第17話「自己破壊願望」
第17話「自己破壊願望」
■蒼木 蒼 視点
「私の墓石を建立しました」
カメラの前で、私は静かにそう語った。
背景に映るのは、都内の某霊園。
そこには実在する石碑があり、私の名前が刻まれていた。
**“蒼木蒼 享年32 死因:報道の副作用”**と。
「これは“予告”ではありません。“完了報告”です。私はもう、生者ではない」
私の声に、一切の感情はなかった。
けれど、目の奥には、確実に何かが燃えていた。
■佐藤 俊 視点(ユーチューバーB)
「……冗談だよな?」
動画のチェックを終えた後、俺は思わず声を漏らした。
だが蒼の表情は冗談とは程遠い。
「君、ほんとに墓立てたの? 自分の名前で?」
「死者として社会を観察する。それが、私に残された最後のポジション」
「いや、ポジションとかじゃなくて……それ、もう精神的に危ないよ」
「母が報道に殺されて、私は復讐に生きた。その結果、“自分の命を売った方が収益になる”と分かったの」
「それが……答え?」
「そう。“私は死ぬ権利を奪われた。だからせめて、生を売る自由は私が握る”」
俺は震えた。
この人は、ほんとうに“壊れている”。
■井上 美和 視点(編集部長の娘)
「もう限界よ。蒼木蒼の名前を見るだけで吐き気がする」
自室でPC画面を睨みながら、美和は叫んだ。
SNSでは、蒼の“墓石動画”が炎上と賛美を両立させていた。
動画広告収入は数千万単位。
企業のマーケティング部は、スポンサーから次々と契約打ち切りを通知されていた。
「何が“墓石エンタメ”よ。あんなの自殺予告の演出じゃない」
父・井上祐一が部屋のドアをノックする。
「美和……少し、話を」
「もういいって言ったでしょ! 私は“記者の娘”じゃない、ただの会社員よ!」
「だが……お前を巻き込んだのは、俺だ」
「やっと気づいたの? 遅いよ!」
叫び声の中で、美和の中に溜まっていた感情が、一気にあふれ出した。
■橘 美咲 視点(報道被害者の会)
「蒼さん、あなたは……自分の命を“コンテンツ”にするつもりなの?」
通話越しにそう問うと、蒼の声が返ってきた。
「“命を奪われた者”にとって、最大の復讐は“生き残った側に自分の死を抱かせること”」
「あなた、それでも“人”として誰かに向き合う気、あるの?」
「人としてじゃない。私は“装置”よ。社会に怒りを伝播させる仕組み」
「だったら、誰ももうあなたに触れられない。“誰かのために怒る人”じゃなくて、“誰にも止められない怒りそのもの”よ」
「それが今の私の役割」
橘は息を呑んだ。
蒼木蒼は、社会現象という“役”になっていた。
■SNSログ(群衆の声)
《蒼木蒼、墓を立てる。自らに弔いの意思》
《彼女はもう、生きていないのかもしれない》
《怒りを“死”に変換する装置》
《最高の皮肉。報道で殺され、報道で復讐し、自分の死すら商品化》
《やめてくれ。これ以上、死を使わないで》
■斉藤 由香 視点(日本フーズ取締役CMO)
「この女、どこまで行くつもりなの?」
斉藤は社内の危機対策会議でそう言い放った。
「墓石? 遺書? 生きたまま死んだ人間がSNSを支配してるわけ?」
「CM出稿、また15社からキャンセルきました。蒼木氏のリストと並べられて報道されてます」
「リスクは天井知らず。“死”と連動した経済攻撃……もう倫理じゃない、“構造汚染”よ」
「止められますか?」
「止まるまでやらせておけばいい。“死”に近づく者は、いずれ“見えなくなる”。社会が彼女を見なくなれば、それで終わりよ」
でも、内心では斉藤もわかっていた。
この女は、見えなくなるどころか“可視化”を極めていくタイプだと。
■蒼木 蒼 視点(動画収録後)
「私の死は、誰かの再生になるかもしれない。
ならば、“その再生数”を、証明に使って」
撮影を終えたあと、私は墓前に一人立ち尽くしていた。
母の命が商品化された世界。
報道のロジックに乗せられて、家族が死んだ。
だから私は、死のロジックを“自分”に当てはめる。
「私の生は、誰にも使わせない。私が自分で、売る」
その静かな決意だけが、心に残った。
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