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常連さんは異世界人 〜異世界じゃない私のカフェの常連さん  作者: 白井夢子


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12/23

12. モーニングの常連さん達 〜シナモンアップルに埋もれたフレンチトースト


「うわ〜美味しそう。やっぱりBセットにして正解でした。朝からご馳走ですね」


「熱いうちにどうぞ。今日のモーニングBセットの『シナモンアップルに埋もれたフレンチトースト』です。セットのアメリカンも一緒にお待ちしました。今日はミルクとお砂糖なしですね」


「はは。アメリカンに砂糖を入れたら、さすがに甘いもの尽くしになってしまいますからね」


常連さんのコブさんが笑う。




今日のモーニングセットは、『シナモンアップルに埋もれたトーストセット』だ。

皮を剥いたりんごをサイコロ状にカットして、バターで炒めてから砂糖とシナモンを加えて煮詰めたものを、バタートーストの上に乗せるのだ。

それはもう、トーストが埋もれちゃうくらいどっさりと。


Aセットは、シナモンアップルに埋もれている、バタートースト。

Bセットは、シナモンアップルに埋もれている、フレンチトースト。

Bセットの方が150円高い。だけど150円以上の値打ちがあると芽衣奈は思っている。


フレンチトーストは、前もって卵液に漬けていると、中まで液の染み込んだふんわりしっとりフレンチトーストに仕上がるが、今日のモーニングセットはオーダーが入ってから作るので、お手軽タイプのフレンチトーストだ。

だけどしっかり味が染みて美味しいもの。


オーダーが通ったら、食パンを半分にカットして、フォークでカツカツカツカツと突く。突くことで卵液を染み込みやすくする。

それから卵と牛乳とお砂糖と、ほんの少しの塩を混ぜて作った卵液に漬け、最後に温めたフライパンにバターを落として、パンを焼き上げたらフレンチトーストの出来上がりだ。


食パンを卵液に漬けている間に手早くりんご煮を作るので、熱々のフレンチトーストには、熱々のりんご煮が待っている。


出来立て熱々のりんご煮を、出来立て熱々のフレンチトーストに埋もれるほどに乗せて、さらに上から粉糖を振れば、『シナモンアップルに埋もれたフレンチトースト』が完成だ。


これから仕事に向かうお客さんを、勇気づけてくれる逸品になるはず。

コブさんも上品な手つきで、美味しそうに食べてくれていた。




その時またチリンとお店のドアベルが鳴る。


「いらっしゃいませ、ホリーさん」


お店に入ってきたのは、コブさんと同じく朝の常連さんになっている、(おそらく)モグラの異世界人のホリーさんだった。


「おはようございます。今日もカモミールミントティーを頼もうと思ってたんだけど……今日のモーニングセットはとても美味しそうね」


ひとりごとのようにホリーさんが呟くと、同じ朝の常連さん仲間で顔見知りになってきているコブさんがホリーさんに声をかけた。


「今日のモーニングセットは絶品ですよ。私はBセットを頼んだんですけど、これは食べておかないともったいないですよ」


「あら。おはようございます。……本当。とても美味しそうね。私も食べたいわ。だけど仕事に間に合うかしら?」


コブさんの食べているBセットを見て話すホリーさんの言葉に、芽衣奈は笑顔で応えた。


「トーストはホットサンドに変わりますが、10分ほどお時間いただければ、Aセットでテイクアウト出来ますよ。セットのドリンクは、コーヒーか紅茶になっちゃいますが、いかがでしょう?」


「あら、本当に?じゃあそれをお願いするわ。ドリンクはストレートのホットティーで」


「では、ご注文はモーニングAセット『シナモンアップルが埋まったホットサンドセット』、ホットストレートティーで、テイクアウトですね。すぐにご用意しますね」



仕事前の寄り道だ。『時間がないはず』と、芽衣奈は急いで用意を始めた。

りんご煮は熱々を出したいので、オーダーが通ってから作る事にしているが、ちょうど自分用のりんご煮を作っていて助かった。

コブさんがあまりに美味しそうに食べてくれているので、芽衣奈も食べたくなっていたのだ。


ホットサンドメーカーを温めて、サンドイッチ用食パンを置いて、ゴロゴロのりんご煮をたっぷりと乗せ、さらに食パンを乗せて蓋を閉める。

様子を見ながら4〜5分焼いたら完成だ。


焼いている間にホットティーを用意して、ホットサンドが焼き上がったら、ワックスペーパーで軽く包む。

焼きたてパンはしっかり包むと蒸れてベタベタになってしまうので、本当に軽く、ふわりと被せるくらいくらいの気持ちで包むのがポイントだ。


それらを紙袋に入れて芽衣奈が顔を上げると、ホリーさんはカウンター席に後ろ向きに座りながら、テーブル席に座るコブさんと談笑していた。


「まあ、コブさんは毎朝こちらで朝食を食べているんですね」

「はは。シナモンカフェのモーニングは、どれもとても美味しくて毎朝通っています。ここから始まる一日は、仕事がとてもはかどるんですよ」


「あら。それは素敵ね。私も明日はお店で食べようかしら」

「では明日もお会いしそうですね」



楽しそうに会話をする二人は、とても気が合いそうだ。


少し怖そうな外見に反してとても穏やかな話し方をする、(おそらく)蛇の異世界人のコブさん。

初めて会った時は土色だった顔色は、今は健康的な日に焼けた肌色になっている、(おそらく)モグラの異世界人のホリーさん。

お似合いの二人かもしれない。


嬉しそうな二人の顔が何だか幸せそうで、少しだけ待ってから「ご用意出来ましたよ」と芽衣奈は声をかける。


朝一番の常連さん同士、何かが始まりそうな予感に、芽衣奈も幸せな気持ちになった。






またドアベルがチリンと鳴る。


「いらっしゃいませ、ケンタさん」


「おはようございます、メーナさん。表の看板のモーニングメニューを見たら、たまらず扉を開けちゃいました。モーニングセットがりんごトーストなんて最高ですね。Aセット、ホットでお願いします」


人参好きのケンタさんは、りんご好きでもあるらしい。

ケンタさんリクエストのアップルパイは明日のセットメニューにする事を伝えているけど、今日からりんごスイーツを始めるという言葉を覚えていてくれたようだ。


「ご注文はモーニングAセットの『シナモンアップルに埋もれたトーストセット』、ドリンクはホットですね。すぐにご用意します」


にっこりとケンタさんに微笑んで、手早くスッスッとりんごの皮を剥いていく。

りんご煮が出来上がって、トーストに盛り付けて、『トーストを運ぶ前に、テーブルの上の簡易テーブルを用意しなくっちゃ』と顔を上げると、すでにケンタさんが簡易テーブルを用意してくれていた。


「お待たせしました。すみません、テーブルを出してもらってしまいましたね。ありがとうございます」


「いいえ、こちらこそ。このテーブル、私のために用意して下さったんでしょう?とても食べやすくて助かってるんですよ。ありがとうございます」





真夜中のテレビショッピングで思わず買ってしまった、テーブルの上の簡易テーブルは、もしかしたらこれからも活躍してくれるかもしれない。


『こんなに美味しいりんごを一箱セットだなんて。真夜中のテレビショッピングは止められないわね』と、テレビショッピング好きの芽衣奈は考える。




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― 新着の感想 ―
えー ケンタさん、なんか感じが良いっ 爽やかなイケメンなのでは?! おばさま達オススメの方なだけありますね~ 異世界の人だけど恋がいつか始まってしまっても良いんだよメーナちゃん♪ 気になったんですが…
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