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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
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130話 美味しいランチ

 ニコニコしながらノルにサンドイッチを勧めるロナをサミューは僅かに疑念が籠った眼差しで伺い見た。


『確かこの村でノルがシャーマンだと知っているのは村長と秘書だけのはずだ。 あの村長や秘書が漏らしたのなら別だが、昨日の会話を思い出すとそうとは考えにくい。 見たところロナさんから敵意は感じられないから問題無いとは思うが、用心するに越した事は無さそうだ』


 以前師匠に付いて旅をしていた頃に特殊な能力即ち、シャーマンの才能を持った子供を狙って攫い、権力者に売り飛ばすという話を小耳に挟んだ事がある。 以前はシャーマンなど眉唾物だと思っていたため、この話も信憑性が定かでは無いと思っていた。 だがノルの不思議な力をこの目で見た今、あれは実際に起きた話かもしれないのだ。


『まあ僅かに違和感を感じただけだ。 今の段階でノルに伝えて不安がらせる必要は無いな』


 サミューがそんな事を考えていると、横から視線を感じた。 そちらを見ると、両手にサンドイッチを持ったチラと目が合う。 チラの片手にあるサンドイッチは齧りかけでもう片方の手にあるサンドイッチは、まだどこも食べられていない。


 以前ノルの家でエアがチラにパンをグイグイと押し付けられていた事を思い出し、サミューは慌てて弁当箱からサンドイッチを取りパクッとひと口食べた。 そろりとチラの方を見ると満足気に頷いている。 どうやらサミューの行動は正解だったようだ。


「はい、草むしりお疲れ様。 うんうん分かるわ、サミューもお腹が空いてたのね!」


 ノルにサンドイッチとおかずを盛り合わせた皿を差し出された。


「ありがとう……」


 サミューは少し気恥ずかしく思いつつ、おずおずと皿を受け取る。 初めはチラにグイグイされないためだったが、サンドイッチのソースの味が自分好みで気づいたら無心でガツガツと食べていた。 自分のそんな姿を見られた事を恥ずかしく思いつつ、気を取り直してサンドイッチを口に運ぶ。 ノルも先ほどまでは笑顔で頬に食べ物を詰め込み、まるでリスのようになっていたが、サミューがゆっくり食べ始めたのを見て気恥ずかしくなり、品良く食べる事に努めたのだった。


 昼食を食べ終わり3人で草むしりを始めたとき、少し離れた場所で複数の獣の咆哮や唸り声が聞こえた。 以前出会した狼型の魔物によく似た唸り声だ。


「ねぇ……今のって魔物?」


 体をこわばらせキョロキョロと辺りを見回すノルを見てサミューは頷いた。


「ああ、恐らくそうだ。 どうする、今日のところは引き上げるか?」


 サミューに聞かれ、ノルは考えた。


『流石にここまで植物が傷付いてると私の笛だけじゃ効果が薄いわ。 それに木の処置に使える道具が手元に無いから、今残っても出来る事は草むしりくらいね。 おまけに魔物避けの結界の効果は心許ないし……』


「そうね、今日は帰って次来るときに備えましょう」


 冷静に返事をしたノルにサミューは安心したように頷く。


「そうだな、俺もその方が良いと思う」


 3人は昼食の後片付けをするロナを手伝うと、早々に山を降りた。


 ロープウェイを降り、ラタンド村の門を潜り直ぐにある“料理が美味い宿屋まんまる屋”の前でロナが立ち止まった。


「お弁当箱を返して参ります。 少々お待ちください」


 実は3人が泊まっている“ホテルクレイドル”は昼食の用意は無い。 そのためロナは“料理が美味い宿屋まんまる屋”で昼食を予約していたのだ。


 ロナが出てくるとノルはカスミ山の魔道具が無くなった件について相談した。


「魔道具が3つ無くなっていた事って村長さんにお知らせした方が良いですよね?」


「そうですね……とりあえず村長の秘書に話を通しておきましょう。 彼女に伝えておけば村長にも話が行くはずです。 丁度夕方に会う予定ですので私が伝えておきますね」


「よろしくお願い──」


 ノルがお願いしかけたとき、サミューが遮るように言った。


「いえ、依頼を受けた俺たちが村長か秘書に伝えるのが道理かと思います」


「まあ! 私とした事が出過ぎた真似を致しました」


 頭を下げるロナにサミューは疑念の眼差しを向ける。


『もしやこの人の狙いは魔道具なのか? 個数次第で魔物避けの効果範囲を自在に変えられる魔道具は、大金を出しても欲しい輩が多いだろう。 魔道具の効果を発揮させるためにはシャーマンの祈りの力が必要だからノルを狙っているのか?』


 1度疑い始めると、どうしてもロナの発言や一挙手一投足が怪しく感じられる。


「ちょっと待って、サミュー!」


 そんな事を考えながら歩いているとノルに呼び止められ、強い力で腕を引かれた。 驚いて振り返り、引っ張られた自分の腕を見るとチラが「迷子になっちゃうよ?」と言いながらサミューの腕から手を離す。 以前ノルがスプリッチの手前でチラに手を引かれ転びかけたときの気持ちが少し分かった気がした。


 4人は植木屋の温室の前にいた。 入り口の側には背が高い観葉植物の鉢植えが何個も置いてある。 サミューがなぜここで呼び止められたのか不思議に思っているとノルがため息を吐く。


「やっぱり植木屋さんに寄って行こうって話してたの聞いてなかったのね。 『ああ、ああ』って空返事ばっかりだったもん。 ねぇ?」


 眉間にキュッと皺を寄せ、サミューの物真似をするノルを見てチラがケラケラ笑う。


「うんうん! サミュー上の空だったの!」


「うっ……」


 何も言えなくなるサミューを見てロナもニマニマしている。 サミューは思わずロナを睨み付けたが、ノルが肩に手をかけヒソヒソと耳打するとポッと赤くなる。


「ダメよ、照れ隠しでロナさんを睨んじゃ。 美人さんだったりかっこいい人が凄むと迫力があるの。 サミューだってそうなんだから、睨んだらロナさんが可哀想でしょ?」


「……なっ!?」


 ノルも最近気付いたのだが、どうやらサミューは自分の容姿について触れられる事が苦手らしい。 そのため気を使ってこっそり指摘したのに何故かサミューは耳を押さえて硬直している。


 ノルがその様子を見て首を傾げていると、頭の中にエアが大笑いする声が響いた。 ロナも何故かノルを見て納得したように頷きながらクスクスと笑っている。 ノルは再び首を傾げたが、このままでは埒があかないためチラと一緒にサミューの背中を押しながら植木屋に入った。

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