第20話「究極の選択」
第20話「究極の選択」
■蒼木 蒼 視点
「延命治療、拒否します。必要な書類は提出済みです」
私は、医師にそう告げた。
それは突然のことではなかった。
ずっと前から決めていた。母を殺したこの世界で、私は“生きる権利”を奪われたのだから。
「自分の命をどう使うかぐらい、自分で決めていいでしょう?」
医師は何も言わずに頷いた。
私はその場で、記者会見用のカメラを回し始めた。
「こんにちは、蒼木蒼です。今日は皆さんに一つ、重要なお知らせがあります」
「私、蒼木蒼は、今後いかなる延命措置も拒否します。つまり、事故や病気で意識を失った場合、私は死にます」
配信中のコメント欄が騒然とする。
《嘘だろ……?》
《これは冗談?》
《何考えてるの?》
《死ぬ気で復讐してたのか……》
私は続けた。
「理由は単純です。“死ぬ権利”を、私は奪われた。その痛みを知ってもらうために、私は“死ぬ自由”を行使します」
「私が死ぬことで、あなたたちが感じるのは何ですか?」
「もし“ざまあみろ”と思うなら、それがあなたたちの正義です。
もし“やめてくれ”と思うなら、あなたはすでに私の側にいるのです」
■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)
「蒼さん、本当に……死ぬつもりですか?」
通話越しに、俺は必死に問いかけた。
「死ぬつもりじゃない。ただ、“死ねる状態”にしておく。それだけ」
「そんなの、いつか誰かが手を出すって……!」
「そうなったら、それが“結末”になる。それだけのこと」
「違う! そんなの、復讐じゃない、自殺だ!」
「違うわ。“これは、社会に突きつけた問い”よ」
「社会に……問い?」
「“あなたたちが殺した命に、責任を持てますか?”って問いよ」
俺は唇を噛んだ。
もう、蒼は完全に“人間”ではなくなっていた。
■橘 美咲 視点(報道被害者の会)
「死ぬことで何かが変わると思ってるの?」
私は、病院の廊下で蒼に面と向かって聞いた。
「変わらないわ。でも、“変わらなかった”という記録は残せる」
「そんなの、あんまりじゃない……!」
「“変えようとした誰かが、死んだ”という事実。それだけでも、意味はある」
「意味じゃないよ……蒼さん、生きてないと意味なんか作れない!」
「美咲さん……ありがとう。でも、これは“義務”なの。“希望”じゃない」
その冷たい言葉に、私は震えた。
■斉藤 由香 視点(日本フーズ・取締役CMO)
「彼女、自殺前提の復讐に切り替えたわね」
会議室で、私は幹部たちにそう言った。
「延命拒否なんて、社会に対する爆弾よ。“殺していいよ”と同義」
「なら、どうします? 無視すれば?」
「それは彼女の思う壺。“社会はまた黙殺した”と捉えられる」
「反論して、さらに炎上するぐらいなら、沈黙がマシかと……」
「沈黙が一番燃料になるの、まだわからないの?」
私は机を叩いた。
「彼女は“死を前提に経済を設計した”女よ。倫理でも論理でも勝てない」
「なら、我々にできることは?」
私は言った。
「“企業は個人に殺される”という新たなモデルの中で、次の標的にならないよう祈ること」
■山本 佳奈 視点(記者の妻)
「ねぇ誠司……蒼木蒼、死ぬつもりだって」
病室で、夫にそう告げた。
誠司はうつろな目で窓の外を見つめている。
「あなたが書いた記事……あの人の母親を殺したって言われてる……」
「……俺……が……」
「もし、彼女まで死んだら、もう“終わり”なんじゃない?」
「……俺は……俺……は……」
「あなた、まだ謝ってないよ。息子は未遂で止まった。でもあの人の母親は、死んだのよ?」
「ごめん……な……さ……い……」
やっと絞り出した言葉。
けれど、それは誰にも届かない。
■蒼木 蒼 視点(配信終了後)
「さて、これで準備は整った」
延命拒否書類、動画、社会的反響。
すべてが揃った。
「誰かが殺すのを待っているわけじゃない。ただ、“死んでもいい”と決めただけ」
「私の死が、誰かを救うかもしれない。それなら、私はもう満足」
画面を閉じると、部屋には静寂が戻る。
でも、心の中にはまだ、燃えるものがあった。
「さあ、次は“死ぬ自由”をどう使うか。それはあなたたち次第よ」
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