが当のエアが慌てて叫ぶ。


「あーーっ、そうだ腕! サミュー、お前早く山を下りて傷の手当てをしろよ!」


「あ、ああ。そうだったな」


 サミューがハッとした様子で頷く。ノルはそんなサミューの応急処置をしただけの左腕を素早くかつ、そっと持ち上げ傷の状態を確認した。


「た、大変じゃない! すごい怪我をしてるわ。ちょっと待っててね」


 サミューは赤くなりながら、されるがままにノルが自分の腕にそっと触れる様子を見ていた。だがノルがかんざしを引き抜いたのを見て、慌てて腕を引っ込める。


「ノル、お前も消耗しているだろう? 笛はいいから今は休め。それに今の俺は血みどろだ、あまり触れるとお前も汚れてしまう」


「あら平気よ、私だって汚れてるわ。地面に横たわって暴れてたんだから!」


 サミューが、かんざしを横笛に変えようとするノルの両手を押さえる。


「いいから!! ……今は休んでおけ」


 珍しく大きな声を出すサミューにノルが驚いていると、コーネリウスが声をかけた。


「僕もサミューさんのお言葉に甘えておいた方が良いと思いますよ。──それから、ホテルの方が来るようですので、これで失礼します」


 コーネリウスが頭を下げその場から離れ、エアが慌ててノルの中へ隠れるのと同時に、大きな弁当箱を持ったロナが現れた。3人を見て手を振っている。


「あっ、皆様ちょうどお休み中でしたか? 昼食に……ま、まあ!! どうされたのですか!?」


 ロナは3人が明らかにボロボロな様子な事に気付いて血相を変えて走って来る。ノルは事情を説明しかけて口ごもった。


「これは……ええっと……」


 ありのままを話せば妖精族の存在を明かさなくてはならないし、自分達の正体を隠したとしてもあまり大事にはしたくない。ノルが良い言い訳を考えていると、サミューが口を開いた。


「先ほどコイツが野盗に遭ったんですよ。襲われたのがちょうど俺が休憩にここへ戻って来たときだったから、どうにか追い返せたんですが。たかが野盗相手だと油断したばっかりに……。お恥ずかしい限りです」


 サミューがトホホと言わんばかりに頭を掻きながら、流れるように嘘を吐いた事にノルは驚き目を剥いて見上げる。そんなノルの視線にサミューは気付き、『お前は黙っていろ』と言わんばかりに話を続けた。


「大方俺たちがリゾートホテルに滞在している事に気づいて、子供だけになったところを狙ったのだと思います」


「そ、そうなのですね……。詳しい事情は後ほど聞かせていただきますが、皆様ひとまず病院へ参りましょう! 私の夫が勤める所ですので、順番を多少融通してもらえるかもしれません」


 3人は山を下りロナの案内で病院へ向かった。



 ♢♦︎♢



 コーネリウスは再びノーガスを見失った周辺で捜索をしていた。


『先輩は、よほど生き残りたくなかったのか……』


 絡み合うように木が覆い茂るこの場所は、落ちたとしても運が相当悪くなければ木に引っかかって生き残れるはずなのだ。最後に見たノーガスのぎこちない笑顔がコーネリウスの脳裏に焼き付いている。妖精族としての誇りである羽を失い、更に魔物のモヤで汚れてしまったノーガスは、賭けが失敗した場合は初めから死を選ぶつもりだったのだろう。


『だからといって遺体も残さないなんて……。弔わせてもくれないのか』


 木に引っかかっている事は無く、少し時間を置いたが遺体が海に浮かんでいる様子も無い。


 妖精王を襲撃し、その子供の命をも狙ったノーガスは重罪人であり、また里に親類縁者の類は居ない。そのためノーガスの葬儀が行われる事はまず無いだろう。


 例えそうだとしてもコーネリウスはノーガスを妖精の里付近へ密かに埋葬しようと考えていた。だが遺体が見つからないため、それも叶わずコーネリウスに出来る事はもう無い。どうにもやり切れない気持ちのまま、ミナ騎士団長へ当てて事の顛末を報告する手紙を書く事にした。

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