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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
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133話 くすぐり

 エアはそーっとコーネリウスの顔を覗き込む。


『あれ? こいつの目ってこんな猫みたいに瞳孔が楕円だったっけ?』


 コーネリウスもエアの視線に気付いたのかスッと顔を背けた。


『ははーん、こいつ俺に何か嘘を吐いてるな』


 エアはコーネリウスの横に座り訊ねる。


「なあなあ、昨日の夜お前が俺に手紙を送ってきたときカスミ山の裾野に居たんだよな?」


「ええ、そうですね」


「この島に到着したときもカスミ山の方へ走って行ってたけど、あれからずっと野宿なのか?」


「ええ、わざわざ人間がいる場所で宿を取り、妖精族の存在が明るみに出るような危険は犯せません」


「ふーん、それでわざわざ有毒ガスが発生するカスミ山の裾野で野宿をしていたのか?」


「ええ、エア様のお体のことを第一に考え、結果が分かり次第直ぐにご報告出来るよう、皆様と別れた後はずっとカスミ山で有毒ガスについて調査しておりました」


 コーネリウスの受け答えに整合性は取れているが、やはりどこかおかしい。 このコーネリウスという男は相当な変わり者で、人間の目に触れる事も気にせず長年世界各地を放浪しながら会う人会う人に「妖精族のような美貌〜」などと公言している。


 しかも妖精族がお伽話の中に出てくるような、実在するか定かではない種族だという人間側の認識を逆手に取り、雨風を凌げる屋根とゆっくり休める布団を優先して人間が営む宿屋に堂々と泊まる図太い神経の持ち主だ。 そんな事でよく今まで自分達の存在が明るみに出ていないものだと、エアは内心感心していたくらいなのだ。


 コーネリウスの話に疑いを持ち冷静になったためか、エアは幼い頃父ラミウに妖精族特有の病や毒に付いて教わった事を思い出した。 確か聞いた話の中には火山島の有毒ガスなどは無かった筈だ。 だが万一有毒ガスが実際にある話だったとしても、代々妖精族が集めてきた知識を学んだ妖精王のラミウが知らない事を、コーネリウスが知っているとは考えにくい。


 そしてコーネリウスの不調の原因はおそらくあの猫のような目にある。 エアはそう結論付けた。


「なぁ、お前のその目について思い当たる事があるんだけどさ、聞いてくれる? ……聞いてくれるよなぁ?」


 コーネリウスはそっと耳を手で塞ぎ、体を壁の方へ向け目を背ける。 あまりの子供っぽい反応にエアは小声でボソッと呟いた。


「俺の想像が正しければお前がそんな悪あがきしても俺の声は聞こえてるはずなんだけど……」


 無反応のコーネリウスにエアはニヤリと笑い両手をわきわきさせながら囁く。


「話を聞いてくれないと俺つまんなくって、お前の事くすぐりたくなっちゃいそうだな〜」


 コーネリウスはビクッとしながら姿勢を正した。


「そ、それだけはおやめ下さい! エア様は僕に笑い死ねとおっしゃるのですか!?」


「おおーやっぱり聞こえてたんだ。 眉唾物だと思ってたけど、マドレー家秘伝の5感を強化する薬って本当にあったんだな。 すげー、瞳孔が楕円になるのも本で読んだ通りだ。 調子が悪そうなのも、薬の影響なんだろ?」


 コーネリウスはだんまりを決め込んだが、エアに穴が開くほど見つめられると、ため息を吐きながらポケットから小瓶を取り出しベッドの脇のテーブルに置いた。


「……ええその通りです。 聴力に特化した強めの薬を飲みましたが、どうしても他の部分の感覚も少なからず過敏になっていまして。 それに加えて強すぎる聴力は生身の身体では受け止めきれないもので素早く動いただけであの有り様なのです……」


 エアはコーネリウスの話を聞きながら小瓶を手に取ると中の液体を光に透かして見る。


「それは何というか……大変だな。 でも強化したい部分のコントロールが出来るのは知らなかった、凄いじゃん。 ノルが知ったら涎を垂らして薬のレシピを欲しがりそうだ」


 コーネリウスはエアからスッと小瓶を取るとポケットに仕舞い、早口に言った。


「ええ、ですがこの薬の製法は我が一族秘伝の物なのでどうかご容赦願います。 ノルさんにも一刻も早くこの島から脱出するようにお伝えください。 それでは僕は里に報告出来るよう引き続き調査を続けますので、失礼します」


 頭を下げそそくさと部屋から出ようとするコーネリウスをエアが引き止める。


「まぁ待てって、ノルにはお前が直接伝えればいいじゃん。 それにお前、俺に何か隠してるだろ? 例えば……そうだな、この島に到着したときお前は上司の命令で来たと言っていたのに、さっきは自分の意思で来たように言っていたよな? それに5感を強化した状態で有毒ガスが出る山の裾野にいた事とか、普通に考えたらおかしいと思うけど、どうだ?」


 エアはコーネリウスの片手を掴んだまま、じぃーっと見上げる。 だがコーネリウスはそれを見てあろう事か笑った。


「ふふふ、僕が隠し事をしてるなどと、人聞きが悪い。 薬は今朝飲んだのですよ〜」


 手をヒラヒラと振るコーネリウスをエアは軽く睨む。


「いやぁ、それは無いだろ? 俺に会うためにわざわざ薬を飲む意味が分からないじゃん。 それにさっきお前はこの島に着いてからずっとカスミ山に居たって言ってただろ? だったら俺たちが何処に泊まってるか知る事は出来ないはずだ。 だが俺に手紙を飛ばしてきた。 それなら普通じゃない手段、例えばマドレー家秘伝の薬を飲んでノルとかチラの会話を聞いて居場所を突き止めたって事になるだろ?」


 コーネリウスは言い逃れできないと察したのか、殊勝な様子で頭を下げた。


「はい申し訳ありませんでした。 僕が薬を飲んだのは今朝ではありません。 エア様の居場所を知っておくためとはいえ、お仲間の会話を盗み聞きのような事をしてしまい申し訳ありません。 いや〜流石エア様ですね。 僕、嘘には多少なりとも自信があったのですが、こうも鮮やかに見破られるとは」


 コーネリウスはパチパチと拍手をしたが、自分で出した音に顔を顰める。 エアはその様子を見て鼻で笑った。


「誤魔化すなよ。 今の返事でお前が言っていたこの島の有毒ガスとやらも嘘だという事が分かった。 それならどうしてそこまでして俺たちをこの島から追い出そうとするんだ?」


「……」


「そっかー、話してくれないと俺つまんなくって、やっぱりお前の事くすぐりたくなっちゃいそうだな〜」


 エアは再び両手をわきわきさせながらコーネリウスににじり寄る。 コーネリウスは唾を飲み込み首を横に振りながらジリジリとエアから距離を取ったが、ついにベッドの淵に追いやられた。


 コーネリウスは元々くすぐりに弱いのだ。 それなのに感覚が強化された状態でくすぐられると想像すると、もうそれだけでくすぐったくて耐えられない。


 正直簡単に騙せるだろうとエアの事を見くびっていた。 薬の効果が続いている状態でエアに会いに来たのが間違いだったのだ。 コーネリウスは激しく後悔したが時既に遅し、いよいよエアの手が自身の脇腹に近付くと苦々しげな表情で諦めたように呟いた。


「話します、話しますから、それだけは勘弁してください! ここまで疑われてしまっては、正直に話さなければエア様が真相を知るため無茶をしかねませんからね。 ただし僕の話を聞いても絶対にご自身から危険に飛び込んで行くような真似はしないと約束して下さい」


「おっ、やっと話す気になってくれたか」


 エアは満足気に頷いた。

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