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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
144/159

144話 正体8

 コーネリウスはものの数分でサミューとノーガスが戦っている場所の付近へ辿り着いた。 2人は元居た登山道の側、開けた場所で戦っている。


 ノーガスにエア(とノル)を連れている事を知られたら本末転倒だ。 コーネリウスは自分とエアとチラに気配を薄くする魔法をかけ、少し離れた上空から様子を伺った。


 だいぶ離れた空の上にいるため声は聞こえないが、刀と剣がぶつかる甲高い金属音ははっきりと聞こえる。 エアは手に汗握るような戦いの様子をハラハラしながら見た。


 両者共にだいぶ傷を負っているようだがエアには、腕に深い手傷を負っているサミューよりもノーガスの方が若干息が上がり、追い詰められているように見えた。


 あの日エアが一太刀も当てる事ができなかったノーガスが追い詰められているのだ。 守りながらの戦いが終わったからか、はたまた窮鼠猫を噛むという状況なのか分からないが、サミューの強さを改めて実感していた。


 激しい斬り合いの後サミューが距離を取ると、すかさずノーガスがサミューへ切り掛かって行く。 なりふり構っていられないと思ったのか、ノーガスが手にする剣には風魔法が纏わせてあった。 サミューはノーガスの剣を必要最低限の体を傾ける動きで避けようとした。


「危な──」


 それを見たエアが思わず声を上げかけ、慌てて口を押さえる。


 妖精族十八番の風魔法とは魔力で風を起こして操るものだ。 だが本来風は目に見えないため、魔力を感じ取る能力が妖精族と比べて格段に劣る人間ではなかなか太刀打ち出来ない。 妖精族の血が僅かに流れるノルはどうにかノーガスの魔力を感じ取る事が出来ていたが、サミューには不可能だろう。


 そう思っていたが、サミューは紙一重で避けるよりもほんの少し体を大きく傾け、ノーガスの風魔法を纏った剣を綺麗に避けた。


 何度も風魔法を受けているうちに、戦いに身を置く者の勘とでも言うのだろうか、なんとなく魔力を感じ取れるようになっていたのだ。 それに加え類稀な聴覚のおかげで、普通の剣の風切り音との違いを感じ取り、避ける事が出来ていた。


 意外にもサミューがノーガス相手に善戦していたため、心なしか安心したコーネリウスは少し離れた場所でエアとチラを下ろす。 今のノーガスならここまで魔法は飛ばせないはずだ。 コーネリウスはエアとチラに絶対動かないように言い含めると、登山道の側へ行き気配を消して戦闘を止めるタイミングを見計らった。


 サミューとノーガスはコーネリウスに見られているとは知らず、相変わらず激しい斬り合いを続けていた。


 サミューの強みは師匠に教わった剣術と冒険者として培った臨機応変さにある。 対するノーガスは風魔法と剣術を併用し、舞うように戦うスタイルだ。


 圧倒的な魔力を操るセンスに加え、我流ではあるが日夜鍛錬を続け剣の腕を磨いてきた。 風魔法で自分に追い風を吹かせて斬り込む速度を上げたり、剣に纏わせ射程範囲を増やす事が可能だ。


 だがあの日妖精王ラミウに羽を引きちぎられた影響で魔力が減り強い魔法は使えないうえ、以前ほど上手く扱えなくなっていた。 そのせいで斬り込む際に追い風の緩急を付ける事もままならず、爆発的な速さを出す事くらいしか出来ていない。


 他に出来る事といえば風の刃を放つくらいだ。 剣で切るよりは鋭いが、妖精族のノーガスにとってはあって無いような物だ。 だが今のノーガスの魔法でも人間にとっては脅威である事に変わりない。


 そんな素早い切り込みにサミューは初めこそ手こずったが、少しづつ見慣れて来ていたため今ではほとんど当たらなくなっていた。 そのせいかノーガスが焦ったく感じている様子が見て取れる。


 そんな戦いの様子を見ていたコーネリウスは、サミューの予想外のスタミナと戦闘センスを目の当たりにし内心ぼやいた。


『これ、僕が助けに行く意味があるのか? “コーンフラワー号”で共闘したときはまだまだ青いと感じたけど、なかなかやるじゃないか』


 サミューの本業は冒険者だ。 対人戦をする事もあるが、大体の相手は予想外の行動をしてくる野生生物や魔物だ。 瞬時に物事を観察し最適な答えを導き出す事に長けている。 また依頼の討伐対象を探したり追ったりで、長時間野山を駆けずり回る事も少なく無い。 そのためスタミナには自信があったのだ。


 原生林と登山道を背にして戦うサミューの動きをよく見ていると、受ける攻撃は必要最低限の動きで躱すが、ノーガスが登山道の方へ行こうとすると斬り払い押し返す。 といった体力を温存する戦い方をしているようだ。


 明らかにサミューの方が全身切り傷だらけで満身創痍なはずなのに、澄まし顔でヒョイヒョイと自分の攻撃を避ける姿に、ノーガスは肩で息をしながら奥歯を噛み締める。 以前は当たり前だった戦闘スタイルを取る事がままならず、手の内も全て晒してしまった。 そんなノーガスのあせる気持ちが表情に出ていた。


 その様子を見てとったサミューが突きを繰り出すと、ノーガスはひらりと避け、サミューに向かって剣を大きく振り上げる。


「そろそろ私を仕留めようと言う訳ですか」


 ノーガスが振り下ろした剣をサミューは片手で受け止めた。


「……クッ」


 普段なら両手で受け止めるが、怪我をした腕は添える様にしか使わなかったためサミューの重心が僅かに後ろへ逸れる。 その一瞬の隙を突いてノーガスは、サミューの左腕の肘の傷を抉るように至近距離で魔法を放ち、風の刃を浴びせた。


「──ッ!!」


 サミューは声にならない引き攣った悲鳴を上げつつ、咄嗟に踏ん張りながらノーガスの腹を蹴り飛ばし、強制的に間合いを取る。 だがダラリと下ろした肘の傷から再びボタボタと血が流れ、完全に片腕は使えなくなっていた。

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