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勇者の兄は魔王の親友です  作者: アシタビト
冒険者ブルー・アルトリオ
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第18話 怒り

討伐依頼には、討伐対象の魔物を本当に倒したのか証明する為に、討伐証明部位なる物が存在する。それは魔物によって違い、大体は目立つ様な物かつ他の魔物と区別がつく部位だ。もし討伐証明部位が何らかの理由で持ってこれない場合は、ギルド職員を現場に連れてくか自分で魔物を運ぶしかないそうだ。

そして、今回の討伐対象であるゴブリンの討伐証明部位は耳……当然倒してから削ぎ取る事になるんだが、こう、死体を更に傷つけるってさ、かなり抵抗があるってか、罪悪感で一杯一杯です……

とりあえず、そんな事でメンタルにダメージを負いつつ依頼は全部成功した。いや〜受付のお姉さんが言ってた通り、探すのに手間取った。ああ言うのって、探してない時はわんさか出る癖に、いざ探すとなると居ないのよね。

後はこの耳を届けるだけなんだが、どうやら耳はどっちか片方だけでいいっぽい。これ、両耳剥ぎ取って『二匹分です』って言ったらどうなるんだろ?後、殺さずに耳だけとったりさ。苦情来てバレるのか?やらないけど気になる。

東門からエインドに入る。さっきまで俺は町の東側に広がる平原にいたんだ。平原の草は結構長くて、身をかがめれば体を隠せる程。町の近くは草刈りをしている様がだ、遠くとなるとそうは行かない。

そして、そう言った場所に魔物は出る。ウルフ、コボルト、ゴブリン、etc…どれも大した脅威ではないけど、戦うすべを持たない民間人にとっては十分危険であり、作物や家畜を荒らす害悪だ。しかもコイツら、狩っても狩っても無限湧きよろしく暫くすると一定数に戻ってると言う嫌がらせ仕様。

俺が受けた依頼の依頼者も、殆どがそんな魔物に被害を被った農家。牛が食い殺された〜、畑を荒らされた〜、なんて事が依頼書に書いてあって、その深刻さが伺える。中にはそうなる前に間引きをしてくれって町からの依頼すらも存在あった程だ。町には見張りも立ててるみたいだけど、万能じゃないからね、どっかしら抜けてくる奴がいるんだろう。

そんなGの如き繁殖力を持つ弱小魔物のゴブリンを、俺は13匹程やっつけた訳だ。コレで少しは被害が減ればいいけど……あの壁に貼られた依頼の数見ると、ねぇ?

明日もちょっと依頼を受けようかな〜?などと考えつつギルドに入れば、あのお姉さんが受付にいたのでそこに向かう。


「お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です。どうかなされたんですか?随分とお早いお帰りですが…」

「いえ、なんとかなりましたよ?それで、ゴブリン耳ってどうすればいいんですかね?あ、後、依頼に書いてあった数より3匹多く倒したんですが…それってどうなるんですかね?」


まぁ、練習がてら結構走り回ったからな。それでも10分に2〜3匹くらいしか見つからなかったけど、早いって事は運が良かったらしい。

因みに3匹多く倒したってのは、帰り道で3匹固まったグループがいたから、ついでと思って斬って置いた。一応耳はとったけど、カウントされるんかね?コレ。


「まぁ!この短時間でゴブリンを13体も…ブルー様はさぞかしご高名なお方に師事して頂いたのでしょうね。そのお歳でご立派な腕前です」

「い、いや〜、運が良かっただけですよ。ははは…」


そんなに褒められると照れるな…ま、師匠が良かったって事か。

アレ?俺に師匠いなくね?強いて言うならヴァンか?あ、言ったらアカンやつや……話題変えよ。


「そ、それで、依頼達成の報告はここで?」

「それにつきましては、大変お手数をおかけしますが、先ずあちらに見えるカウンターで討伐部位と依頼書を提出してください。鑑定士が鑑定後、依頼書に判を押しますので、ソレをもう一度受付へ届けて頂き、初めて報酬金受け渡しとなります。多く狩ってしまった場合も、少し割安にはなりますが、キチンと報酬が出るのでご安心ください。ちなみに、もし鑑定士が判を押さなかった場合、依頼達成にはなりませんので、どうかご了承願います」

「分かりました、ありがとうございます」


受付のお姉さんが指差した方をみれば、また別のカウンターが確かにある。場所的には今居るカウンターを抜けて更に奥、どうやら両隣にあるようだ。

へ〜、やっぱそう言う職の人もいるんだな。まぁ、こんだけ色々魔物がいるんだから、専門の人は欲しいか。さて納得したところで届けよう。


「すいませ〜ん。お願いします」

「あいよ〜」


”鑑定所”とかかれたカウンターの中にいたのは白髪白髭のおじいちゃんだった。

しかし、俺が袋から取り出したゴブリンの耳を、眼鏡の越しにルーペで覗く姿は正に職人。おそらく鑑定だけが彼の仕事ではないんだろう、随分と使い古された職人エプロンに革の手袋。加工や解体も請け負っているに違いない。

え?袋なんかどっから出したって?

ヴァンに貰ったヤツだよ。そうだよ、置く場所ないからずっと持ち歩いてるよ、流石に重いよ。


「うん、間違いなくてゴブリンの耳だね。ほいさ依頼書」

「ありがとうございました〜」

「また来なよ〜」


なんだか思ったより簡単に終わっちゃったな〜、こんないい職業あるならヴァンも教えてくれりゃぁいいのに。

あ、カネ渡したから大丈夫だと思ったのか?

まぁいいや、取り敢えず報酬貰おう。


「貰って来ました。お願いします」

「はい。少々お待ちください……では、此方が報酬の大銅貨7枚と、追加報酬の大銅貨1枚、銅貨2枚になります。どうぞお確かめ下さい。」

「は〜…い?」


なんだか手に持つ金に違和感を感じる。表面は女神なのか王妃なのか、女性の横顔が模られており、裏面にはまた世界地図、側面には俺の見た事ない文字が1週書かれている。1見凝っているだけで、普通のコインだが…ん〜なんだ?コレどっかで見たような…


「どうかされましたか?」

「へ?い、いえ、なんでも…」

「オイ!”晴天の空”が帰って来たぞ!」「マジか⁉︎無事だったのか⁉︎」「今回は大物だったんだろ!」


銅貨をマジマジと見ていたら、受付のお姉さんに声をかけられ、怪しまれたかと焦ったその時、後方がざわめきが起きる。

”晴天の空”って何んだ?そんなに晴れたのが嬉しいのか?朝から雲ひとつない快晴だったと思うんだけど…

そんな事を考えていると、開け放たれているギルドの扉を大勢の人間が覆い尽くす。何事かと思った時には、1人の老人が足を踏み入れていた。


「スゲェ…」


思わず声を漏らす。仕方ないだろう、この老人、明らかに”達人”だ。

身長175程度か、深くシワの刻まれた体にもかかわらず、その背筋は綺麗に伸びきっており、身に纏う鎧は、老骨に着せるような重さではい事が見ただけで分かる。背負うは鞘のない長剣、長い白髪と白ヒゲを靡かせ、真っ直ぐ此方に歩いてくる。

違う。

足取り、重心、手の振り、視線、ただ歩いている筈なのに、その一切が周りの連中とは別格だ。達人、いや、仙人と言っても過言ではない雰囲気を、その人は纏っていた。


「”晴天の空”、一時王都で抱えられた程の名の知れた冒険団ですよ。団長のあのお方はBランク冒険者となっていますが、実力はAランクにも匹敵するとの噂です」

「へぇ〜」


続いて入って来たのは、巨大な角を神輿の如く4人がかりで運ぶ巨漢達。全員が老人と同じく尋常ならざる雰囲気を放ってはいるが、彼と比べれば安いと言える。

しかし、決して雑魚ではない。現在ギルド内にいる呑んだくれと比べてしまえば、天地程の差があると嫌でも分かる。上には上がいると言う事か。


「アレはBランクの魔物。グランドドラゴンのツノですね、個人依頼なら間違いなくA相当、冒険団で受注してもDランクは下らないでしょう」

「グランドドラゴン?強いんですか?」

「強いなんて物ではありませんよ、普通のBランク冒険者なら裸足で逃げ出すでしょうね」


更に続くは強い者からなのだろう、10、20と増えていき、最後には60近くの大所帯となる。

ツノは鑑定所へ運びこまれ、他の者たちは椅子に座った老人を中心とし、その存在感を主張する様に佇んでいた。


「死人なしかよ…」「スゲェな」「流石Aランク相当」「こりゃ”炎帝の槌”との差も開いたな」「”疾風の剣戟”は休んでんだっけか?」「らしいな、おいつかれるんじゃねぇの?」「いや無理だろ、あそこにはあのバケモンがいる」「”武人闘団”はまだ帰らねぇのか?」


まるでギルドの支配者だな静まり返ってヒソヒソ声しか聞こえやしない。成る程、コレが冒険団か……凄いな。

実のところ、俺はBランクの魔物と何度か対峙した事がある。だけど、その脅威度はCランクとじゃ比較にすらなりやしない。Cランク上位のアイアンベアーでさえ、Bランク下位と闘った後じゃ子熊の様に感じる程だ。

別格。

そう、表現するのが一番だろう。単純に、変則的に、強い。中には魔法まで使ってくるヤツもいた。一体何度ヴァンに助けられた事か……

とにかく、アレは人数集めてどうこうなる次元じゃない。やっぱり、この老人がデカイな…


「そう言えば…ブルー様はどこか冒険団に加入なされるんですか?」

「え?」

「現在、エインドには複数の冒険団が存在します。火鎚ひついことデント様率いる”炎帝の鎚”。闘拳とうけんことバルハス様率いる”武人闘団”。たった今帰還しました、剣鬼けんきことドーラン様率いる”晴天の空”。そして、Aランク冒険者、疾風ことラギアン様率いる”疾風の剣戟”。冒険団への加入は基本拒まれる事がありません。入ってしまえば、彼等の様な強者に鍛えてもらえるかも知れませんよ?」


そうなんだ…いや、ギルド規定に書いてあったんだろうけど、そんな熱中して読んでた訳じゃ無いから、普通に知らんかった。

しかしAランク冒険者ね……本当上には上がいるってか、一体どんな怪物なんだ?出来れば、この町出る前に会ってみたいもんだけど…ま、高望みはしなくていいか。


「いやぁ〜、今の所そう言う予定はないっすね」

「そうなんですか?ブルー様の実力なら幹部も夢ではありませんのに…残念です」

「そんな、過大評価ですよ」


そんなやり取りをしていると、隣の受付に判の押された依頼書を持った筋骨隆々の男が来た。

”晴天の空”の幹部なのだろうその男が依頼書を提示すると、それを確認した隣の受付のお姉さんが交換する様にお金を渡す。

銅貨と同じ構造の金貨が3枚。

アレ〜?メッチャ見覚えあるなぁ…つか、ヴァンに貰った金と同じじゃね?え?ちょっと待って、嘘だろ?俺、両手で掴みきれない程持ってんだけど……

そんな俺の考えも他所に、その男は見せつける様にそれを老人の元へ運ぶ。そして金貨を見た冒険者達はどよめく。

ちょ⁉︎そんな価値あんのか⁉︎あんなコインみたいのが⁉︎うっわ〜、ヤバい大金抱えちゃってるよ俺!どこ置けばいいのコレ、もう怖くてどこにも預けられないんだけど……どうしよう。

その時だったか?視界に途轍もなく不愉快な光景が入って来たのは。


「オラ!さっさと歩けよトれーなぁ!」

「ったく、盾になっただけマシか」

「す、すみません…」


冒険者2人がそう言って蹴る様に1人の男性を進ませていた。謝るその男性の頭には、獣の耳が生えている。一目で分かる




亜人族だ。




「オイッ‼︎」


気が付けば声を張り上げていた。でも、気が付いて収まる様な物じゃない。満身創痍のその男性を見て、彼を蹴飛ばす冒険者を見て一瞬で頭には血が上ったんだ。


「お前等何してるッ‼︎」


静まり返るギルド内に、俺の声と足音だけが響き渡り、その場にいる全員が何事かと俺の方を向いていた。やがて冒険者の元で足を止めると、掴みかからん勢いで睨みつける。

この冒険者は下っ端だったのだろう、たったそれだけの事だってのに、年下の俺に迫られて凄みやがった!


「な、何って…この魔族を…」

「魔族じゃねぇ!亜人族だ!」


思い出すはヴァン達の顔。

そんなヤツが


「は、はぁ?何言ってやがるテメェ!コイツ等は同胞を殺したんだぞ!何人も何人も!それが亜人だぁ?ふざけるなッ!こんなやつぁ悪魔の末裔に違いねぇ!」

「亜人族にとっちゃぁ俺達だって同じだろうが!戦争は終わったんだ!もう争う必要なんかないだろ!」


思い出すは皆の優しさ。

何を偉そうに


「同じなもんか‼︎魔族はなぁ!捕虜を持たねぇんだ!なんでか分かるか?皆殺しにしてるからだよ‼︎」

「違う!不要に殺してないからだ!彼等は向かってくるものは斬るが、抵抗しない者や逃げる者を斬る事はない!」


思い出すは受けた恩。

亜人を足蹴にしていやがる‼︎


「はぁ⁉︎頭湧いてんのか⁉︎魔王軍がルシードに攻め込んだ時の惨状を知らねぇとは言わせねぇぞ‼︎」

「俺はルシードの生き残りだッ‼︎」


気が付けば、握りこんだ拳を思い切り引いていた。その腕を誰かに掴まれている。


「ちぃと待ってはくれんかの?」


爺さん!ドーランとか言ったか……なんだ、テメェもこのカスと同じ考えか?まぁ、見てる筈なのに放って置いているんだ、言われるまでもねぇよなぁ?


「お前さん、新人じゃな?どんな事情かは知らんが、お前さんは魔族の味方をする気か」

「それがなんだよ。四六時中気ィ張ってて疲れねぇのかジジイ」


老人に対する思いが塗り替えられていく。尊敬は軽蔑に、達人と見紛えた姿は小物へ、敬う心は最早ない。

コイツは平気で人を差別出来るクソ野郎だ‼︎

瞬間、ずいっとドーランが顔を寄せてくる。

何をする気だ?いいやなんだっていい。ここに亜人の味方するヤツがいないのは今までの反応でよく分かった。コイツは俺と言う魔族の味方をブッ飛ばす大義名分背負ってなんか仕掛けてくんだろうさ。いいぜ、来いよ、返り討ちにしてやる‼︎


『あまり軽はずみな発言をするもんじゃないぞい?』

「…は?」


突然掛けられた予想外な言葉。それは俺にしか聞こえない程小さく、この爺さんも他者に聞かせる気は毛頭ない様に感じた。

続けて言う。


『魔族とどんな縁があるかはしりゃぁせんが、周りを見てみぃ。お主の味方は1人もおりゃぁせん。中には魔族に殺され、家族を失っている物もおる。ルシードの生き残りなら、その辛さが分かる筈じゃろ?』

「んなもん分かるわけ…」


ーーお兄ちゃん!ーー

もし……あの時シルヴィアを殺されていたら、俺はヴァンと、亜人と仲良くなんてなれただろうか?

そもそも、生き残る事が出来ただろうか?

否。


「……」

『どうやら思い当たる節がある様じゃな。なら、こやつ等の気持ちも少しは汲んでやくれんかのぉ?ワシとて魔族がいたぶられているのを見るのは、気のいいもんじゃぁありゃせん。じゃが、現状人間に根付く怨みは深いんじゃ』


予想を反し、優しく説き伏せる様な発言の数々に昂った感情が消沈していく。

だが、許した訳でも戻った訳でもない。コイツが見て見ぬ振りを貫いたのは揺るぎない事実だ、俺はそれを許せない。


『それにお前さん、見たところ相当な腕じゃな?冒険者にとって、自らより下位の冒険者に伸されると言うのは、その生命を断たれたに等しいもんじゃ。なんせ舐められるからのぉ?だから、どうかここはワシの面に免じて許してやってはくれんか?』

「テメェの顔になんの価値があるってんだ?」

『手厳しいのぉ…』

「…ッチ……許しはしないが、手もださねぇよ、約束する。代わりにコイツは連れてくぞ」

『そうか、好きにせぇ』


その言葉を聞いた俺は、無言で亜人の男性に肩を貸し、出て行く。

後ろで何やら歓声が沸いているが、大方何もせず俺を追い払ったとかで盛り上がっているのだろう。

どうでもいい。今はこの人の治療が先決だ。


思う事で、俺は怒りを押し殺し、ギルドを後にしたのだった。

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