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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
138/158

138話 正体2

 ──エアはカスミ山中腹へ向かうロープウェイに乗り、先ほどまでホテルの自室でコーネリウスとしていた話を思い出していた。


 薬で感覚を強化した状態のコーネリウスの脇腹をくすぐると脅し、自分たちをラタンド島から追い出そうとしている理由を話すと頷かせる事に成功した。 意気揚々とカウチソファーに座ると、コーネリウスに横へ座るように促す。 コーネリウスは諦めた様子で座ると、体をエアの方に向けた。


「いや〜、しかし薬を飲んだ副作用を毒ガスに侵されたように見せかけられると踏んだのですが、こうもあっさり見破られてしまうとは……」


 未だおべっかを使うコーネリウスをエアは半目で見やる。 コーネリウスは仕方なく頷いたものの未だ正直に話すかどうか悩んでいるように見えた。


「よく考えればそれもおかしいだろ。 毒ガスって普通体が小さくて弱い子供の俺たちの方が影響を受けそうなのに、明らかにお前の方が影響を受けてるのって辻褄が合わないじゃん?」


「ふふっ、くすぐるよりもそう指摘してくだされば良かったのです。 その指摘にはきちんと答えを準備していたのですよ。 “エア様やノルさんは妖精族と人間のハーフですから僕より影響を受けにくい”と答えるつもりでした」


「はぁ? それじゃあダメだろ。 お前にのらりくらりと躱されて終わっちゃうじゃん。 それで、お前がこの島に来た理由と、嘘を吐いてまで俺たちを追い出そうとする本当の目的は何なの?」


 コーネリウスはため息を吐くと重い口を開いた。


「……僕がこの島に来た理由はミナ騎士団長に指令を受けたからです」


「えっ? ちょ、ちょっと待って、ミナ騎士団長って……お前特別騎士隊に所属してたのか?」


「……おや、ご存知ありませんでしたか?」


 特別騎士隊はノーガス捜索を押し付けられたエアに、妖精王ラミウが付けた曲者揃いの部隊で、今はミナ騎士団長の指示の下、独自にノーガスの行方を追っているはずだ。 時折エアの所にも報告の手紙が来る事はあるが、いつもノーガスは見つかっていないと書かれているだけだった。


 エアの反応を見て迂闊な発言をしてしまったとコーネリウスは内心激しく後悔していた。 どうやらエアはコーネリウスが特別騎士隊に所属している事を知らなかったようだ。 知らないままならば、いくらでも誤魔化しが効いただろうが知られてしまった今、聡いエアなら何故コーネリウスがこの島へ来ているのか察しただろう。


「──まさか、ノーガスがこの島に潜んでるのか!?」


「…………ええ」


 俯き頷くコーネリウスの腕をエアはガシッと握り訊ねた。


「奴は何処にいる?」


「……言えません」


 エアはコーネリウスの腕を握る力を強める。


「良いから言え! 奴は何処にいるんだ!!」


「ハァ……」


 コーネリウスは頭を振りフッと笑うと、エアを小馬鹿にした様な表情で見下ろし、エアの細い手首を掴み自分の腕から外す。


「僕がそれをおいそれと教えるとお思いで? もしもそうだと仰るならばエア様は相当に思い上がってらっしゃる。 今のあなた様には何も出来ないでしょう? こんなにも非力なのですからねぇ」


「な、なんだッ──」


 エアが顔を赤くして口を開きかけたそのとき、コーネリウスがハッと顔を上げたかと思うと、素早くエアの肩を掴んで引き寄せ片手で口を塞いだ。


「お静かに!」


 エアはコーネリウスの手を払い退けた。 だが窓の外へ鋭い視線を向け外から聞こえる会話に耳をそばだてる、コーネリウスの緊張感溢れる真剣な様子を見て、黙って話してくれるのを待つ事にした。


「……よりによってノルさん達は今からカスミ山へ行くのか」


 コーネリウスは予想していたより早く口を開いたが、苦虫を噛み潰したような表情でボソリとそう呟いただけだった。 少しするとエアの視線に耐えかねたのか、ため息を吐きエアの方に向き直る。


「エア様、落ち着いて聞いてください。 たった今ノルさん達は予定を変更してカスミ山へ行く事になりました。 ノーガスはカスミ山に潜伏し──」


 バッと立ち上がったエアの手首をコーネリウスは掴む。


「まだ話は終わっていません!」


「痛いな、離せよ! 危険な事ぐらい分かってる。 でもノルに知らせに行かないと!」


 コーネリウスは立ち上がりエアの両肩を掴む。


「いいから聞きなさい! 失礼を承知で質問させていただきます。 ラミウ様がお倒れになったあの日、エア様はノーガスに1太刀でも入れられましたか? 今のエア様にそのときより少しでも強いところは有るのですか?」


 下唇を噛みながら首を横に振るエアを、コーネリウスはそっと座らせ目を見て静かに問いかける。


「それでは、あの日ラミウ様──あなた様のお父上が捨て身で守ってくださった結果、エア様がここにこうしておられる事は理解されていますか?」


 エアの視界が涙でぼやける。 例え涙を滲ませただけだとしても、自分が泣いているところを見られたくないエアは、コーネリウスから顔を背けた。


「……お前の言いたい事は分かったよ。 だけど俺はカスミ山へ行くからな。 止めるなら……」


 エアは顔を袖口でゴシゴシ拭くと、照れ隠しをするように敢えて強気に手をわきわきさせる。 コーネリウスが本気で止めるつもりであれば、自分のこんな子供っぽい作戦が効かない事くらい分かっていたが、せずにはいられない。


「いいえ、止めません。 本来なら僕が行くべきなのですが、薬の効果が切れるまであと30分程、僕は素早い行動が取れません」


 コーネリウスは苦々しげな表情で拳を握りしめる。 膝の上の拳は爪が白くなる程に強く握りしめられていた。 危険な地にエアを向かわせなくてはならない要因に自分自身がなってしまっている事を悔いている様子だ。


「……ですのでエア様にはノルさんとチラくんとサミューさんに事情を説明して、この部屋まで連れて来ていただきたいのです。 先ほどまでのエア様であれば多少荒っぽい手段を使ってでも止めたでしょうけどね。 いいですか、絶対に無茶はしないでください。 それからノーガスを探そうなどと考えないように、僕には分かりますからね」


 コーネリウスは自分の耳を指さして微笑む。


「そんな事お前に言われなくっても、分かってるよーだ!」


 エアは結局コーネリウスの掌の上で転がされ守られていたという事に気付き、照れ臭いやら恥ずかしいやらでコーネリウスに向かってあっかんべーをし部屋を出たのだった。


 エアはイライラしながらロープウェイの窓から外の景色を見ていた。


「ああっ、もう! 何でロープウェイってこんな遅いんだよ!」


 このような状況でなければ人間が作った乗り物に乗れてワクワクが止まらなかっただろう。 だが今は一刻も早くカスミ山中腹でロープウェイを降りたくてたまらない。


「奴の顔を直接見たのは俺だけだから、運悪く出くわしてもノル達じゃ気付けないかもしれない。 それにサミューはノルの側に居ないかもしれないし……。 いや大丈夫、大丈夫。 ノルとノーガスが鉢合わせるなんてそんな、良くある物語の展開じゃないんだから。 それにノルにはチラが付いているじゃないか! でも……いやいや!!」


 エアはどうにかして良い方向に考えるよう努める。 そうでもしないと不安な心に押し潰されそうな、このただロープウェイが到着するまで待つしか無い時間は耐えられそうに無かった。

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