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妖精とまたたきの見聞録  作者: 甲野 莉絵
6章 インノ村、妖精の里での事件
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101話 冒険者組合で

 翌朝サミューは失効した冒険者の免許を再取得するため王都に来ていた。


 世界各地の大きな街にはだいたい冒険者組合の支部があり、それぞれの支部で連絡を取り合っているためどこの場所でも受けられる依頼内容や各種手続きに大きな違いは無い。 だが免許の再取得の様な特殊な内容は大きな支部でないと受け付けてもらえないのだ。


 サミューが知っている大きくて近場にある冒険者組合支部はフィッツボール王国王都にある支部だったし、ここでなら間違い無く受け付けてもらえるだろう。


 実は駆け出しの冒険者だったサミューが師匠と出会ったのは王都でだった。 全てにおいて一流の物を好む師匠は一流が集まる王都に主に逗留していたのだ。


 良く言えば風流人、正直に言えば自由人だった師匠の相手は本当に大変だったが、サミューの物を見る目は師匠に付いて回る日々で養われたと言っても過言ではない。


 そのため修行をしていた時代は王都にある冒険者組合支部の世話になっていた。


 だが一人前になってからは出先の支部を利用する事がほとんどで、あまり王都に顔を出す事は無くなっていたし、義賊として活動し始めてからは騎士団がいる王都には尚更近寄らなくなっていった。


 王都には街の東西南北に大きな門が設置されており、身分関係無く誰でも通る事ができる。 それぞれの門から街の中心、王城に向かって大きな通りが伸びていて、その大通りの間を縫う様に様々な通りが張り巡らされている。


 サミューは王都の南門から真っ直ぐ続く大通りを冒険者組合支部に向かって歩いていた。


 数年ぶりに来た王都は一見あまり変わっていない様に見える。 だが流行の最先端の地である王都にある店は入れ替わりが激しい様で、サミューの知らない店も多い。 その反面流行に疎いサミューでも知っているような、いわゆる一流の店は変わらずに残っている。


 そうして久々に来た王都を見物しながら歩いていると冒険者組合に到着した。 扉を押して中に入ると、朝の時間のためか受付が混み合っている。


 急いでいないし混み合っている中でわざわざ免許再取得の手続きをする事は気が引けたため少し待つ事にした。


『折角免許を再取得するのだから肩慣らしに少し依頼を受けてみるか』


 ボートに張り出された依頼一覧を見る。


 冒険者が受ける依頼は害獣や魔物駆除、採取、調査、警護、はたまた依頼主の話し相手など実に様々ありそのほとんどが一般の困っている人から寄せられるものだ。


『やはり“駆け出し”用の薬草採取や街のゴミ拾いはいつでも、いくらでもあるものだな』


 サミューは薬草採取の依頼表を手に取ると、人混みが捌けるのを待った。 しばらくすると朝の混雑時間を過ぎ、冒険者用の受付に数人並んでいるだけになった。


 3つある受付のうちのひとつにいる、グレーヘアを撫でつけ小さな丸眼鏡を掛けきちっとしたいかにも紳士という雰囲気の受付職員は見知った顔のジョンだ。 修行時代大変世話になったため頭が上がらない存在で、弁もたつため何を言われるか分かったものではない。


 そのためサミューはその列を避けて並んだ。


 サミューの並んだ列は少しづつ短くなってゆき、いよいよ自分の番まであと2人になっていた。


 そしてあと1人となりこれで安心だと思ったのも束の間、その手続きに受付職員がてこずっているらしい。


 それに反してジョンは仕事が早く次々と依頼表を持った冒険者を捌いてゆき、気付けば最後のひとりとなっていた。


『俺の前の人早く終わってくれ』


 だがサミューの小さな願いは叶わず、隣の受付にいるジョンがこちらに声をかけた。 満面の笑みを浮かべている。


「お待ちの方、こちらへどうぞ〜」


 後ろに並んでいる人はおらず譲ってジョンから逃げる事はできないので、聞こえないふりをするサミューにジョンは手を振り再び呼びかけた。


「お待ちの方〜そちらの背の高いお兄さん、こちらへどうぞ〜」


 サミューは諦めてジョンの待つ受付で手続きをする事にした。


「……冒険者免許の再取得手続きをお願いします。 それと薬草採取の依頼を受けたいのでそちらの手続きも併せてお願いします」


 カウンターに薬草採取の依頼表を置く。


「承りました。 少し見ない間にあのサミューくんがずいぶん立派になられたと思ったのに……」


 ジョンは引き出しから免許再取得の書類を取り出し、サミューが記入する箇所を示した。


「こちらと、こちらそれからこちらに必要事項をご記入ください。 それにしても驚きましたよ、あのサミューくんが人を殴って冒険者免許を取り消されるなんて。 サミューくんほどの人材を逃すなんて勿体無いですからね、僕頑張って上の人と掛け合ったんですよ。 さてどんな依頼を受けてもらいましょうかね」


 ジョンはサミューが置いた薬草採取の依頼表には目もくれず、依頼一覧表をパラパラと見ている。


『義賊の事など知られていないだろうな? もしも知られていたら……』


 ただでさえ嫌な予感がするのに、その事まで加わったらこれをネタにどんな無理難題を押し付けられるか分かったものではない。


 ドギマギしながらサミューが書類に記入し終わると、まるでもうすでに用意されていたかのような速さで新しい免許を渡された。


「サミューくんにはここら辺の依頼を受けて欲しいと思っているのですが」


 ジョンは用意していた依頼表を3枚提示した。


 その内容は街道沿いに出る魔物の退治、家畜を襲う狼の退治、村の付近にできた毒蛇のコロニーの掃討など、どれもどう考えても“駆け出し”が受けるような内容ではない。


「いやそう言われても……“駆け出し”は薬草採取とゴミ拾いだと決まっているのではないですか?」


「一般的にはそうは言われてますが、それはこの仕事に慣れていただくためでしたり、顔馴染みを作るためですからね。 そのような決まりはありませんし、受付職員が判断すれば問題ありません。 サミューくんいや、サミューさんを見込んでの依頼なのですよ」


「わ、分かりました、サミューさんはやめてください。 それでどれを受ければ良いんですか?」


「そうですか! ありがとうございます。 サミューくんに頼みたいものは今示した全てです」


「はっ? “駆け出し”にこれを全部やらせるんですか? どう考えても“一人前”以上に任せる内容でしょう? 第一俺は冒険者免許を取り消されて再取得したんですよ、こんな信用ならない人物に任せて良いんですか?」


「良いんですよぅ、僕はサミューくんを信頼していますからね。 “駆け出し”は短期間で依頼を沢山受けて等級を上げるものと相場が決まっているでしょう?」


 冒険者の等級は“駆け出し”“、若手”、“一人前”、“中堅”、“腕利き”、というように上がってゆく。


 さらに“腕利き”の上に“熟練”という等級があるのだが、これは国が特別に任命するものなのであって無いようなものだ。


 基本的にこなした依頼の成功率や人柄などを受付職員が総合的に判断して等級が上がる。


 “駆け出し”の等級だけはひと月以内に“若手”の等級に上がらなければ免許を取り消されるため、そこで躍起になって依頼をこなせるかも冒険者の適正を見る判断基準となっているのだろう。


 等級が上がれば下の等級の依頼達成を守るため一部を除いた簡単な依頼が受けられなくなり、拒否権の無い指名の依頼をされる事がある。


 その反面で信頼が得られるため依頼達成でもらえる金額が増えたり、冒険者組合に加盟している一部の店で割安で買い物が出来たりと恩恵も大きい。


 そのため冒険者は等級を上げようと必死になり、受付職員は等級を上げる判断を慎重になるのだ。


「先ほどと言っている事が違うのでは?」


 ダブルスタンダードを巧みに使いこなすジョンにサミューの困り顔はますます深まる。


「最近この難易度の依頼を受けてくれる人が少なくって、依頼を出した人も困ってると思うんです。 いきなり“腕利き”向けの依頼をするわけでは無いのですからサミューくん頼みますよ〜」


 人が良いサミューはそう言われてしまうと断る事が出来ない。


 その後も別の依頼を追加されそうになり抵抗したが逆に言いくるめられ、結局5つほどの難易度が高い依頼を押し付けられ退散する羽目となった。

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