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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
6章 インノ村、妖精の里での事件
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103話 赤ローブ

 森で演奏を終えて帰ると家の前でサミューが待っていた。


「あっ! サミューさ……サミュー待ってて、今鍵を開けるから」


 家へ入り暖炉に火をつけるとノルとチラでお茶の準備を始めた。


「そう言えばナーシャさんからのプレゼントってどうなったの? 見つかった……?」


「ああ、これだ」


 サミューは刀の鍔を指差した。


「金属の物だったから燃えずに済んだらしい。 あいにく元の色とは変わっているだろうが、これはこれで唯一無二の色合いで良いと思う。 それから……家を建て直すための資金稼ぎをするため、冒険者の依頼に出かけようと思ってな。 しばらく留守にするからお前たちに話しておこうと思って今日は来た」


 サミューはインノ村を男爵の悪政から救った影のヒーローとして格安で家を建て直してもらえる事になっていた。 とは言え元々貯金が少ないサミューは、足りない分を稼ぐ事にしたのだ。


「それならハナちゃんを連れて行って。 馬がいた方がサミューも移動が楽でしょ?」


「ありがたい申し出だが、本当に良いのか?」


 そう尋ねるサミューにお盆を用意していたチラが振り向きコクコクと頷いた。


「うんっ! きっとここにいるより色々な場所を走り回れた方がハナちゃんも幸せだと思うよ!」


 その話を聞きながらエアは無造作にノーガスの似顔絵をその辺にポイっと置く。


「ふーん家を建てるのって大変なんだな。 金を集めるためにいろんな場所を駆け回ってさ」


 ノーガスの似顔絵はテーブルに軽く当たり跳ね返って床に落ちた。 それをサミューが拾い上げる。


「よく出来た絵だな、この人がお前たちの父親なのか?」


 そう言われた途端エアはバァーンとテーブルを勢い良く叩いた。


「はぁ!? 違うし!! コイツが親父を殺そうとしたノーガスって頭のイカれたヤツだよ!」


 エアの怒気を孕んだ声にお茶を運んでいたチラはビクッとする。 その拍子にお盆からカップが落ちて割れた。


 真っ赤な顔でサミューを睨むエアにノルは慌てて声をかける。


「エ、エア落ち着いて、お隣に聞こえちゃうわ。 それにサミューだって悪気があった訳じゃ無いだろうし、ね?」


 サミューはノルとエアに深々と頭を下げる。


「本当に申し訳ない…… この通りだ」


「……分かったならいいけど、もう間違えんなよな」


 ノルはアワアワするチラの肩をポンっと叩く。


「大丈夫よ、カップは沢山あるもの。 気に入った物を見つけるとついつい買ってしまうから、ちょうど食器棚がいっぱいになってたのよ」


 ノルはそう語りかけると割れたカップの破片を拾おうとしゃがみながら呟く。


「だけど怖いわよね、その人魔法剣の使い手で何故か私たち家族を狙ってるんでしょ?」


 サミューはノルを制止し、箒でカップの破片を集めていたが驚いたように尋ねた。


「ん? 妖精王だから狙われたという訳では無いのか?」


 サミューはそう言いながらノーガスの似顔絵をまじまじと見つめる。


「そう言えばこの似顔絵、赤ローブにどことなく似ているな。 まぁそんなはず無いか、この絵に描かれているのは男のようだし」


「赤ローブってサミューに悪趣味な魔法をかけて男爵を殺した人よね?」


「そうだ。 だが奴は赤いローブを着て赤いベールを被っていたから女性だと思うぞ? それに妖精族とは人間の前に姿を現さないものなんだろ?」


 エアはノルと一緒に床に溢れたお茶を拭きながら答える。


「それがそうとも言い切れないんだ。 ノーガスは事件を起こす前から人間と繋がりを持っていたみたいでさ、前にも話したように人間界へ逃げ込んだと里の妖精は考えてる。 それに俺が言うのも変だけど妖精族は男でも細身で美形が多いから、ローブを着てベールを被れば女と言っても通用すると思う。 ……待てよお前がノルを攫う依頼を受けたときにソイツそこに居たんだよな?」


「そうだが。 ──まさか赤ローブいや、ノーガスの狙いは初めからノルだったと言いたいのか? いや、そうか、ひとつ思い出した事があるぞ。 男爵は人を攫って金を稼いでいただろ? だがファディックでノルを攫おうとした奴らに関してだけは本人も知らないと言っていたらしい」


 誰でもそうだが自分が狙われているなど考えたく無いノルはサミューの言葉に意を唱える。


「で、でも男爵って自分が不利になりそうな事には何でも嘘吐きそうな人だったわよ?」


「いや、ファディックの人攫いについてはジョーンズに調べさせていたんだ。 だが1度も男爵とは連絡を取り合っていないうえ、男爵が殺されたのと同じ頃ファディック側の街道沿いで奴らの死体が発見されたらしい。 争った形跡は無く首を刃物で切られてな」


「えっ、じゃあそいつらにノルを攫う指示を出していたのはノーガスって事か?」


「確かな事は言えないが、もし俺がノーガスなら男爵のあの性格を知っていれば二重三重に策を練る。 ……まさか俺や花吹雪のスカーフ団も目印として利用されていたのか? だがそうだとするとノーガスはまだノルの見た目や詳しい情報は知られていないのかもしれない」


 サミューのその言葉で皆の手が止まった。


 ノルの情報を詳しくは知られていないとはいえ、目に見えない不安と恐怖がヒタヒタと近付いて来ている感覚に囚われる。


「ノーガスはもともとアブラガシワを育ててその樹液を人間に売ってたんだ。 その関係でどこからかノルを狙う男爵の事を嗅ぎ付けて使い捨てるつもりで利用したんじゃないか? 信じたくは無いけどそう考えると辻褄が合うよな?」


 そう言うエアにノルは無理に笑顔を作り尋ねた。


「でもエアが私の痕跡を消す魔法をかけてくれたでしょ、考えすぎじゃない?」 


「残念だけどあれは魔法をかけた時より以前の痕跡を消すものなんだ。 ノルがアブラガシワを育てたのはその後だろ? それに魔法をかけたときは俺、ノーガスが人間と繋がりがあるって知らなかったから、魔法での探知からノルを隠す事しかしてないんだ。 ノル自身は隠せてるはずだけど、人づての情報だとノーガスのところに届いちゃうな……」


「人の口に戸は立てられないと言うしな。 その魔法を上手くかけ直す事は出来ないのか?」


 エアは苦虫を噛み潰したような表情で自分を指す。


「今はまだこんなだから無理だな。 それに魔法をかけ直すためには一度外さなくちゃいけないから、少しの間無防備になる。 もうノーガスはノルの存在は知ってるだろうから、ノルを探知する魔法とかを常時張ってたらお終いだ」


「ねえ、そう言うエアはノーガスに会ってるけど探知されないの?」


「……アイツにかなりズタズタにやられたし、その後ノルの中で眠りについたから、死んだと思われたのか探知はされてないみたいだ」


「そっか、ひとまずエアが探知されていなくって安心したわ」


「『安心したわ』ってなぁ──」


 そう呆れ顔で言うエアを遮るようにサミューは勢い良く身を乗り出した。


「お前が狙われている事に変わりは無いのだから用心しろ! ……もちろんエアが探知されてないようで安心はしたが、お前が見つかれば芋づる式にエアの身にも危険が及ぶ。 それにファディックでの奴らから情報が伝わっていれば、エアに行き着く可能性だってあるんだ。 側にいてやりたいのは山々なんだが、あいにく依頼を受けてしまった以上断る訳にはいかない。 少しでも異常を感じたら近所の人や俺の仲間に頼れ。 間違ってもお前たち3人だけでノーガスを探そうなど考えるなよ。 分かったな?」


 その鬼気迫るような表情に驚いて3人が何も言えずにいると、サミューが更に身を乗り出す。


「分かったか? 返事は?」


 サミューに初めて向けられる有無を言わせぬ表情に、3人はコクコクと頷いた。


「分かってるわ、安心して。 自分から危ない人なんて探しに行かないから」


「う、うん俺もまだ本調子じゃないからノルから離れる事はできないよ」


「チラはサミューの言う事聞くよー!」


 その翌朝サミューは依頼の旅へ出かけて行った。

ここまでお付き合いいただきましてありがとうございます。 これにて第1部終了です。

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