8話.クラスメイト
僕はあの後、教室から寮の部屋へと帰還した。
帰還した後は食事を取ろうと思っていた。
けどなんかひとりぼっちになったからだろうか、ドッと疲れが押し寄せてきた。
確かにこれで運動なんてしたら明日はもっと動けないだろう。
というわけでベットで2、3時間ほど休息を取った。
保健室でも寝ていたわけだが、やはり枕の違いで睡眠というものは大きく変わるな。
まぁ、起きてまず思ったことはお腹が減ったということ。
中学時代は家に帰って寝る。
そして喜菜香が優しく、時に激しく起こしに来る。
そして晩御飯っていう日課だったから晩御飯が準備されてないとなんかガッカリ。
掛け時計の時間を見ると7時半。
この学校で食事を取る時には二つの方法がある。
食堂に食べに行くか、自分で作るか。
自分で作るのはまず無理。
何故かって?
いや、だって両親死んでからずっと喜菜香が料理作ってくれてたから料理は一度もしていない。
だから自慢ではないが、僕が使える料理道具はピーラーしかない!
だが貴様らピーラーを侮るでないぞ。
ピーラーがあればジャガイモの皮を剥いた上に芽を綺麗にくり抜くことも可能なのだよ。
そして我のピーラーを使う手捌きは喜菜香よりも上手い。
だから……なんだろう。
つまりピーラー舐めんなよ!って事だよ。
そしてもう一つ食堂に夕食を食べに行くという方法が残っているが、この疲労では外出する気が点で湧かない。
というわけで今晩はカップ焼きそば先輩を我が食卓に降臨させるしかない!
ちなみにカップ焼きそば先輩は近くのスーパーの朝市で購入して来た。
お一人様二点までだったが、喜菜香と一緒に買いに行き、二人で4買っては家に置きに帰る。
4つ買って帰る、を繰り返していたため先輩は60体いるのである。
60体いれば朝と晩で2つ食しても30日持つ。
時々、食堂に食べに行けば良いと思ってるから夏休みまで問題はない。
まぁ、肝心な湯沸かし器を忘れてきたってことに気づいたのはかやくを入れた後だった。
「しょうがない……」
どうやらやかんに水を入れてコンロにかけるしかないようだ。
僕の能力で火も操れれば便利だったのに……じゃない。
今はそんなことを考えるよりもっと重要なことがあるだろう。
「星野さんとチームを組むべきなのだろうか……それとも組まない方が良いのだろうか………」
正直、本心は組みたい。
今のところ信頼できる人は星野さんだけだからその関係を絶やしたくない。
僕はアニオタで中二病の超隠キャだと思っている。
だけど最低限度の人間関係は持ちたいと考えている隠キャだ。
けどそれでは星野さんの人間関係に問題が出てしまうかもしれない。
そこを考慮すると組まない方が良い気がする。
けど……星野さんが組みたいと言っているのだから素直に組むべきなのか。
コン…コンコン………
ドアが数回ノックされる音が聞こえる。
だ、誰じゃ。
我が苦悶する中、我の部屋に訪ねて来る愚かなる者は!
じゃないない。
「はーい」
僕はとりあえず玄関前へと向かう。
「どちら様ですか?」
ドアの向こうの者に問う。
「こ、こんばんわ。僕は1ーAの吉永裕之と申します。今日の帰りのホームルームの時間に配られたプリントを渡しに来ました」
なんか唐突に知らない名前の人が来てちょっと驚いたけどクラスメイトっぽいな。
「わかりました。今、ドア開けますね」
僕はそう言ってドアを開ける。
そこには一人の女子生徒……いや、制服がズボンだから男子生徒か?
まぁ、人間がいた。
「あの……プリントを届けに来ました」
「ありがとうございます」
僕はプリントを受け取るとゆっくりと疑問をぶつける。
「ところで……」
「はい」
僕は一歩後退り臨戦態勢に入る。
「性別……男ですよね」
仮にこいつが女だった時、何をされるかわからない。
「うん、そうだけど……」
顔立ちや仕草、声のトーンなどは女子そのもの。
だけど制服が男子。
「もしかしてまたなってるのかな……」
「また?」
「ちょっと待って……」
そういうと吉永さんの輪郭が少し変わった気がする。
正確に言うと顔立ちがさっきよりしっかりした感じ。
これは能力か?
「吉永さん、それは能力ですか?」
「え、うん、僕の能力。それに僕のことは裕之で良いよ」
あ、声のトーンが変わった。
これはつまりなんだ。
能力的には性別変換的なやつか。
古いアニメでそれを主にしたアニメがあったな。
「坂本さん。今日ずっと話しづらかったんだけど、ちょっと色々話さない?」
これはクラス内部のことを色々知れるのでは!
そして多少の人間関係確保につながるのでは!
「僕も広輝で良いよ。うん、僕もクラスの男子とちょっと喋りたかったから別に良いよ。部屋にどうぞ」
「じゃあお邪魔します」
僕は裕之をリビングの机に案内する。
というかこいつと僕の名前似てるな。
だって広輝と裕之だぞ。
ただ間にゆが入ってるか、入ってないかだから間違えて反応しそうだ。
「それで広輝はこれから晩御飯?」
「ああ、なんか学校から帰ったらすごい怠かったからちょっと寝てた」
「そうなんだ……確かに実戦の時の広輝はすごかったね」
すごかった、って僕は一体何をした?
すごい気になるんだけど……
あ、けどこれを機に聞けば良いのか。
「何か飲み物飲む?うちは今、お茶と水道水と炭酸飲料しかないけど…どうする?」
「じゃあお茶で」
「緑茶?麦茶?」
「じゃあ麦茶」
「麦茶ね」
ちなみにカップ焼きそば先輩とともに飲み物もいくつかの種類を数本ずつ買い置きしてある。
だから飲み物にも基本困らない。
僕は冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出してコップに注ぐ。
「ちょっと聞いて良い?」
「うん」
「実戦の時の僕ってどんな感じだったの?」
「どんなって……単純に悪魔のようでした」
悪魔か……
そんな酷いことしてたのかな。
「広輝は覚えてないの?」
「覚えてないよ。ほい、麦茶」
「ありがとう」
全くもって意識がございませんでした!
「よくわからないけど気づいたら保健室にいたから。実際僕自身、何をしたのかすごい気になるから教えてもらってもいい?」
「別に良いけど……僕の能力は非戦闘系能力だから前線にいなかったから詳しくは説明できないよ」
裕之は麦茶を飲むとゆっくり言う。
「わかる範囲でいいから……」
「わかった。僕はずっと隠れて気づかれては逃げて〜気づかれては逃げて〜を繰り返してました」
なんだその物語風の喋り方は。
「けど非戦闘系能力だからと言っても多少抵抗は出来るだろ?」
「いや、あまり出来ないよ」
「というか裕之の能力って何なの?」
「僕の能力ですか?そんな広輝くんみたいにそんな人に誇れるものじゃないですよ」
人に誇れるものではない。
けど能力は能力。
能力を持っていない人に言えばとても怨みを買うことになるだろう。
「僕の能力は百面相です」
「百面相?」
「百面相はかの有名な怪人百面相の持っていた能力らしいです。能力としては顔や声を自由に変えることができます」
「その他には?」
「相手の顔と同じ顔になれます」
え、何それ。
すごい気になる!
「ちょっとやってみてよ」
「わかりました。では、ちょっと反対側向いてください」
「うん」
僕は指示通り裕之と反対の方を向く。
「もう良いですよ」
え、後ろ向いてからまだ5秒もたってないぞ。
僕は裕之の方を向く。
そこにはもう裕之はいなかった。
裕之の顔が僕の顔に変わっていた。
「すご!これって二人並んで写真撮ったら、今はやりのインスタ映えするんじゃね」
「そうかな。けど実際これだけであとは武装を展開するぐらいしかできないから……」
「武装も展開できるの?」
「え、うん、出来るよ」
「裕之、お前はクラスで優等生なのか?」
「いや、平均だよ。それにこの能力にも発動条件がいくつかあるから使えないよ」
「発動条件ってどんなのがあるんだ?」
「まず自身の顔が視認されていないこととか対象の顔を正確ににイメージするとか」
じゃあ意外と発動は大変なのか。
「まぁ、発動しても相手を攻撃できるわけではないからね」
「そうなのか……」
だけどなんだかな……
目の前に自分と同じ顔のやつが同じ声のトーンで話してくるって普通に違和感がある。
「そろそろ戻りますね」
裕之の輪郭が少し歪む。
そしてあっという間に元の裕之の顔に戻ってしまった。
例え、非戦闘能力でもスパイとして働けば強いんじゃないの。
というか武装展開出来るだけでもかなりすごいからスパイいけるよ、絶対。
「じゃあ続きを話すね」
「うん」
「それで僕がちょうど森の中に隠れている時、空から人が飛来するのが見えました」
あ、心当たりがある。
「それって星野さん?」
「え、あ、はい。よくわかりましたね」
だって僕が投げたんだもん。
自慢できることじゃないけど。
「まぁ、それでどうしたの?」
「それで街の方からあまりにも勢いよく飛んで来たので安否を確認しに行きました」
あ、確認しに行ったんだ。
「星野さんは?」
「星野さんは森の中にある湖に着水していました。気を失っていたようなので湖から引き上げようと湖の中に飛び込みました」
「おお、勇者だ!」
これは人間として勇者なのでは。
人を助けるために自らも湖に身を投じる。
英雄だじゃん。
「そしてどうなったんだ?」
裕之は麦茶を飲み干すと真顔で言った。
「そして僕は溺死しました」
「何でだよ!」
いや、湖に飛び込んで華麗に助けたのかと思ったら溺死って何?
星野さんはどうなったの?
「いや〜実は僕、カナヅチなもので全く泳げないということを忘れていまして……」
「なんで忘れてるの!重要だよ、そこ」
「星野さんの事が不安になって助けようと思った頃には体が勝手に……」
なんだよそれ!
「カッコいいことしようとしてるんだからちゃんと救い出せよ!」
というかそれと僕の悪魔要素の関係性が見出せないのは僕だけか?
「それでこの話と僕の悪魔要素のどこが関係があるの?」
「え、女の子を吹き飛ばすなんて男として…いや、人間として最低。悪魔だと思うよ」
「じゃあ具体的な戦闘は一度も見てないんじゃないか?」
「いや、ちゃんと寮の部屋に戻ってから確認したよ」
「寮の部屋に戻ってから確認ってどういうこと?」
「あ、まだ先生からIDとパスワードもらってない?この学校の生徒は入学時に学校で使用するためのアカウントが配布されるんだよ」
何それ聞いてねぇ……
「へぇーアカウントがあるとどうなるの?」
「アカウントがあると実戦での自分の行動や相手の行動などを確認出来るんだよ」
つまり今回の実戦を踏まえて次回はどう立ち回るかを考えるためなのだろう。
というか映像に僕が撮られてたらロクなことしてないんだけど。
ビルの屋上でパソコンいじって遊んでました。
なんて口が裂けても言えないのに、それを映像に撮られているということは……次の授業で三枝先生に殺されるやつじゃん。
「広輝くんは前半は様子見って感じだったね」
様子見もクソもねぇよ。
思いっきりエンジョイしてました。
「ま、まぁな。無駄な体力を消費して最後に地獄を見たくはなかったからな」
「流石、今回の優勝者!」
「え、なに…今回の優勝って僕なの?」
「当たり前じゃん。あの鬼強状態の広輝に勝てるやつはいないだろ……」
「なに、そんなにヤバかったの?」
「ああ、あの戦闘スタイルは下手しなくても物理法則を破ってるよ」
「そうか……ついに我は神をも上回る力を手に入れたのか………」
「確かに神にも等しかったな」
神にも等しいとまで言われるということはそれ相応に凄かったのだろう。
よし、今度確認しよう、そうしよう!
あれ、そういえば投げ飛ばした星野さんはどうなったんだ?
「そういえば裕之が溺死した後、星野さんはどうなったんだ?」
「それは……」
裕之が急に口籠る。
おい、何故そこで静かになる。
なに、僕が変なことそこでしたか?
「何か僕がしでかしたか?」
裕之は首を縦に振る。
うん、僕は何かをしたようだ。
「な、なにをしたんだ……」
「本人に聞いてみると良いよ」
「何その意味深な対応、怖いんだけど!」
「まぁ、明日学校に行けばすべて理解できると思うよ」
だから、その明日になればすべてわかるとかロクでもない事が起きるフラグを立てるなよ!
いや、もうこれは過去に起きたことだから今立ったわけではないのか?
どちらにしろ明日学校に行くのが怖いじゃん!




