番外編 遊戯とデート その1
今回は訓練ではなく、あくまで遊戯である。
竜に乗るための軽装に身を包み、ラウノアは同じように並ぶ騎士たちと揃って礼をする。
その先に居るのは王家の面々。マクライ王、アリエッタ妃、ライネル王太子、グレイシア王女。式典などでは見慣れた光景だが、それが竜の訓練場となると珍しさに変わる。
王家の傍では同じように観覧する騎士たちが多数。誰も彼も目が輝き、興奮気味なのが見て取れる。
それも当然である。
現在訓練場にいるのは、式典以外では竜の広場から出ることもなく普段も広場の奥で過ごして滅多と人前に出ることのない、現存最古の漆黒の竜。その傍にいる史上初めての乗り手。
加えて、白竜が三体。体躯や顔つきの個人差はあれど強力な存在。その傍にいる乗り手は誰もが立ち場ある優れた乗り手。
さらにそこに、普段はあまり遊戯に参加しない赤い竜が一頭。竜に懐かれているという稀有な乗り手。今もすり寄ってくる相棒を「はいはい」と軽い調子で慣れたように宥めている。
五体の竜とその乗り手たち。普段の訓練ではまず揃うことのない面々である。
それを見つめるグレイシアは、今にも観覧席を飛び越えそうな威勢で目を輝かせている。
「すごい! すごいわ! こんなにも壮観な光景を式典以外で見られるなんて……! なんて贅沢!」
「落ち着け妹よ。落ちるぞ――……ああ、落ちかけてもガドナンが助けるか」
にやりと意地悪い顔をするライネルにグレイシアは僅か頬を染める。
グレイシアの婚約は先日公表されたところだ。ライネルの婚約事情はまだ公にされていないのでこの場で口にすることはできないから言い返してやることもできない。
兄妹の会話には騎士たちも「ですね」「すぐ飛んできますよ」と笑みを浮かべた。王族の言葉、その反応を笑うは不敬であるが今ここにはそんな堅苦しいものもなく、マクライ王も笑っていた。
礼をしたそれぞれが準備に入る。
相棒竜を撫でたり声をかけたり、それからすぐに騎乗する。騎士たちが頭を下げた竜の角を掴んで飛び乗る中、ラウノアも同じように角を掴み、古竜の尻尾に補助されて鞍に乗った。
「おぉー。俺、初めて古竜が人を乗せるの見た」
「何度見てもすごいよな……。古竜も乗せるのホント抵抗ないし、支えてあげてるし」
「ってか……ラウノアさんの装備命綱だけじゃん! あれ大丈夫なわけ!?」
ラウノアが古竜に乗って区域上空を飛ぶことは偶にある。しかし、その姿は地上から見るもので、準備も人目の中でするわけではないので、実際の騎乗様子を見る者は実を言うと多くはない。
なので、騎士であり竜使いである他の者と違う点も、聞いてはいても見てはいない。
「大丈夫よ。ラウノアさんはあれで何度か飛んでいるし、古竜の意思に任せた飛び方をするから」
ラウノアとも親しく竜の区域へもよく出入りするグレイシアの言葉に、騎士たちも少しずつ驚きを鎮める。
観覧席の動揺をなんとなくラウノアも察した。
仕方ない。見せるのは初めてだ。
「では、組に分かれよう」
シャルベルの言葉で竜が動く。
対戦の組み分け。これは事前に決めてある。
ラウノアとレリエラ、対するシャルベルとガドナンとルイン。見て分かりやすく女性陣対男性陣である。
(古竜を参加させるとなると、どうしても青や緑の竜は委縮する。序列と経験と年齢を踏まえて、なんとか白以上の乗り手を確保したけれど……)
古竜を参加させる条件が厳しい。竜使いは少ない上、竜の序列が上になるほど乗り手はいない。
ガードナーの相棒竜ロルス、レリエラの相棒竜シラヴィアは序列こそ竜の中では中位だが、すでにそれなりの年齢もあり古竜に怯んで委縮することはない。シャルベルの相棒竜ヴァフォルは乗り手同士の影響で古竜に近づくことがあるからか、今も若さも相まって非常にやる気にあふれている。元より負けず嫌いなところがあるので、そんな様子にラウノアは小さく笑った。
ルインの相棒竜ラーサナは古竜に次ぐ序列ということで古竜に怯む様子もない。むしろ乗り手を乗せて遊べると思っているのか、なんだか楽しそうである。
序列から鑑み、古竜とラーサナを別に、白竜たちにそれぞれついてもらうことになった。数の優位は偏るが、話し合いの結果ラウノアはレリエラと組むことに決まった。
「む……。副団長め。ラウノアの敵になったな」
「ケイリス殿はどちらを応援しますか?」
「俺はもちろんラウノアで!」
「じゃあ、私は兄上を応援しましょうか」
観戦する兄と弟も「負けませんよ」とケイリスが一方的に燃えている。「おまえじゃねえだろ」と同僚に突っ込まれつつも、観覧席から笑いが消えない。
組に分かれたラウノアはレリエラとシラヴィアに「よろしくお願いします」と声をかけ、シラヴィアも古竜に挨拶をした。
「では、改めてルールを説明する。使うのはこの球だ。触れていいのは竜だけだが、保持することは認められない。味方で協力し、これをゴールへ打ち込む。制限時間内でとれた点数を競う。本来はもう少し多い人数でやるものなのだが、今回は俺たちのみで行う」
「ねえシャルベル様。これは訓練ではなく遊戯なのだし、なにか景品を用意しない?」
「……レリエラ殿のその提案はあまりいい予感がしないな。ちなみに、なにを?」
うふふっと楽しそうに笑うレリエラは、シラヴィアに指示をして古竜に近づくとなにやらこそこそ話を始めた。それを見るシャルベルはわずか眉根を動かす。
いい予感がしない…。そう思う胸中に確信を与えてくるかのように、レリエラの提案に最初こそ戸惑っていたラウノアも話が進むにつれ表情が変わっていく。
「うっわー。レリエラ副団長絶対なにか企んでますよ。どうします?」
「二人のその微妙な表情はあまりいい予感をさせないな……」
「シャルベル副団長、ガドナン隊長。こっちもなんか考えましょうよ」
「「なにか……」」
「なんなんですか二人揃ってその顔。言っときますけどあくまでこれは遊戯ですから。仕事関係やめてくださいよ」
なぜだろう。ルインがじたりとした目を向けてくる。
シャルベルもガドナンも仕事に精を出す性格なので、遊戯の景品といっても特になにも思い浮かばない。
「ルイン。ちなみにおまえは何がいい?」
「休み」
「これは遊戯だと言ったのはおまえだ」
「ちぇ。ん-……んじゃ、菓子の景品」
「そんな物でいいのか?」
ガドナンが少し呆気にとられたようにルインを見て言う傍で、シャルベルも同じ感想を持った。
二人の少し驚いたような視線にルインは頬を掻く。
「この中じゃ俺だけ平民じゃないですか。俺には手に入らないような、そりゃ美味い菓子とか知ってるんでしょ?」
「好きなのか?」
「いや……。うち、弟妹がいるんで」
少しだけもごもごと答えたルインに、ガドナンは「そうか」と優しく笑った。
他になにか思い浮かぶでもないので、シャルベルも「それでいくか」と視線を戻す。二人の話がまとまったのか、レリエラがにこりとこちらを見ていた。
「要求は?」
「王都で今人気のカフェに連れていってほしいな」
……なるほど。それはラウノアも「そんな景品だなんて…」と言わないわけだ。
シャルベルは両隣へ視線を向ける。ルインは「はいはい」と肩を竦め、ガドナンも「了解です」と苦笑う。
「分かった。では、こちらからもいいか?」
「もちろんよ」
「あなたたちお勧めの菓子をいただこう」
「あら……。ふふっ。可愛いお願いなら喜んで」
菓子を今度ラウノアと一緒に食べるのもまたいい。そう思い直し、シャルベルは手綱を握る。
そして、手に持っていた球を、上空へと放り上げた。
最高点に球が到達する。それが落下を始めるまでの数秒。
――風が、荒れた。
番外編を拝読くださりありがとうございます。
新作の連載を始めました。
周囲から蔑まれる若き公爵と、その公爵に父を殺され挙句には結婚することになった他国の姫……の体に転生した、自由気ままでやると決めたら手段は選ばない魔法使いのお話です。
それまでの姫君とは全く違う空気と振る舞いに振り回されつつもその姿に視線が向いて仕方ない公爵と、やると決めたことをひたすらにまっすぐ手段を選ばず突き進む姫との、波乱万丈な生活の幕開けです。
『落ちこぼれ公爵の守り獣』URL……https://ncode.syosetu.com/n4631lc/




