第26話 何が為に
や、やっと出来た…遅くなって申し訳ありません。全ては文章力が低い癖に高みをのぞむ作者の責任です。どうかもう少し付き合ってやってくださいw
コーン!カーン!コーン!
リズムよくハンマーが釘を叩く。その音は夜の室内によく響き…
「あぁ〜…うるさいなぁもう!夜にまでやらなくたっていいじゃないか!」
兎に角うるさかった。
「まぁいいじゃねぇか、デカくなるんだろ?」
「そりゃそうですけど…大使館になるんですよね?下手すりゃ僕等、追い出されますよ?」
「マジで⁉︎」
「団長が謎の発言力ですから、多分大丈夫だとは思いますが…」
日ノ本の改装増築。それは急ピッチで進められ、夜間も結構させれていた。
リースは机に突っ伏し、耳に指を突っ込んでいる。獣人の彼にとってこの音は公害でしかない。対してダンキはその性格もあいまって全く気に留めていない。
「なら大丈夫か?しっかし、どうせデカくするなら俺の部屋もデカくしてくんねぇかなぁ?狭くて素振りもできやしねぇ」
「団長から借りてるんだから、ダンキさんの部屋ではないでしょうが…まぁ、この調子でいけば広くしてくれるんじゃないですか?なんか両隣の家飲み込んじゃいましたし…昨日、裏手の家にも交渉人っぽい人が入って行きましたよ」
「どんだけ広くする気だよ…」
二人は日ノ本のロビーにあるテーブルに対面して座り、そしてそんなたわいもない話をしている。
そんな時、リースの頭上に黒い物体が出現した。
「あ…」
それに気づいたダンキだったが、もう遅い。それは机に突っ伏したリース君の頭へ落下しーー
「ぷぎゃ⁉︎」
ーー顔面を机にメリ込ませた。
「な……に…⁉︎」
黒い物体が喋る。いや、よくよく見ればそれは鎧だ。全身に軽い鎧を着た身長180超えの騎士。
ハング・ダルカンがそこには立っていた。
まるでボクシングの様な構えを取りながらも、左手には逆手に剣を握っている。そして足元にはリースの頭部。
「一体…何が起こったと言う⁉︎」
「いや、そりゃコッチのセリフなんだけど…団長と王都に行ったんじゃねかったのか?つかどっから出てきたよ」
「こ、ここは…ブルー殿の…」
そうこうしていると、もう一つの塊がハングの頭上に出現する。
「ッ⁉︎」
「うわぁあ⁉︎」
降って来たのはカル・フリオート。ハングはとっさに回避し、地面へと着地したが、最初から横向きになっていたカルはそのまま落下する。
「ぐはっ…!」
重装備のカルに耐え兼ね、机は壊れてしまう。そしてそのまま床へと落ちた。
リースごと。
「いつつ…ハッ!一体何が!」
「貴女もですかカル!」
「へ?ハング殿⁉︎こ、ここは⁉︎」
「なッ⁉︎」
落下物は更に増える。ハングとカルの間に落ちて来たのは白い翼を生やした黒騎士。ボーグ・ロットだ。彼は翼を巧みに使い、落下する前に体制を立て直す。
「クソッ‼︎私とした事が…‼︎」
ボーグは唯一状況を理解しているようで、降り立ちながら顔を青くし、手で顔を覆った。
「何事ですか⁉︎」
そこへ騒ぎを聞きつけたラギアンが登場。場を見渡し、驚愕の表情を浮かべる。
「貴方達はディアナ姫の…団長は!エティアさんとツァイさんはどうしたんですか‼︎」
「まぁまぁ、落ち着けよラギアン。取り敢えず話を聞こうぜ?」
ただ事でない事を察したラギアンは、鬼気迫ると言った具合に三人に詰め寄る。それをダンキが宥めるが、当の三人もそれどころでは無かった。
「そんな場合ではありませんよ!くッ…カル、ハング!今すぐ出発の準備を!」
「しかしッ…今からでは…!」
「どうやっても半日はかかる!」
「そんな事は分かっています!ですから一刻も早く行動しなくては!」
「ボーグ殿!落ち着いて下さい‼︎」
「コレが落ち着いていられるものかッ‼︎」
もしこの場に他のメンバーがいたら驚いていた事だろう。普段冷静沈着なボーグは見た事もない表情を浮かべながら冷や汗をダラダラと流している。押さえつけようとしているカルとハングは逆に引きづられ始めていた。
そこへラギアンが詰め寄ろうとしているのだ、今はダンキに抑えられているが、彼もまた普段の冷静さを欠いている様子で、いつまで持つかは分かったものではない。
冷静な筈の者が取り乱し、怒りやすい者がそれを抑える、何ともおかしな光景。
日ノ本はすっかり騒乱に包まれ、室内の殆どの者はどうしていいか分からないと言った具合。
そして遂にダンキが弾き飛ばされ、ラギアンが踏み出した。
「すみませんダンキさん、しかし、事は一刻も争うそうです…」
「あぁもう、好きにしろ」
ラギアンはボーグの前に立ちはだかると、ボーグの身に触れる。すると彼の動は止まってしまう。
どれだけ前に出ようとしても、まるでそれに合わせて押し返される様に進めない。
「なに⁉︎」
「答えるまで動けませんよ?それで、何があったのですか?団長は?他の皆さんは?」
その事で冷静さを取り戻したのか、ボーグは語り出す。
「…ここから馬車で4日、西に向かったところで襲撃を受けました…敵の数は不明、恐らく1000人前後かと…彼等は転移魔法と言う瞬間移動の様な魔法を扱える様で、突然我々の前に立ちはだかり、奇襲を仕掛けて来ました。恐らく我々にも転移魔法を使ったのでしょう、気づけばここに…ディアナ姫とブルーさんは一緒の筈です。それと、ツァイさんとエティアさんが戻ってないと言う事は、彼女達もまだ向こういるのでしょう、他に途中で護衛として雇ったヴァッシュ・ヘイラーなるAランク冒険者も残っている筈です」
聞きながらハングが青ざめる。恐る恐ると言った具合に口を開くが、その声は少し震えていた。
「…あの男は俺と一緒に戦っていた筈…何故、ここにいないのだ?いや、俺はあの男に背を押され…」
「まさか…Aランク冒険者まで敵にいると言うのですか⁉︎」
「かも…しれん…」
「くっ‼︎馬車は一日どの程度走らせましたか!場所は‼︎草原ですか⁉︎森ですか⁉︎街ですか⁉︎」
「街です。場所は半日と少し走らせ、疲れた際には休憩をとりました」
「となるとホート領ですか…!分かりました、私が先行します」
「話を聞いていなかったなか⁉︎肉体強化した上で走り続けても半日はかかるんだぞ⁉︎」
「私は唯一団長に勝る物があるんですよ…」
「何を言って…?」
「それは…スピードです」
瞬間、ラギアンが消える。
そう皆が認識した時には、暴風が室内で暴れ回っていた。三人は何とか踏ん張りながらも、驚愕を隠せない。
(コレは‼︎ブルーさん以外にこんな逸材がいるとは‼︎タダでさえあんな化物がいると言うのに…ここの戦力は一体どうなっている⁉︎)
そんな事を考えながらリュシィの方をチラリと見る、すると、その風を物ともせず窓際から外を見ていたリュシィが反応した。
「なによ?」
「い、いえ何でも…」
(よ、読まれた⁉︎)
そうしている内に暴風はおさまり、ボーグ達も出発の準備を始めた。
「お前はいかねぇのか?」
「いいわよ、どうせブルーが勝つもの。そう言うアンタは?」
「今の俺がいっても足手まといだからなぁ…第一、間に合わねぇだろうし?ま、気楽に待つさ」
「あっそ」
その頃、暴風に吹き飛ばされ、今度は壁に突き刺さる羽目になったリースはと言うと…
(僕が何をしたって言うんだ…)
理不尽に嘆いていた。
---------------------
「どうしたブルー!お前は足の速いヤツだと思ったんだけどなァ‼︎」
「ぐぅ…!」
猛攻、繰り出される連撃をブルーは防ぐ事しか出来ない。
刃が眼前を通り過ぎ、刀に衝撃を受ける。ただ凌ぐ、ただ防ぐ。
否、それしかしていないのだ。
(反撃しろ!反撃しろ‼︎反撃しろよ俺!!!)
頭で分かっていても体が動かない、思い出すはこの3日間の記憶、それは決して特別な3日間ではなかった。たわいもない会話をし、お互いおちょくり合った程度のもの。誰だってこのくらい普通にするだろう、大したことのない内容だ。
しかし、それ以下でもない。
ブルーはヴァッシュに情が湧いていたのだ。
(どうしてだ?!!どうしてアンタが‼︎)
「ソラソラァッ‼︎」
右の刃が顔へ突き出され、それを避ければ左の刃が迫る。刀で対応すれば今度は脚だ。
蹴り上げ、よくよく見てみれば靴の先端から刃物が飛び出しているではないか。同時に右の刃も左肩へと落ちてくる。
ブルーは右腕を鞘で受けめ、蹴り上げられる前にその脚を踏みつけた。瞬間、ヴァッシュが左足を地面から離す。
体を捻っての左蹴り。両腕左足の塞がったブルーには避けようがない。
無理矢理体を前へ倒し、肉薄する事で靴先から出ている刃物を避ける事には成功するも、脛部分がブルーの脇腹へとめり込んだ。
「ごぁ…ッ‼︎」
こちらも脛当てか何かが服の下に隠されていた様だ。金属バット思い切り殴られたかの様な衝撃が駆け巡る。
(しま…った‼︎)
滑空、その後地面を転がりながら起き上がるも、ヴァッシュはディアナへと向かっていた。
当然だろう、標的はブルーではないのだ。
「放て!」
更にアドニスの号令と共に矢と魔法が放たれる。その数約300、先にはディアナ。
「ク、ソ…がぁぁあああッ‼︎」
(なんでだよ!何がお前等にそこまでさせるんだ!)
まっすぐ飛ぶ魔法、放物線を描く矢、疾走するヴァッシュ。
最悪の状況だ。
だが、その何よりも速くブルーが間に入り込だ。
「オォォォォオオオ‼︎‼︎」
そして殺到する全てをその魔力の込められた輝く刀と鞘で弾く。下手に斬ってしまえばその破片がディアナへと向かうかもしれない、だからこそ魔法も、矢も、自分とディアナに向かうものだけを正確に弾いて行く。
弾く
弾く
弾く
そしてーー
「いやぁ〜助かったぜぇ」
ーーヴァッシュがディアナの後ろを取った。
当たり前の事だ、ブルーがディアナを守る為、降り注ぐ攻撃を防ぐ、ならばディアナの後ろはどうか?
精々流れ弾が来るか来ないか程度だろう。
ヴァッシュはその流れ弾を見切り、完全な安全地帯から己の刃を繰り出す。
同時にブルーはディアナの目の前まで下がった。
「カァアッ‼︎」
「ッフ‼︎」
左の突き。
ディアナの脇の下から鞘が飛び出し、ソレを上へとカチ上げた。
「チィ!」
「ハッ!」
右のの横薙ぎ。それはディアナの右上から降りて来た刀に防がれる。
再び左の突き。
また鞘に弾かれる。
今度は蹴りだ。
進路上に刃を置かれた。
二つの獲物を同時に振るう。
明らかに可笑しな放物線を描いた斬撃に阻まれた【翔斬】だろう。
その間ディアナは全く動かず、唯一見せた動きは…
「お兄様、せめて回復を。動きに支障をきたしますわ」
ディアナの手がブルーの背中にかざされ、その間に緑色の光が灯される。
回復魔法。
「回復魔法か!助かる!」
(バケモンかよ…方や前凌ぎながら後ろのヤツ守って、方や殺されかけてるってのにてんで動じねぇ…)
幾度となく繰り出される攻撃は全て阻害され、降り注ぐ矢を弾き飛ばす。魔法は魔力を込めた刀により無力化され、次第に勢いをなくしていった。
そして戦場が驚きに包まれた。
ブルーがその全てを凌ぎ切ったのだ。
確かに全てがブルーやディアナを正確に射抜くルートでは無かったが、それでも常人なら一瞬で針山に変わるだろう質量、そこに後ろからの剣戟、更には魔法が殺到したと言うのに、彼は無傷で立っている。
「怯むな‼︎Sランク冒険者を相手していると思え‼︎もう一度構え‼︎」
アドニスの号令により、動揺しながらも兵士達は再度弓に矢を番え、魔法を撃つため詠唱と陣を展開させる。
そう思った時だ。
斬撃の雨が降り注いだ。
それは歪な曲線を描きながら着弾し、兵団の彼方此方から悲鳴が上がる。先手を打ったのはブルーだった。
「う、うわぁぁぁあああ‼︎」
「ッチ!バカ共が‼︎」
叫び声を聞き流しながの舌打ち。視線の先きは異常な程のスピードで迫るブルーの姿がある。
矢が切れる前に距離を取り、安全を確保したと言うのに、そんな距離など物ともしない。
「絶えず撃てぇぇぇえええ‼︎休んだら死ぬと思えぇぇええ‼︎」
声を張り上げ、兵団に指示を飛ばしながら腰へと手を回す。そして何かを掴むと、一気に投げ飛ばした。
それはエルフを捉えた際使用していた短剣だった。切っ先をブルーへ向け、真っ直ぐ飛んできている。
迷わず弾き飛ばし、ヴァッシュへ向かおうとするが、そこで違和感を覚えた。
(…?)
夜の闇。それはこの雨により、普段より濃く、雨粒により視界も悪い。唯一の明かりは街にあるものだけ、恐らく誘い込む為につけてあったのだろう。その小さな光を何かが反射している、細く、長く、黒く塗られた……
(糸‼︎)
ブルーは即座に足を止め、糸を斬らんと刀を振るった。しかし、右の糸は断ち切れたものの、左の糸は不自然な動きを見せ、ブルーの間合いのギリギリ外へ出ていた。
「畜生‼︎」
急いで振り返る、あの糸と繋がっているのは恐らく短剣だろう。そしてあの糸を操れるのだとしたら、短剣は何処へ向かうのか?それはーー
(ディアナ!)
ーーブルーが弾いた方向だった。
(なッ⁉︎)
予想外の出来事に目を見開く、気がつけば糸は自分の右足に絡みついているではないか。
「はっはっ!テメェ前に仲間の事気にして後ろ振り向いたろ?そん時の応用ってわけ…よォっ‼︎」
言いながら右腕を引き、左手では最初に使った物と同じ、ひし形の刃物を投げ飛ばす。
右腕を引いたのは当然糸に絡まったブルーを退かす為だ。
何で作られているかは分からないが、ブルーはその糸が普通の物ではない事に感づている。このまま踏ん張れば足を刎ねられる事が容易に伺える。
彼1人だったら何の問題も無かっただろう。しかし、彼の後ろにはディアナがいるのだ、暗器が迫る今、そこを退く訳には行かない。
よって彼のとるべき行動は1つ。
(何が応用だ…)
「ふざけんな‼︎」
糸と暗器、どちらも無力化する事だ。
足に絡まった糸を斬りながら暗器を弾き飛ばす。ここで銀色の暗器に混じり、黒塗りの暗器が混じっている事に気づく。天気も相まって殆ど見えないようなソレを、ブルーは正確に叩いた。
「アンタ、あん時…」
『何してやがる馬鹿が!敵を見ろ‼︎』
しかし、ソレ等の暗器にもまた糸が付けられており、魔力で操っているのだろう糸は、ありえない動きを見せてブルーへ絡まろうと暴れる。
「あんなに本気の顔してたじゃねぇか‼︎」
「はっはっはっ!そうかそうか、俺の演技も捨てたもんじゃねぇなぁ?」
「この…っ‼︎」
喋りながらブルーが刀を鞘に収める。
「あ?」
それを見たヴァッシュは怪訝な顔をするが、次の瞬間、目を見開く事となる。
「〈抜刀〉【回刃】‼︎」
全ての糸が一瞬にして断ち斬られた。
「いッ⁉︎」
ヴァッシュが辛うじて捕らえたのは円形に走った刀の軌跡。殆ど見る事すら叶わなかった。
素人目にも分かるだろう、あの技は
極まっている。
(最初のアレと同じか‼︎ただ抜剣が速ぇだけだと思ったが…違ぇ。ヘタに踏み込みゃ殺されんぞ…だが)
それでもヴァッシュの笑みが絶える事はない、それどころか一層頬を吊り上げ、不適に笑ってみせる。
そこへブルーが肉薄し、刀を握った右手を振り被る。
そうして刃が迫る中、ヴァッシュはーー
「な…⁉︎」
ーー防御を棄てた。
両手を広げての仁王立。
刀はその首筋で止まってしまう。
「お前…殺せねぇだろ?」
「ッ‼︎」
心臓を鷲掴みにされたかのような気分だった。失敗やマズイ事をし、ヒヤッとした事くらい誰にでもあるだろう、それとは比にならない程の恐怖や焦りがブルーを襲う。まるで子供が親の大切な物を壊し、それが見つかってしまったかの様なゾッとした感覚。これ以上ない程の”バレた”と言う事実が頭の中を駆け巡る。
鳥肌が立つ。
寒気がする。
汗が吹き出る。
もうどうしようもない。もうどうする事も出来ない。バレてしまったのだから。
「やっぱりなぁ‼︎」
蹴り上げ。ブルーは仰け反って躱すが、そ 蹴りはそのまま踵落としへと変化し、迫り来る。思わず後ろに飛ぶが、それは悪手でしかない。
「自分から必殺の間合いを取り上げてどうするよ?」
「しまっ…‼︎」
その発言にブルーはハッとする。スピードと斬る事に特化した彼が、タダでさえ動けない今、自分から距離を取るなどあまりにも無謀だ。
シャン!と音を立て、ヴァッシュの武器が袖に引っ込む。同時にローブの内側へ手を忍ばせ、暗器を掴み、投げ放つ。
「いい事教えてやらぁ!俺が投げるコレにはなぁ?毒が塗ってあるんだぜぇ?掠っただけでも死ぬから気をつけろよ!」
嘘か真か?それは定かではない。しかし、この瞬間よりブルーはヴァッシュからの攻撃を掠る事すら許されない。
「なんでだよ!亜人に恨みはねぇって言ってたじゃねぇか‼︎」
「言ったなぁ!だがこうも言った筈だぜ?大金が手に入るってよぉ?」
「金の為にこんな事するってのか!」
「そうさ!俺には金が必要だ!金さえあればなんだって出来る‼︎」
「止めてくれ!それで罪人になったら何の意味もないだろ!」
「いいや違うね!俺は魔王の娘をぶっ殺した英雄の一人になるのさ!止めたきゃ殺して止めてみろ!まぁ、雑兵一人も殺せないお前にゃ到底無理な話だがなぁ!」
「ぐ……殺せないんじゃない!殺したくないんだ‼︎」
「はっはっはっ!そりゃ優しいこった!だがなぁ…どっちにせよ同じだ‼︎」
ブルーの刀とヴァッシュの得物がぶつかり合う。
必殺の間合いだ。
しかし、ブルーはその一撃を放つ事が出来ない。
「どんなに強かろうが!どんな必殺技持ってようが!それを活かせねぇなら何の意味もありゃしねぇ!何も守れやしねぇ‼︎優しさなんぞで何が救える?!情けなんぞで何を助ける?!哀れみなんぞで何を為す‼︎」
突きを流し、蹴りを見送る。近距離から投擲された暗器を弾き、糸を斬る。
躱し
流し
受け止め
弾く
反撃は…無い。
「そんな物はクソ食らえ!この世は力が全てだ‼︎権力!知力!財力!腕っ節でさえ突出してりゃぁ上に立つ事が出来る‼︎ならその中で一番強い力は何か?金だ‼︎金がなけりゃぁ人は生きられない!飢え!嘆き!死ぬ!それはどれだけスケールがデカくなったところで関係ない!金は国でさえ滅ぼす‼︎ソレを手にする為なら俺はなんだってするぞォ‼︎」
「ぬ…ぉお…‼︎」
それどころかヴァッシュの気迫に押され始めた。
(違う…違う!違うだろうヴァッシュさん!そうじゃないだろう!人を殺して英雄?!)
『漆黒の英雄⁉︎』
『あ〜、お兄様は反乱軍を一晩で壊滅させた英雄として、2年経った今でも巷の話題なんですのよ?』
(力が全て?金が全て?)
思い出すは団員達と最初に会った時、皆飢えて死にかけていた。
(違う…違うだろう!でも…頭で分かってても…反論出来ない‼︎)
「お兄様!来ます!」
「ッ⁉︎」
戦慄。
狙っていたのではないかと疑う程絶妙なタイミングで兵団は動きを見せた。
矢を番え、陣を展開している。
「隣の者と時間を置き、放て‼︎」
先程に比べ量こそ少ないものの、アドニスの号令どおり止む事はないだろう。
「あ…あぁ…」
(どうする…)
時間の流れが変わった。
そう感じる程に長い一瞬、雨粒さえ止まって見える。そんな中、ブルーは考える。
『約束だよ?』
『また会おう!親友‼︎』
(約束を守る。俺はそう決めた、そう望んだ。約束守るためにゃ生きなきゃならない…だからって知り合いを殺すのか?)
『まぁ、無理に詮索はしねーよ。人には人の事情ってのがあるだろ』
(出来ない…だったらディアナちゃんを見捨てて逃げるのか?)
『私がお兄様の心を守って、支えてあげますわ』
(出来る訳がない…なら俺が死ぬか?)
『『団長!』』
(それも出来なねぇな…結局、俺は何がしたいんだ?自由に生きたいと願った。日本人らしくあろうと思った。そして、約束を守ると誓った…でもよ、もう四人も殺してんだぜ?何処が日本人らしくだよ…笑える)
ディアナが見える。
此方は見ていない。千の兵士を前に、毅然と立ち臨んでいる。
(強い娘だ…本当に強い娘だ。俺の言葉を信じてるんだろうか?なら、言っちまったんだ、責任持って守らねぇといけねぇ。でも、それには…)
ゆっくりと視線を動かせばヴァッシュの顔が目に映る。
不適な笑みを浮かべていた。
この戦いが始まってからずっとそうだ、ニヤけ顏で、挑発するように迫る。
(アンタの思いってなんだよ?何がそこまでさせるんだよ?金が全て?嘘つけ、ならなんであの時俺を助けようとした?消えた方が楽に仕事を進められた筈なのに…なんで雑談なんてした?情が湧くかも知れないのに…)
ゆっくりと瞼を下ろす、この時間の流れの中では瞬き程度の時間だっただろう。
それでも、ブルーの決心はついた。
(やりたい事をやろう…したい様にしよう…今までそうして来たように。今、俺がやりたい事、それは…)
「ぐぶぉ…!!?」
呻き声が聞こえる、ヴァッシュのものだ。その腹にはブルーの脚が突き刺さっている。
異常な脚力による前蹴り。
突然の反撃に反応しきれなかったのだろう、後方へ大きく吹き飛ばされる。
ディアナに迫る矢と魔法、間にはブルーがいた。
「両方守る‼︎【爆刃】ッ‼︎」
地面に刀を叩きつける。瞬間、爆発が起き、砂煙りが舞い上がる。
「それで姿を消したつもりかな?見えないのは君からだけだよ!煙の中を狙え!」
アドニスが号令を出すが、それは無駄だった。
ブルーは既に煙の中に居ない。ディアナを抱え、街の方へと走る。
「お兄様⁉︎何を⁉︎」
「街の中になら皆いるかも知れない!俺一人ここで頑張っても正直ダメだと思う!仮に皆が居なくても、狭い街中なら敵の数が限られるから有利になる筈だ!だから一旦戻る!」
「分かりましたわ」
矢は何もない場所を突き刺し、魔法は空を切る。アレだけ散らされる上に雨まで降っているのだ、煙はそう長く持たないだろう。風がない事が唯一の救いだ。
(頼む!誰か居てくれ!)
願いながら走り、門の前まで来た時、彼は立ち塞がった。
腹を抑え口から少量の血を流す人物。
「オイオイ…どこ、行くんだ?」
「いい加減にしてくれよヴァッシュさん…」
----------------ーーーーー
「ぐふッ…!ゴハッ!」
クソが!どうやら意識を失ってたらしい!
いや、生きてるだけ幸いか‼︎
そうじゃない!どれだけ時間が経った⁈俺は依頼を成し遂げねぇと!
見ればブルーが走ってやがる。どうやら気絶したのは一瞬だけみたいだな…良かった。
でも、街に入るのは見逃せねぇ…ここまで来てねぇっね事は、作戦は成功したんだろうけど、もしもの場合がある。アイツ一人でも化け物クラスだってのに、他まで相手してられるかってんだ!
俺はローブの下に隠した投擲用の刃物を取り出すと、それを門へ向けて投げつける。コレには糸がついていて、俺の魔力覆えば自由自在に操れる。
ソレを応用し、門の前まで飛ぶと、ブルーも丁度目の前に来た。
「オイオイ…どこ、行くんだ?」
クッソ…腹いてえ…言葉も途切れ途切れか、どんな脚力してんだよコイツ…
「いい加減にしてくれよヴァッシュさん…」
ははっ…冷えなぁ…まぁ、それもそうか。
お前の守るべきものはそのお姫様だもんな…でもよぉ、俺にだって譲れない物がある。確かにこんな方法でしかそう出来ない事は情けねぇと思うさ。それでも、こうするしかねぇんだから仕方ねぇだろ。
「俺には金が必要だ…金さえありゃぁなんだって、出来る!」
そうだ、金さえあればなんだって出来る。
金さえあればこんな事だって今臨在する必要もない。
金さえあれば…
金さえ…
そうだ、金さえあれば”アイツ”だって救える!
「その為には、依頼を遂行しなきゃなんねぇ…だから頼むわ、ここで殺られてくれ」
「なぁヴァッシュさん…アンタは確かに正しいよ。でも、それってアンタの本心なのか?」
「ッ⁉︎」
やめろ…なんでそんな事聞く?俺はお前の命狙ってんだぞ?
「だったら、なんであの時助けたりしたんだよ?エルフに襲われたあの時だ」
あの時、コイツは敵に背を向けた。強いってのはアドニスのクソ野郎から聞いてたが、あんなミス犯すバカが、ここまで強いなんて予想外としか言いようがねぇ…
しかし、なんで助けた、か。
「…演技に決まってんだろ。俺はAランク冒険者だぜ?あの程度反応出来なきゃ可笑しな事になる…」
「嘘だ。あの時、アレだけ直ぐに追いつけたって事は、アンタ、俺が向かった直ぐ後を追いかけてたんだろ…なんでそんな事した?俺が勝とうが負けようが、放っておくのが一番の筈だろう」
違う…アレは、アレは演技だ!俺は、俺はその姫様を殺さなきゃならねぇ!それが俺の依頼!だから怪しまれねぇように…
「他にも疑問が残る…なんで俺達の事、もっと詮索しようとしなかったんだ?情報がありゃもっと有利に動けただろう」
「下手に詮索したら疑われるだろうが…」
「いや違うね。それなら最初っから接触しないのがベストな筈だろ。情報も掴もうとしないでなんで接触なんてした?躊躇ったんじゃないか?」
やめろ!やめろ!!やめろ!!!違う!違う!!違う!!!
もう後戻りなんて出来ないんだ!遅すぎるんだ!俺にはこの方法しか残ってないんだよ‼︎
「アンタは一体…」
「うるせぇぇぇえええ‼︎」
「ディアナ!下がれ!」
これ以上喋るんじゃねぇぇぇええ‼︎‼︎
俺の得物とヤツの剣がカチ合う。
もう今しかねぇ!出来る事なら使いたく無かったが、どうせコイツに俺は殺せない!
「今だって一撃浴びせることくれぇ出来ただろうがよ…そんなに優しいから誰も守れねぇんだ。〈転移魔法〉【ムーブ】」
魔力がドッとなくなる感覚の後、景色が変わる。
「…は?」
ふはは…ブルーが見た事ねぇ顔してやがるぜ…コイツは面白い。
俺が使ったのはアドニスから緊急用に渡されてた術式の織り込まれた石。
キーワードを言えば魔法が発動される、アイツにしか作れねぇって言う訳わからん代物だ。
使える魔法は〈転移魔法〉魔力に応じてその分飛ばしてくれるらしいが、石に術式書いたくらいじゃチンケなもんらしい。俺が殆どの魔力つぎ込んだってのに、街の反対側に飛んだだけか…
コリャ、敵戦力分散させる為に集めた魔導師連中、アドニスの屋敷でぶっ倒れてるんじゃねぇか?
しっかし、脱出用が、まさかこんな形で使う事になるとはな…なにはともあれ俺の仕事は完遂だろ。
俺は…
ブルー・アルトリオを退けたぞ‼︎
---------------------
お兄様が消えた、あの冒険者と共に。最後の言葉から予想しますと、恐らく何処かへ”転移”したのでしょう。
「アッハッハッハ!ヴァッシュ君面白い事をするねぇ!まさかあの”魔石”をそう使うとは…いやはや、恐れ入る…」
残されたのは私一人。ボーグも、カルも、ハングも、エティアさんやツァイさんも居ませんね。あの冒険者は敵になってしまいましたし、ここまででしょう。
「コレは後でちゃんと報酬をあげないとね〜」
もう、逃げ場はありません。頼りになる仲間もいません。
「それにしても君、逃げたりしないんだね?最期くらいカッコよくってヤツかい?」
「いえ、そんなものじゃありませんわ…ただ信じてますから」
「何をだい?」
「お兄様…ブルー・アルトリオ様が私を守ってくれると」
きっと私は彼等に勝てないでしょう。訓練はしてましたが、お父様やお母様は少し甘やかしすぎですわ。ラシュフォンドに帰ったらもっと厳しく鍛えてくれる様、頼まなければいけませんね。
「ふ、ふふ、アッハッハッ‼︎馬鹿だね君!あの青頭ならさっき飛んで行ったじゃないか!我々の矢が君を射抜くのと、見えない程遠くに飛ばされた彼が戻ってくるの、どっちが早いかも分からないのかい?」
「それくらい分かりますわよ」
ええ、分かっています。
だからこそ、今まで何もしなかったのではありませんか。
皆さんが残ると言った時も、お兄様が守ると言った時も。本当はやめて下さいと言いたかった。
それでもグッと堪えたのは、こう言った最悪の状況を想定しての事です。
「だったら何故…」
「私が!ブルー様が戻ってくるのまでの間、この私、ラーナー大陸亜人国家ラシュフォンド王国が王女、ディアナ・ラシュフォンドがお相手致します!」
彼等がたじろいだのが分かります、きっとお父様を思い出したのでしょう。しかし、流石にアレと同じにはしないで欲しいですわね。何せお父様は”別格”ですから。
「怯むな!魔王の娘など一度も戦場に顔を出さなかった臆病者だ!恐るるに足らず!」
ふむ、どうやらあの指揮官、そこそこ頭は回るようですわね。
しかし、勢いで殺られる程私は弱くありませんわよ。
私だって王家の血筋、雑兵に劣るほど弱くなった覚えはありません!
「む?」
?指揮官が何かを見つけたようですね、私の後ろ…
「やぁ姫様!一人?」
「さっきまで団長殿と、あの冒険者の男が見えていた筈なんだが…」
「ツァイさん…エティアさん…」
「にひひ!遅れてゴメンなさい、でも間に合ったみたいだから良かったよ」
「カルやボーグ殿の姿も見えんから、一時はどうなるかと思ったものだ」
「一緒に戦ってくれるんですか?」
「勿論!僕達だって元ラシュフォンド民だもん!」
「それに団長殿も来るのだろう?なら心配はいるまい」
どうやら、私にも運が回ってきたようです。
「勝ちましょう、絶対に!」
「「はい!姫!」」
現状、コレが自分の出せる限界でした。なんだか拙いものをお見せして心苦しく思っています。申し訳ありません。
バトルシーンは得意な筈なんですが、どうにも上手く書けませんでした。
さて、言い訳はこの辺りにして技解説。
【横断】
〈抜刀〉の一つ。刀を抜き放つと同時に水平に一閃する剣技。単純にして繊細な一撃、鉄製の大盾をも斬り裂く。
【爆刃】
〈魔技〉の一つ。刀の刃に魔力を集中させ、任意で解き放ち、擬似的に爆発を起こす。本来は鍔迫り合いの際使用し、相手を大きく弾かせる。
【回刃】
〈抜刀〉の一つ。抜刀の勢いを殺す事なく手首を捻り、円を描くように回し斬る、最早抜刀と言っていいのか謎の技。しかし、極まっているだけありその過程でスピードが萎える事はない。




