4話 災難は続くよどこまでも
店員も逃げ出した鍵のかかっていないコンビニで物資をあさる人間が2人。
ダイチと魚住である。彼らに罪悪感はすでにない。
生きるために必要な食料や飲み水を手に入れたかったが既に荒らされている。
「奥の倉庫にも無いか見てくる」
そういってダイチはレジ横の倉庫に入っていく。
倉庫内も荒れており、ストックの箱や袋が乱雑に破かれている。
これぐらいしか無いか。
栄養のなさそうな春雨スープに漬物、キムチ味の乾麺。
「スープの素は使わず乾麺だけ食べれば何とかなるか」
しかし、 なんとも微妙な収穫物だ。
ダイチは収穫物を中身だけ持ち去られた防災バッグへ入れながら倉庫から店内に戻る。
「魚住さんそっちはどう?」
「棚の下に落ちてたチョコとゴシップ雑誌」
一口サイズのチョコをポケットに突っ込みながら雑誌を投げて寄こした。
「ジャンプか。読めるし火起こしとかにも使えそうではあるけど、ほぼ収穫0だね。近くのスーパーにも向かう?」
「行かないわよ。あいつらが居ない店を見つけるのに何時間かけたと思ってるの」
そうなのだ。近場のスーパーやコンビニは大抵閉めているか中に死体があるかで危険過ぎて入り込む事ができなかった。
考えが甘かった。これなら魚住のマンションに立ち寄った際に災害用の食料を貰えばよかった。
いや、この考えも甘いのかな。事情を話せば快く分けてくれると期待するのが間違いだったのかもしれない。非常時に人は誰かに優しくできるほど余裕なんて残ってやしないのに。
おかげでボートを置いてきた場所からだいぶ離れてしまった。
「じゃあ、この後どうする?もう日が暮れてきたから何処かに泊まれるといいんだけど」
ダイチは地元の人の意見を素直に聞くのが一番だと思い、魚住にゆだねてみた。
「私に名案があるの。付いてきなさい」
「はいはい」
そういってダイチと魚住はコンビニを後にした。
魚住の後ろを15分ほど歩いてついていくと目的地が見えてきたらしい。ぼそっと有ったと魚住がつぶやいた。
建物の周囲の植え込み《うえこみ》には、ツツジの低木が綺麗に整備され、ダイチたちの膝程度の高さの柵が周囲に立っているが何かを防ぐような機能は無い。
入口に門扉はなく、3段の階段の先には2階建ての横長の建物が見えた。
建物の1階には銅色の看板が備え付けられており「児童センター」と記載されている。
「名案ってこのセンターの事か?」
ダイチは疑問を投げる。明かりもなく、人も居なさそうだが厳重そうでもない。
「そうよ。1階が職員のいる場所と受付で2階がメインね」
そういって階段を上っていく。
ガラス張りの古そうなドアが見えた。さすがに鍵がかかってそうではある。
「おい、これ閉まってそうだけど……魚住さん?」
魚住は無言でバッグを開けて財布を開いた。
その手には銀色の鍵があった。そのまま鍵を挿し入れてドアを開ける。
「魚住さん?」
「何よ?」
「なんでしれっと鍵を持ってるの?」
「どうでもいいでしょ、そんな事」
「いやいや、気になるでしょ。家族にここの職員がいるとか?」
「違うわよ。職員と仲良くなって鍵を借りて合鍵を作って返した。それだけよ」
「借りた許可は取ってなさそうだね。色々と突っ込みたいけど今はやめておくよ」
2人が入った児童センターの中は、小さい畳の部屋が2部屋、廊下に置かれたデスクトップパソコン・学校の体育館を4分の1程度に小さくした運動室がある。
運動室の前には竹馬が3セット立て掛けられており、中には室内サッカー用の小さいゴールが置かれている。
部屋の中やセンターの周囲は静かなはずなのにキーンという耳に残る音と子供たちが騒いでいる雑音が聞こえてきそうだ。
「魚住はこの場所によく来たのか?」
「そう。家に帰りたくない時はここに来てサッカーとか鬼ごっこしたり遊んでたのよ。名前も知らないし、年齢もよくわかんない子達が勝手に皆集まってわいわい遊ぶの」
「いいね。」
「だから、こんな状況でしょ?受付にある入館票見れば名前もわかるし安否とかもわかるかもって」
「にゅうかんひょう?」
「そっ。ここに来館した時は全員紙に名前と電話番号を書くの。それがまとめて残ってるはず」
「それが名案ってことね」
「悪かったわね。私の都合で巻き込んで」
「いや、良いよ。泊まれるなら」
二人は運動室にバッグを置いて、職員室にあった電気ポットを持ってきて湯を沸かす。
コンビニにあった辛いラーメンを袋から出す前に半分に砕いてポットの中に入れた。
辛いスープの素だけだと食べれないので醤油とスープの素を半分、どんぶりに入れる。
そこに茹でた麺を入れてほぐし、その上に、コンビニで手に入れた白菜の漬物をよく絞って乗せた。
見てくれはまぁまぁだ。
「できたよ」
「ん。ありがと」
魚住は受け取ったどんぶりを片手に、もう片方の手で1階から持ってきた入館票の束をめくっている。
安っぽいプラスチックのバインダーに、手書き風のシールで「入館票」と貼られたそれを、無言のまま一枚一枚めくりながらラーメンをすする。
時折、指を止めて名前を確かめるように見つめては、また次のページへと進んでいく。
その横顔はなにも語らないが、真剣な目つきで読み進める彼女は凄く美しかった。
その時、2階の入口扉から物音がした。
扉にナニかが当たる音。それが定期的にガツンガツンと響く。
嫌な予感がした。
ダイチは部屋を物色しているときにロッカーで見つけたさすまたを持って入り口へ向かう。
扉の向こうには小さい子供がいた。
小学生低学年の男の子、アニメのTシャツを着て白目で扉にぶつかり続けている。
魚住がダイチの前に飛び出て鍵を開ける。
「おい!」
「だって、児童館でよく遊んでた子なんだもの!」
扉からぬるっと入ってきた少年はよたよたとこちらへ向かってくる。
「大丈夫だった?ママはどうしたの?1人?」
「魚住!下がれ!」
肩を引っ張り後ろへ下がらせる。
白目の男の子はアゴを外して大口を開けてこちらにとびかかる。
「くそっ!」
さすまたを胸元に当ててそれを止めるダイチ。
さすまたで少年の胸元を押さえ込んだまま、扉が開いていた教室へ突き飛ばした。
「魚住!鍵を!」
魚住は急いで畳部屋の扉に鍵を差し込む、手が震え数回鍵穴を外しながらもようやく施錠した。
また扉にかつんかつんとぶつかる音が向こうから聞こえ始める。
二人はほっと息をついて床に座り込んだ。
「ごめんなさい」
魚住は隣で顔を伏せたまま謝る。
「いいよ。それより1階にやつらがまだいないか見回りに行ったほうが良い」
「えぇ、そうね」
1階に降りる2人は周囲を見回す。
辺りにはやつらはいない。
爆撃音。
遠くの空が一瞬、橙色に膨らんだ。
地響きのような振動が窓ガラスを揺らし、木々が衝撃波で震えた。
空を見上げると、小さな機影が高速で雲間を横切っていくのが見えた。
今この場所で人を運ぶ旅客機が飛ぶなんて考えにくいし、爆撃と紐づけられるのは戦闘機だろう。
光った方角は僕たちが来た川の方角だった。
「嫌な予感がする」




