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慎まし令嬢が目立ちたくない理由  作者: 秋月
第六部

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15,あなたはもうどこにもいない

「俺は、俺と父上が為したことを後悔しない。過去を否定しない」


「力があるくせに使わないのは弱者だからだ! 死んでいくばかりを見てもあんたはそう言えたのか!?」


「言えるよ」


「っ……」


 あまりにも迷いなく、はっきりと。その眼差しが答える。


 息を呑んで、その隙をギルヴァの魔法が衝く。弾かれて距離をとり、肩で息をした。

 目の前にいるのはただの小娘の姿形。なのに戦っていると、どうしてもギルヴァの姿が視界に映る。


(違う。違う違う違う!)


 あの人は、誰よりも強くて、誰よりも尊敬した、自分の憧れ――……


「あなたは僕たちの王だ! 地の王だ! 僕たちを踏み台にしても全部取り戻す責任があるはずだ! 放棄するな! ――そんなのっ、あなたじゃない!」


 ――ギルヴァが、泣きそうな、悲しそうな、寂しそうな、顔をしたように見えた。


「それでも俺は……受け入れる」


「っ……」


 なんで、そんなふうに言うんだ……。

 憎いだろうに。恨んでいるだろうに。味方にならないならなんでなにもしない。


(あなたは真の王で、真の英雄王になる人で……)


 あんな汚い英雄王じゃない。ギルヴァこそが本物だ。

 だから全部取り戻そう。奴らは偽りなんだと国中に知らしめてやろう。


「……憎くないの? 殺してやろうって思うだろう!?」


「いつか来る。分かっていたときが来た。それだけだ。遅かれ早かれああなっていた」


「なってない! あなたなら全部壊すことができた! 逃げただけだ!」


「できねえよ。俺はそこまで超人じゃねえ。――俺たちが生き残るには、融和しかなかった」


「違う!」


「違わねえよ。奴らがなにを口走ってたかは、おまえだって知ってるはずだ」


 知らない。知らない知らない知りたくもない!

 だってできたんだ。ギルヴァならできたんだ。すべてと戦って、退けて、自分たちの英雄になったんだ。


 ――……なのに、ギルヴァはそうしなかった。

 それが、許せなかった。認められなかった。


「クロリス。俺は、おまえとは行かない」


「っ……」


 拒絶だ。圧倒的で、揺るがない。


 ――同じだ。あのときと。

 だから解る。また、繰り返すのだと。……そんなの、耐えられない。


「ふざけるなっ!」


 風が、水が、火が暴れ出す。

 暴れる力にもギルヴァは冷静に対処する。ラウノアの身が傷つかないように、氷で防いでさらなる風で主導権を奪い取る。

 周囲で吹き荒れる突風に、アレクもシャルベルも圧倒されながらも視線を逸らさない。


 ギルヴァの力がすべてを相殺させ、さらに空へと手を掲げる。暗雲もなく雷が落ちた。

 直撃せんとする威力にクロリスはすぐさま飛びのき、視界から消えたギルヴァに目を瞠った。次の瞬間には背中に衝撃を感じ、地面に落下。


「げほっ、げほっ」


 咳き込むクロリスの前にギルヴァが立った。息を乱さず、腰に手をあてて見下ろす。

 そんな王を見遣り、クロリスは息を吐いた。


「……あなたの、あの、民への想いは嘘だったの……? なくなったらもう、どうでもいいの……?」


「……」


「答えろよ! ギルヴァ・ディア・ルーチェンハイン! 仇を討とうって想いもないのか!?」


 ギルヴァはなにも言わなかった。ただ、クロリスの悲痛な思いを受け取るだけ。


 全部、全部、憶えている。忘れたことなど片時もない。

 いつだって意識の中にそれらはあって。無意識のように周りを変える。


 愛している。大好きだ。――たまらなく。

 だから――終わらせた。最善を弾き出すために。


 それが正解だとか間違っているとか、そんなことは分からない。

 クロリスからすれば間違っていたのだろうし、あの場にいた者たちの中には同じことを言う者もいるだろう。

 それが正しいのかもしれない。戦うべきだったのかもしれない。勝利を収めれば平穏がずっと続いて――……


(――…いや。それはない)


 間違っていると言われても。――あの選択を、後悔はしない。

 命を落としたすべての者に罵られても。期待外れだと怒って泣かれても。


「――愛してるよ」


「っ……!」


 静かで、優しくて、悲しくて、泣きそうで、あたたかな心があふれるような、そんな音。

 だからクロリスは息を呑んで、言葉を失った。


 思い出してしまう。


『俺は、おまえたちを愛してる』


 どこまでも気高くて、誇り高くて。恐れも怯みもなく。前を見据えるまっすぐな瞳。

 最期のその瞬間まで、この人は――地の王だった。


 ――なのに、あの人はもう、どこにもいない。


 怒りなのか悔しさなのか、無力感なのか。あふれる想いがなんなのか自分にも分からない

 だけど、これまで自分が必死にしてきたことが全部意味のないものにされたことだけは分かる。


 氷の剣を作ってギルヴァに挑む。ギルヴァも同じように剣を作って応戦する。

 砕けない氷はガツガツと音をたて、月の光で煌めく。その煌めきの差をシャルベルはすぐに見抜いた。


 打ち込んでくるクロリスの剣筋を見極め、ギルヴァはそれを防ぐ。

 ガンガンッと鳴る音が昔のようで懐かしいけれど、今は、感傷に浸るときではない。


 数度打ち合い互いの距離が離れ、クロリスは大きく息を吐いた。


「――……うそつき」


「……」


「闘志も強さも忘れたあなたに用なんてない。どうせ、そのラウノアに絆されたんでしょ? 昔からモテるもんね、ギルヴァ様はさ」


「おまえも僻みか?」


「いらないよそんなの。あなたが大人しい理由は何? ラウノアのため? それとも、このお国のため? あの愚王の子孫のためとかじゃないよね?」


「俺は俺のためにいるだけだ。おまえの言う昔とは違う」


 口端が下がり、情が見えなくなる。

 そんなクロリスをじっと観察するように見つめていると、その口角がフッと上がり「ははっ」と乾いた笑みがこぼれた。


「ふーん。じゃあ、これはいいよね? 消しても」


「「!」」


 なにもない、クロリスのすぐ傍に見えた影。

 隠された姿。首に巻かれた木の枝のような蔓状のもの。もがいてもそれが取れない苦し気な表情。


(あれも禁術でつくった精霊の仕業か。チッ。感知しづらい)


 ギルヴァは思わず舌打ちをした。しかしそれで状況が好転するわけではないので、目の前を睨んですぐに思考を戻す。


 囚われているライネル第二王子。さて、どう救出するか――。


 突如として見えたライネルの姿にシャルベルは目を瞠った。どうしても足が出かけてアレクに止められる。


(まさか事前に人質に……!?)


 ならばここへ来る間際だろう。カーランがライネルを狙っていたのならば捕えるのは簡単な話だ。

 拳が痛い程掌に食い込む。


「アレク。殿下をあのままにはできない。すぐに救出に――」


「若の邪魔」


「そうも言えないだろう。殿下がいれば奴にとっても邪魔になるはずだ」


 だから、ライネルが出てきてからギルヴァの動きは止まった。ラウノアがしない、眉間に深い皺を刻んで思考しているのだろう表情が見える。

 会話は聞こえないが、ギルヴァにとってもおそらく誤算のはずだ。


 歪んだ顔で笑いながらなにかを言っているカーランと、黙ったままのギルヴァの姿が見える。

 人質がいればギルヴァが動きを制限される。ここまでは優位を保っているようだが、その勢いがここで変わる可能性が高い。


(なんとかして殿下を救出しなければ……)


 最悪な結果だけは回避しなければいけない。


 同じように衝撃を受けながらも機会をうかがうギルヴァは、視線をクロリスとライネルに向けたままガッと氷の剣を地面に突き刺した。戦闘の意思を放棄するかのようなその態度にクロリスは顔を顰める。


「そいつ、解放してくれねえか」


 ――出てきたのは、聞きたくなかった要求。

 瞬時に額に青筋が浮かぶ。拳が震えて仕方ない。


「やだよ。ギルヴァ様だってこいつのことどうでもいいでしょ? なんでそんな要求されなきゃいけないの」


「俺がどうでもいいと思っていることと、国にとって大事であるかは別問題だ」


「馬鹿馬鹿しい。それこそギルヴァ様には関係ない」


「――大ありだ」


 なにを言っているのかとクロリスの顔が歪む。苦し気なライネルの目がギルヴァを捉える。

 まっすぐ二人を見つめ、ギルヴァは初めて不快を出した。


「俺の前で王太子を人質にした罰、贖ってもらうぞ」






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