第25話、宝石箱の海鮮丼、鉄の味の秋葉原。
観覧車を降りると、時刻は13時を回っていた。
「そろそろお腹が空いてきたので、ご飯食べに豊洲に行きましょうか!」
椎名の一言に、全員のお腹がグゥと鳴って賛同した。
「ああ! そろそろ行くか!」
再び京葉線に乗り、新木場駅へ。
そこから東京メトロ有楽町線に乗り換え、豊洲駅へ。
さらに「ゆりかもめ」に乗り換え、市場前駅で下車する。
移動時間はそれなりにあったが、車窓から見える湾岸エリアの景色が飽きさせなかった。
目当ての店は、市場直結の海鮮丼専門店だ。
少し並んだが、回転が早くすぐに席に通された。
「いらっしゃい! 何にする!?」
威勢のいい大将の声。
「「「「特選海鮮丼で!」」」」
迷いはなかった。全員、一番豪華なやつだ。
運ばれてきた丼は、宝石箱のようだった。
溢れんばかりのウニ、イクラ、マグロ、サーモン、エビ。
「うっひょー!」
「美しい……芸術品ね」
「……ん。……海、ありがとう」
無言で食べ始めた。
美味い。言葉が出ないほど美味い。
新鮮な魚介の甘みと、酢飯のバランスが絶妙だ。
「おい、碧。そっちのホタテ、一個ちょうだい」
「やだよ。お前のイクラと交換ならいいぞ」
「交渉成立!」
俺と七瀬が交換していると、椎名が呆れながら自分のウニを俺の丼に乗せた。
「……仕方ないわね。私のウニ、少し分けてあげるわ」
「えっ、いいのか? 椎名、ウニ好きだろ?」
「今日は十分堪能したからいいのよ。それに……碧、最近痩せたんじゃない?」
「……碧。エビ、あげる」
美波も俺の丼に甘エビを乗せる。
「お前らなぁ……俺を太らせる気か?」
文句を言いながらも、俺はその優しさを噛み締めて食べた。
会計時、大将が俺たちを見て豪快に笑った。
「あんた達、仲いいね! 兄妹か?」
「いや、幼馴染です」
「へぇー! 幼馴染でそんなに揃って仲が良いのは珍しいな。大切にするんだよー!」
「……はい!」
俺は力強く頷いて、店を出た。
背後で3人が少し照れくさそうにしているのが気配でわかった。
満腹になった俺たちは、最後の目的地、秋葉原へと向かった。
ゆりかもめで新橋へ出て、そこから山手線で秋葉原へ。
電気街口を出た瞬間、空気感が変わる。
電子音、メイドカフェの呼び込み、アニメソング。
混沌と熱気が入り混じる街。
「さあ、ここからが本番よ……」
椎名の目が、スナイパーのように鋭くなった。
「うん……! 七瀬、負けない!」
「……美波も、本気出す」
「いや、何と戦うんだよ」
俺たちは大手PCパーツショップのゲーミングデバイスコーナーへ向かった。
煌びやかなRGBライティングが光る店内。
無数のマウス、キーボード、ヘッドセットが展示されている。
俺は特に欲しいものはなかったが、3人の目の色が違った。
七瀬はマウスコーナーで、ひたすらマウスを握っては振り、握っては振りを繰り返している。
「うーん、この軽さはいいけど、クリック感がちょっと重いかな……。あ、こっちはセンサーの位置が……」
独り言が完全にガチ勢のそれだ。
椎名はキーボードコーナーで、展示機を高速でタイピングしていた。
「……銀軸の反応速度、悪くないわね。でも、打鍵音は静音赤軸の方が配信に乗りにくいかしら……。アクチュエーションポイントを変更できるこのモデルは……」
専門用語が止まらない。
美波はモニターコーナーで、残像低減機能のデモ映像を食い入るように見つめていた。
「……240Hzじゃ、もう足りない。……360Hz……黒挿入……。敵の輪郭、もっとくっきり見たい」
動体視力の限界に挑もうとしている。
30分経っても、彼女たちは迷い続けていた。
買おうか、どうしようか。値段を見ては唸り、スペックを見ては悩み。
俺は痺れを切らして、3人の間に割って入った。
「おい、お前ら」
3人がビクリとして振り返る。
「本当に欲しいものなら、今買うべきだよ! 今度いつ来れるかわからないから! 迷ってる時間が勿体無いぞ。良いデバイスは、良いプレイを生む。そうだろ?」
俺の言葉は、ただの幼馴染のアドバイスとして響いたはずだ。
だが、彼女たちの中の「ストリーマー魂」には、火に油を注ぐ結果となった。
「……そうね。碧の言う通りだわ。妥協は、敗北を生む」
「うん! 七瀬、強くなりたい! 買う!」
「……ん。……未来への、投資」
「よし、行ってこい!」
俺は店の外で待つことにした。
秋葉原の雑踏を眺めながら、缶コーヒーを飲む。
あいつら、何を買うんだろうな。ま、精々マウス一つか二つだろう。
15分後。
自動ドアが開き、3人が出てきた。
「お待たせー!」
俺は吹き出しそうになった。
「……えっ?」
七瀬は、巨大な紙袋を両手に抱えていた。中にはハイエンドマウスの箱が3つ、マウスパッド、そしてマイクアーム。 椎名は、キーボードの箱を2つ、オーディオインターフェース、さらに高級ヘッドセット。 美波に至っては、360Hzモニターの巨大な箱を抱え、背中にはリュックいっぱいのケーブル類を詰め込んでいた。
総額、いくらだこれ。数十万いってるんじゃないか?
「……お前ら、随分ほしいものがたくさんあったんだね……」
俺が少し引き気味で言うと、椎名は眼鏡をクイッと押し上げ(今日はコンタクトだが)、キリッと言い放った。
「仕方ないわ。これも将来の投資として買ったんだから、後悔はない!」
「そ、そうか。……ならいいけど」
彼女たちの荷物があまりにも重そうだったので、俺も半分ほど持つことになった。
美波のモニターの箱が一番重かった。
「……これで、勝てる」
美波がボソッと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
一体何に勝つつもりなんだ、こいつらは。
「アニメイトとか、行く?」
俺が尋ねると、3人は首を横に振った。
「ううん! 今日はもう満足!」
「ええ、早く帰って……その、設置設定をしなければなりませんから」
「……ん。早く、試したい」
アニメグッズよりも、新しいデバイスへの渇望が勝ったようだ。
俺たちは、戦利品を抱えた兵士のように、秋葉原駅へと向かった。
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