表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/108

第十一話 輪廻更生(リイン・カーネーション)[後編②]

大丈夫って死なないって頭で分かってても、身体は`怖い痛い`って叫ぶんだ――by終太郎

「……はぇ?」


 何がどうなってそうなった、と困惑したのも一瞬。さっき聞いた`新スキル`って単語と合わせて考えたら、なんとなく答えが浮かんできた。きっと僕みたいな要更生者やソウシみたいなステータスの目には何も変わってないように見えるだけで、他の人には変わって見えてるアジュバントスキルなんだ……経験則で言うとスキル名は[擬態]ってところかな?


「ぁ、でもリインさんとか英斗くんみたいな人にはどう……って何その顔?」

「いや随分と可愛げなくなっちまったなって」

「そもそも可愛げなんてありませんけど!?」

「初っ端は事あるごとに`何これどうなってんの`って慌てふためいてたのにさー」

「そりゃ魔法とかスキルとは無縁の世界で生きてた……と思うし」


 最後の言葉が尻すぼみになったのは、もちろん生前の記憶に自信がなかったからだ。けどきっとそれ以上に、気掛かりだったからだ……「だなー」と両手を上げて伸びをする代わりに夜空を仰ぐソウシの後ろ姿が。


「そんな平凡なガキがたったの一言で、慌てるより先にその解析をしちまうくらいこの異世界に馴染んだ――強くなったんだよな」


 直前の覚悟のような切ない響きを誤魔化すみたいに、「いやはや感慨深いもんだ」と早口で付け足す声が。ナゾナゾの件もあってどうにも嫌な予感がした僕は、思い切って「やっぱりさっきの……!」とジュリーさんの話を蒸し返そうとしたけど、


「誰かそこにいるのか?」


 それを阻むように声がすぐ向こうから聞こえ……て? ちょ、もしかしなくとも見回りの警備兵!? なんでだよこの時間はこの一角ガラ空きのはずだろ!? 現に昨日まで喋りながら素振りできてたじゃんっ、と僕は両手で口に蓋をしながらソウシを見……っていないんですけどウェアーユー!?


『I`m here』

『お……!』

『[実体化]一時解除&[思念伝達]発動♪』

『……っ前コノヤロ自分だけ逃げたな!?』

『隠れたんだよ。()()()()の傍に俺が見えたら()が見えねぇからな』

『素? 待って確か()()()って――』

「イ、リグなのか?」

「っ……!」


 茫然とした呟きと一緒に、カッと眼球を射してくるランプの灯り。咄嗟に腕で目元に影を作りながら振り返れば、騎士服に身を包んだ青年がひとり驚愕に目を剥いて立っていた。いや、なんか驚愕より畏怖が勝ってるような……イリグさんと同い年くらいに見える彼の、ランプを持っていない方の手。腰の剣に添えられたその手が、薄闇でも分かるくらい震えてるから。


「どうして、逃げたんじゃっ」

「ぁ、僕……じゃない`オレ`は――」


 凄い本当にイリグさんに見えて聞こえてるんだ、と[擬態]スキルに妙に感動できたのも束の間だった。後先考えずに口を開いたばかりか一歩踏み出したのが悪かったのか、


「っのおぉおおわぁあああぁあ……!」


 青年がランプを投げつけてきたって危な! 間一髪屈んで避けたけど続けざまに抜き身振り下ろされるし! 奥へ逃げたら逃げたでランプの火が燃え移った植木に火傷負わされそうになるしまぁそっちは大丈夫なんだけど!


「ちょっと待っ、落ち着……っけてのも無理かイリグさん追われる身だもんな!?」


 中身は僕ですけどと小声で叫びつつ、とりあえず小火を掻い潜って城の裏のさらに奥へ……城下街に向かわない方がいいっていう直感は正解だったみたいだ。


「おいどうしっ……貴様は!」

「破壊と再生のっ、戻ってきたのか!?」


 青年の奇声と小火に釣られて、警備兵が続々と集まってくる。街に逃げてたらイリグさんの平穏な生活を彼の与り知らぬところで破産レベルで大売り出ししちゃってたよ、ってそれはそうとこの状況どうすりゃいいんだよ!?


 理不尽なまでに出鱈目に飛んでくる[ファイエス]や燃えかけた植木ごと刈り取る[ブレイトルネード]、巨人の掌みたいに降ってくる[フィッシャートラップ]などなどを躱しながら心中で訴える。そしたら『ハァ~…ったくよ』って溜息吐かれたんだけど何で!?


『余裕のねぇ土壇場でコレじゃ、やっぱまだまだ目が離せねぇなー』

『お前は僕をエリートエージェントにでもしてぇの!? 現在進行形で攻撃全回避できてるだけでも褒めてほしいんだけど!?』


 [バリアモンド]使ったら偽イリグさんだってバレるから、と飛んできた火の玉をイナバウアーで避けてさらに奥へ逃げ……ようと思ったけど無理臭いな。点々と凸凹に僕らを取り囲む灯りを見回しながら、踏み出しかけた足を一度引っ込める。目の前で掲げられたランプは結構眩しかったから、そこそこ相手との距離は開いてると思うけど……突破するにはちょっと間隔がなぁ。


「なぜ、戻ってきた」


 副リーダー的立ち位置の人、なのかな? 最初にランプを投げつけてきた、怯え続けてるくせに今もなぜか最前に出ている青年を庇うように下がらせて僕に問うてくる。六年経った今になって何故って……なんか、変に思えるのは僕だけかな? ハルデルトさんは口調は丁寧でも問答無用感が出てたのに、この警備兵たちにはそれがない。逮捕よりもイリグさんが戻ってきた理由、目的を知りたがってる。


「オレが戻ると、そんなに拙いかな?」


 ……いや拙いに決まってんだろ脱走兵だぞ逃げるだけでもアレなのに戻ってくるとかナメてんのかお前ってなるじゃん火炎瓶にガソリンじゃん! どんな返しがきてもイリグさんとして平常でいられるようにと先に自己ツッコミを済ませたけど、


「お前がいると俺たちが`人`じゃなくなるんだよっ」


 その必要はなかったかもなー……見れなくなるかもしれなかった`素`ってこういうことだったのかよソウシ。視線は果敢にもというか律儀にもというかとにかく性懲りもなく噛みついてきた青年に、意識はこの事態を見越して引っ込んだらしい相棒へ向ける。


 と、耳元を「やっぱ俺って天才(カンスト)してるわ~」と薄らムカつく笑みが掠めてった気がした。思わずベチッて蚊を潰すみたいに耳叩いたら`人じゃなくなる`への反応だと思ったのか、辺りの空気がビクつく……そんな怖い? 総攻撃受けても一度だって反撃してないのに。


――理性をゆっくりと喰われてくのは、大袈裟でも何でもなく恐怖だ。でもオレは思うんだ……理性をゆっくりと繋ぎ治すのは、それ以上の恐怖だって


「……オレの治癒は、必要なかったんだな」

「いいえ、助かってはいました。貴方の才能は本物だ……ただ」


 ()()()()()()()()()()()()、と副リーダーの彼が続ける。基礎中の基礎である回復魔法の[ケアリー]でも、ひとたび貴方が唱えれば目に届く範囲の傷という傷は跡形もなく治る。それこそ怪我なんて最初から存在しなかったかのように。


 斬りつけられても落ちない腕や、骨を砕かれても崩折れない足。土手っ腹を撃ち抜かれても軸のブレない胴体などはともすれば「自身が無敵になった」と錯覚してしまうほどの異常な回復力を騎士たちに齎してた。


 斯く言う副リーダーも「聖騎士に手が届くやもしれん」と身の程知らずにも舞い上がっていたそうだ……ふと、シェリーさん達との戦いの後にソウシが教えてくれた`強者こそヒトを人たらしめる痛みを覚えておかないと駄目`って言葉が頭を過ぎる。


『……ていうか`目に届く範囲が回復可能`ってヤバくない?』


 本当に一瞬のことだったけど。


『それで無詠唱ってもう息をするように治せるってことじゃん!』

『んな驚くことかよ。俺だって本気出せば――』

『お前はお前で本当に息をするように張り合うよな!?』

「だがある時気づいたのだ、()()()()()()()()()()()()()()()()のだと」

「……言い得て妙だな」


 あー自分でやってる事とはいえ、内心と外面のこのテンション差キツいよ――慣れない芝居を言い訳にするつもりはないけど、ボロを出さないようにとそればかりに注意を向けていた僕は気づくのが遅れた。


「傷はないのに、身体から痛みが消えないんですよ」

「っ……」


 話し続ける副リーダーの騎士の目は、とっくに恐怖を思い出していた。ともすれば最初に噛みついてきた騎士より虚ろかもしれない……そりゃそうか。`副`って頭につくんだから戦いの場でもそれ相応の位置に、最前線の一歩手前にいたはずだから。ザザッと靴裏を引きずって後退れば、腹の辺りにザッと半円の軌跡が迫った……危なっ。下がったから斬りかかってきたのかと思ったけど、下がらなかったら腹掻っ裂かれてたよ!


「ないはずの痛みはいくら積み重なっても傍目には分からない」

「だからどんどん過酷な地へ派遣される」

「魔獣が吐いた毒ガスで肺が焼けそうなのに呼吸が苦しくない」

「マグマで肉骨が焼け爛れる感覚だけが忘れられない」

「凍りついて千切れたはずの指が元通りになってる」

「風魔法で剥がれ落ちたはずの皮膚がそこにあるんだ……貴方に分かるか?」


 この感覚、と声とは正反対の方角から刃が飛んでくる。幸いソウシのステータスで五感のレベルも上がってるから、空気が裂ける音と向きを拾うことでなんとか躱せたけど。[ロードスキップ]使ってるのかと思ったけど何てことない、ただ副リーダーの一閃を引き金に他の騎士たちも参戦してきただけだった。いや`だけ`って言い切るには連帯感ハンパないけど。声の対称方向から斬りかかってくるって分かってても声のほうに持って行かれそうになる……圧の吸引力ってやつかな。


『言うまでもねぇけど、後ろ崖だぞ』

『……ぇ、マジ?』


 コロンッと小石の遠くなっていく音、うんマジだわ。すぐにコツッて聞こえたからそんなに高い崖じゃない、のは確かだけど……おずおずと視線を正面に戻せば、ずらりと立ち並ぶ縦軸の白銀が窺えた。消えたランプよりも影のほうが存在感強って、騎士ってやつをちょっと甘く見てたかも。


「貴方の脱走が、我々にとってどれだけ……!」

「…………」


 そういうことか――先が読めたからこそそれ以上聞きたくなくて、僕は自分から崖の向こうに飛び降下りた。空中への背面ダイブ、思ってたより怖くないな。足場と人の気配がぐんぐん速度を上げて遠くに……嘘やっぱり僕一人だったら余裕で怖いっていうかそもそも命が危うい!


(そうだ、大丈夫って死なないって頭で分かってても身体は`怖い痛い`って叫ぶんだ)


 最強ステータスにマンツーマンで四六時中守ってもらってる僕だってそうなんだ……だから()()()()()()()()()()()()()のが怖いって騎士たちの気持ちはよく分か、違うな想像できる。できる、けど。


『イリグさん、辛かっただろうな』


 お父さんにリークされて強制的に連れて来られただけでもしんどいのに、仲間からも「いなくなってくれた方が救いだ」なんて思われて……脱走のことをエリムちゃんが知ってたのは、イリグさんという延命措置がいなくなったことで騎士団が危険地帯に踏み込めなくなったからだ。伏せてても人の耳に入ってしまうほどの、危険地帯に。


――オレにはマユリカみたいな怒りはない、けど焦りはある


「優しすぎるよ、怒ったって全然いいのに」

「そうじゃねぇ、憤怒もちゃんとある」

「ぁ、ソウシ戻っ――」

「ただ焦燥感が上回ってんだろうよ、主にマユリカへの」

「ぇ、は……え!? どういっ、んご!」


 せ、背中と後頭部へダイレクト鈍痛が……そりゃこんだけ考えまくってたら地上へ着いちゃうよね。まぁ普通の人なら待ったなしで即死だから、この程度で済んでるのは本当に有難いことだけど……それでも身構える時間は欲しかったなぁ。むくりと起き上がって隣を見れば、[実体化]したソウシがやけにジッと後ろを見つめていた。なんで上じゃなくて後ろを?



 タタタタタッ。



 ……足音? 追っ手!? ぐるっと下りて回ってきた!? え、どうしよ[擬態]スキルどうなってる!? 続行中それとも切れた!?


「ちょっと!」

「ぁああの僕、じゃなくてオレ……え?」


 キツいけど、鈴の音みたいな声。ソウシが見つめる先、そして僕が振り返った先にいたのは驚くことにやっぱりリインさんだった。偶然、にしては場所が場所だから騒ぎを聞きつけて来てくれたのかな? 何にせよ追っ手の警備兵じゃなくてよかったと胸を撫で下ろした刹那、リインさんの肩もまた酷く脱力したように見えた。


「……っの…」

「ぇ、リインさ――」



 バチンッ。



「っ……へ?」

「くっっっっそ馬鹿バディが」


 二度とアタシの前で飛ぶな――大股で歩み寄ってきた彼女の平手打ちが炸裂した先は、反射的に目を瞑った僕じゃなくてソウシの無防備な横面だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ