第36話、嘘つきたちのティータイム。
翌日、日曜日。
約束のカフェに現れた四人は、昨日までの「伝説のプレイヤー」としての面影を微塵も見せず、ただの高校生としてパンケーキを囲んでいた。
「ふわぁぁぁ! 美味しそうーーっ!」
七瀬が目を輝かせて、山盛りのホイップクリームにフォークを突き立てる。
「七瀬、お前、昨日の夜も『お休みがいい』なんて言ってただろ。そんなに疲れてるのか?」
碧が意地悪く聞くと、七瀬は「げふっ」と咽せた。
「な、なんでそれを……! あ、いや、そう! 勉強だよ! 勉強疲れだよぉ!」
「……七瀬。……クリーム、鼻についてる」
美波が冷静にナプキンで七瀬の鼻先を拭く。
「碧は、昨晩は何をなさっていましたの? 素敵な『戦友』の方々と、夜通し語り合っていたりしたのではなくて?」 椎名が試すような視線を向けてくる。
「え? あ、いや……俺はただのゲームだよ。一人で黙々と。ほら、例の『椎崎』って人の動画を見たりしてな」
「へぇー! 碧、やっぱり椎崎さんのこと好きなんだね!」
七瀬がニヤニヤしながら顔を近づけてくる。
「……椎崎。……かっこいいよね。……碧も、ああなればいいのに」
美波の言葉に、碧は心がチクりと痛んだ。
(なってるんだよ、本人が目の前にいるんだよ……!)
と言いたい気持ちを必死に抑え、彼はパンケーキを口に運んだ。
「そういえば、Team Dのメンバーも、今日はお休みなんですってね。どこかのニュースで見ましたわ」 椎名が優雅に紅茶を飲みながら、さらりと爆弾を落とす。
「えっ!? あ、そうなの!? へ、へぇー、みんな仲良しなんだね!」
七瀬が明らかに動揺して、フォークを落とした。
「……ん。……休息も大事。……きっと、椎崎も……どこかでパンケーキ、食べてる」
美波が碧の目をじっと見つめる。
(……こいつら、まさか……気づいてるのか?)
碧の背中に、冷たい汗が流れる。
だが、三人の瞳にあるのは、確信ではなく、どこか遠い存在への憧憬と、目の前の幼馴染への信頼が混ざり合った、複雑な輝きだった。
「まぁ、正体なんて分からない方がいいこともあるだろ。画面の向こうは、夢の世界なんだからさ」
碧がそう締めくくると、三人は顔を見合わせ、少しだけ寂しそうに、でも嬉しそうに頷いた。
窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
それぞれが秘密を抱えたまま、それでもこの四人でいる時間が、何よりも代えがたい「リアル」であることを、彼らは心のどこかで感じていた。
その日の夜。
碧のスマホに、一通のDiscord通知が届く。
『神志名鈴香:椎崎さん、今日のパンケーキ……じゃなくて、今日の休息でリフレッシュできました! 明日からの練習も、死ぬ気で頑張ります!』
碧は、隣の部屋から聞こえてくる七瀬のドタバタという足音を聞きながら、そっと返信を打ち込んだ。
『椎崎:了解です。明日も、最高の連携を期待していますよ。……鈴香さん』
大会という名の「戦場」と、学校という名の「日常」。
その境界線が溶け合う日は、そう遠くないのかもしれない。
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