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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
2章 大自然の孤島ラタンド島
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124話 お荷物お持ちします

「アニキ〜、お荷物お持ちしますぜ?」


「結構だ。 これで5回目だぞ?」


 ノル、チラ、サミューはラタンド村を目指して、原生林を切り拓いて作られた道を歩いていた。 後ろからはもれなくジャンも付いて来ている。


「やっぱりアニキって呼ばれると嬉しいのかしら? サミュー照れてるように見えるわよね?」

「うん、ボクもそう思う!」


 ノルとチラは前を歩くサミューとジャンを見ながらコソコソと話す。 すかさずサミューが振り返り否定した。


「俺が照れているだと? そんな訳ないだろう!」


 サミューは斜め後ろにいるジャンを睨む。


「お前のせいで俺が変な目で見られてるじゃないか。 俺、いや俺たちはお前の面倒を見られるほどの余裕は無いし、暇でもない。 分かったらとっとと何処かに行け!」


「そんな冷てぇ事言わないでくだせぇよ。 ……あっ! ノルさんチラくんお荷物お持ちしますぜ」


「えっ、良いの? ありがとう」

「ありがと!」


 ジャンに荷物を渡そうとするノルと何故かどんぐりを差し出すチラをサミューが止める。


「お前たちはこんな信用ならない奴に荷物を預けるのか?」


「だって心を入れ替えたって言ってたし、好意には感謝こそしても疑うなんて、ねぇ?」


 ノルがチラを見る。


「うんっ! 優しくしてもらったら、ありがとって言わないとダメなんだよー?」


 チラにまん丸で真っ直ぐな目を向けられ、サミューは言葉に詰まる。


「ぐっ……。 だ、だがコイツはお前たちを攫おうとした男なんだぞ?」


「あら、それならサミューも人の事は言えないわよね?」


 ニッコリと微笑んだノルにサミューはいよいよ返す言葉が見つからなくなる。


「ぐぬぬっ…………ああもうっ! 分かった、分かったよ! ラタンド村にも冒険者組合の支部があるはずだ。 そこまでだからな? 全く、子供を懐柔して……」


 ぶつぶつとそう呟くサミューの言葉を聞いて、チラは不思議そうに首を傾げる。


「カイジュウってなぁに?」


「手懐けるって意味のはずだけど……別に私たちジャンさんに手懐けられてないわよね?」


 ノルとチラの会話が耳に届き、恥ずかしさでプルプルと震えるサミューにジャンはスッと手を出す。


「それではアニキのお荷物をお持ちします」


「結構だ!」


 プイッとそっぽを向きスタスタと先に進むサミューを見てノルはジャンの服を引っ張る。


「代わりに私たちの荷物をお願いします」

「はいっ! どんぐりだよ」


「えっと、チラくんのポシェットは持たなくて良いんですかい?」


「うん、このポシェットはサミューからもらったチラの大事なポシェットだからね! 似合うー?」


 その場でくるくると回るチラを見てジャンが頷く。


「へい! よく似合ってますぜ」


「えへへー、だからねこのポシェットはボクが持つのー!」


 ジャンはノルから荷物を受け取り、チラから渡されたどんぐりをポケットに入れると3人の後に続いた。


 少し歩くと木々の間からラタンド村の門が見えてきた。 門の前では槍を持った門番が暇そうに欠伸をしている。


「こんにちは。 ちょっとお尋ねしたいのですが、村長さんのお宅はどちらでしょうか?」


 ノルが尋ねると門番は怪しい人物を観察するように4人を見つめる。


「はあ……失礼ですが村長にはどのようなご用件で?」


 未だ機嫌が悪いサミューがムッとした様子で何か言おうとしたため、ノルは慌てて名乗った。


「あっ申し遅れました、私はノルと言います。 私たち、イルーグラスのラナシータさんという方から紹介を受けて来ました」


 明らかに若い3人と如何にも怪しい風貌のジャンでは村長の客に見えないのは無理が無い事かもしれない。 門番は慌てた様子でペコリと頭を下げる。


「そ、それはとんだ失礼を! 村長から言伝を預かっております。 “ホテルクレイドル”のフロントに声をかけて欲しいとの事です。 それと私からもお願いします。カスミ山の植物を助けてやってください」


「ええ、出来るだけの事はするつもりです」


 門番は村に1歩足を踏み入れ、ぼんやりと白っぽく水色に霞むカスミ山を見上げた。


「よろしくお願いします。 例年だとあと2ヶ月ほどでフラワーフェスティバルの時期になりますが、今年は雲行きが怪しいと村民の間でも話題になってましてね。 フラワーフェスティバルの時期は仕事が忙しくって村民皆ヘトヘトになるんですが、あの大変さが無くなると思うとそれはそれで寂しくって。 村の収入源としても大切ですが、フラワーフェスティバルの時期になるとカスミ山から花が降って来る光景は子供の頃から当たり前にあったものですから」


 その光景を思い出しているのだろうか、門番は少し寂しそうに笑うとハッとしたように頭を下げた。


「すみません、長々と話し込んでしまって……」


 丁度4人の後ろから観光客が来たため門番は持ち場へ戻りながら振り返って言った。


「この村1番の宿、“ホテルクレイドル”はこの道を真っ直ぐんだ先にありますから、迷う事は無いはずです。 看板を見つけられればすぐに分かるはずです。 この村1番の宿ですからねー!」


 ラタンド村は島に広がる原生林を開拓して作った村のため、入り口からうなぎの寝所のように真っ直ぐに伸びている。 そのため門番が言ったように道に迷う事は無かった。


 途中の冒険者組合でジャンと別れると3人はキョロキョロと“ホテルクレイドル”の看板を探す。


「えっと……“料理が美味い宿屋、まんまる屋”に“とっても豪華なホテル、ラグジュアリースクエア”でしょ? それから“一度は泊まってみたい宿、テトラポッド”」


 “ホテルクレイドル”は驚くくらい簡単に見つかった。 村に入って直ぐある宿屋の看板を見てまさかと思ったが、やはりそうだ。 “村1番の宿、ホテルクレイドル”と馬鹿でかい看板を掲げていた。


 3人の目の前にある“ホテルクレイドル”は2階建のリゾートホテルだ。 ホテルの入り口へ続くウッドデッキのスロープ、建物をぐるりと囲むポーチとホテルの向こうに見える海。 とても雰囲気の良いリゾートホテルなのにその雰囲気をぶち壊すほどに看板だけが馬鹿でかい。


「そういえばこの村にある宿屋の看板、みんな妙に大きかったわよね?」


 ノルがそう言うと他の2人も深く頷いた。


 この村の宿屋の看板は皆競うようにデカデカとしていて存在感が強い。 建物の半分くらいを占めていたり、隣の建物にまではみ出している物もあるくらいだ。


 3人は馬鹿でかい看板から目を離しホテルの中へ入る事にした。

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