9話.チームメイト
クソ眠い。
僕は自宅の鍵をしっかり閉め、校舎へと向かう。
それもこれも裕之のせいだ。
あいつが凄い気がかりなこと言って帰って行ったせいであまり眠れなかったんだが。
いや、凄い気がかりだ。
なに、僕が何かしたの?
保健室の先生もそうだったけど、女子を辱めた系の話?
やだよ。
変に男子から絡まれるのって……
寮から校舎までの距離は800メートルほど。
この800メートルの間に喧嘩を売られたら、完全に僕が何かをやらかしている。
そう、確信している!
「おはようございます」
早速来たか!
僕は背後に振り返って一言告げる。
「おはようございます」
「広輝、目の下に隈が出来てるけど大丈夫か?」
ああ、誰かと思えばこの隈を作ってくれた元凶の裕之じゃないか。
「ああ、おはよう……誰のせいだろうな、この隈」
「え、奇襲でも受けた?」
今時、夜に奇襲なんてあるのか?
というか学校の寮で奇襲なんてありえないだろ。
「受けてねぇよ。お前のせいだよ、裕之!」
「あ、昨日のことが気がかりになってたの?」
「ああ、それのせいで今日の朝どんな仕打ちが待っているかを恐れるだけで夜も眠れなかったよ」
「うん、星野さんに手を出していなくて良かったね。星野さん、学年でもかなりの人気者だから手を出してたら……きっと今頃肉塊にされてるんじゃないかな」
こ、こいつ、なんていうことを平然と言っている。
なに、肉塊……それってどんな仕打ち受ければそうなるの?
「そういえば坂本くんはもう決まった?」
「なにが?」
「団体戦のチームメンバー」
ああ、例の大会のことか。
「あ!」
星野さんへの返答考えてなかった……
「どうした広輝?」
「チームメンバーの件。完璧に忘れてた……返答どうしよう………」
「チームメンバーの件ってもう誰かに誘われてるの?」
確か昨日の帰りのホームルームで通達されたらしいから早いのかな。
「まぁ、一応」
「誰に?」
「星野さんに」
「え、まさか……な。ありえないだろ……」
「いや、マジだよ」
「広輝」
裕之が急に満面の笑みを浮かべる。
「どうした?」
「広輝の未来は白紙だね。運良ければ全治2ヶ月、悪ければ完全消滅ってところかな」
なに、大会ってそんなに危ないの?
運が悪いと完全消滅させられるの?
「僕、死ぬのか?」
「おそれがある」
「どうして?」
「星野さんは学年の可愛い子ランキングベスト4位の少女。そんな子が昨日転校してきた少年とチームを組んだら、それは怨みを買うだろう。こういうのを見越して星野さんと接している人も何人かいるだろうから」
戦力じゃなくて可愛さで考えてる奴なんているの?
「いや、必要なのは中身だろ。どんなに可愛くても戦力にならなかったらチーム戦としては需要ないだろ」
「まぁね。けど広輝は性格さえ良ければチームの主戦力になれるからね」
僕、性格悪かったっけ?
「僕、性格悪いか?」
「微妙……まだどんな人だかはっきりわからないからね」
確かにそうだ。
「まぁ、少年。これからの人生に苦難がどれほどあろうとも頑張って生き抜きたまえ!」
「それ誰視点だよ」
「神様視点かな」
こいつがどんなキャラなのかもわからねぇ……
「とりあえず学校に言ったらどう対応すべきか……」
「普通にチームを組んだら良いと思う」
「あの……すいません………」
「裕之だったらどうする?
「あの…すみません………」
「広輝、お前呼ばれてるぞ」
「え、僕?」
さっきまで誰かが誰かに話しかけてたけどその相手が僕。
あ、これは肉塊にされる可能性がある。
僕は後ろに振り返る。
そこには茶色い髪の女子が一人いた。
相手が女子となれば危険だ。
見た感じ人見知りのようだが、女子に変わりはない。
警戒を怠らず、何か不審な点があったら速攻離脱!
「あの僕ですか?」
「はい……坂本くんです。あのおは、お話ししたい事があるのでお時間を少し頂いてもよろしいでしょうか?」
なんで敬語なんだろう?
というか話したいことって一体何だろう?
嫌な予感がするんだけど。
「裕之どうしたらいい?」
「普通に話したらいい」
「普通にって?」
「普通に相手の話を聞いて返答していればいい。あ、僕がいたら話せないか?」
いや、そうじゃないから。
頼む裕之察してくれ!
「あの坂本くん、少しで良いのでお話ししませんか?」
これはまずい。
絶対に肉塊レベルにまで分解されるって。
だって僕はこの学校に通い始めてまだ通算1日。
女子に愛想を振りまいた覚えはないし……というか多分嫌われてるし。
男子からはきっと嫌われているだろうし。
「裕之、ちょっと一緒に話を聞いてくれ……」
裕之は真顔だった。
察しろよ。
なぁ、察してくれよ。
この後は人気のない教室に僕を連れて行き、肉塊へと作り変える気だ。
「僕はお邪魔みたいだから先に教室に行ってるよ。二人でごゆっくりどうぞ」
マジで察してくれ。
僕が肉塊にされた後、証人としてお前が必要なんだ。
「ちょっと待て……頼むから一緒に……」
「広輝、グットラック!」
そういうと裕之は昇降口の方へ走って行った。
あいつ………裏切ったな。
いや、この女子って相当強いのか?
だから裕之は逃げていったのか?
それとも普通に裏切られたのか?
どちらにしろ僕の未来は死だ。
運が良くて全治2ヶ月か……
自分の運にはあまり自信がない。
だから期待はしていないけど死なない程度の戒めであることを僕は望む。
「坂本くん、その昨日のことなんですが……」
「昨日のこと……ですか?」
「は、はい……昨日のことは本当ですよね」
な、何が!
昨日のことって何?
何のことを指しているんだ。
というかまず名前すら知らない女子と僕は何を話したんだ?
話した記憶が全くないんだが……
「えっと……坂本くんですよね」
「はい、坂本です」
「昨日のこと……覚えてませんか?」
昨日のこと覚えてませんか?って言われても覚えてないよ。
僕の知らないところで僕は一体何をしたんだ!
この状況を変えられる何かが僕の周囲には……ない。
やばい、校舎までの道で二人が立ち止まっている謎の気まずそうな状況に周囲の人は誰もが目を背けてる。
ここに我を救済する救世主はいないのか!
とりあえずここは………
「まず君の名前を教えてもらってもいい?」
「え、あ、すみません。私は犬山恵美と申します。その昨日はありがとうございます」
「はい………」
昨日のことの心当たりがどうにもないけどいつ起きたのかは心当たりがある。
きっとアレだ。
保健室の先生が言ってた心臓を破壊された後の戦闘で犬山さんと接触したんだ。
「その犬山さん」
「はい……」
「このお話は今日のお昼休みに話しませんか?」
「わかりました。どこに行ったらいいでしょうか?」
「普通に僕の机のところに来てもらえれば………」
「わかりました。では先に学校に行ってますね」
「はい」
先も何も僕とこの女子って同じクラスメイトじゃなかったっけ?