みぎの 1
となりのじさまは意地悪だ。
うちのととさまみたいにニコニコしてない。
うちのととさまみたいに皆を笑わしたりしたい。
となりのじさまはと話すとき皆はいっつも顰めっ面だ。
となりのじさまと話すとき、紙を持って泣いてる人もいる。
となりのじさまは意地悪だ。
それにととさまはとなりのじさまはごうつくじじいだ。っていっていた。
ととさまが貰えるお金をとなりのじさまがもっていくって。
だから、となりのじさまは悪いやつだ。
「やぁ、いい天気だ。今日は君のととさまはどした?」
畑で雑草を抜いているととなりのじさまはそう声をかけてきた。
「ととさまは暑いから茶ぁ飲みにいった」
そう答えるととなりのじさまはちょっと困った風に笑って俺の頭に傘をのせた。
じりじりと頭のてっぺんを焼く日差しがなくなって俺はほっと息をはいた。
「これを飲みぃ」
そういってじさまは冷たい竹筒を俺に渡した。
ひんやり冷たい青竹の臭いのする水は不思議と甘くて、俺はごくごくと全部飲んでしまった。
飲みきってからはっ!としておこられると首を竦めながらおそるおそる見たとなりのじさまの顔は、にこにことしていて怒ってなどいなかった。
「今日は暑いからの」
と笑って俺の手の中の空っぽの竹筒のかわりに、新しいずしりと重い竹筒を俺に渡してくれた。
「疲れたら休みぃ」
そういってじさまは俺の頭の笠は紐を顎のしたで結んでくれた。
頬に触れた手はひんやりと冷たくて、俺は笠の下でぎゅっと目を閉じた。
じわじわと鳴く蝉の声がやけに耳にうるさかった。
竹筒と笠は次の日ととさまが持っていってしまった。
おれはそれをぼんやり見てた。
となりのじさまは悪いやつだ。
俺のぼさぼさの畑の向こうでは綺麗な青い穂が風に揺れる田んぼの畔でとなりのじさまが楽しそうに何かをとってた。
俺と同じなのに…
となりのじさまの手の先に俺はいない。
ひんやりつめたいあの手の先に。
おれはととさまと手を繋いだことなんかないのに。
となりのじさまは意地悪だ。
となりのじさまに頭をなでられると俺はいつだって腹がいたくなる。
となりのじさまは意地悪だ。
俺のととさまがどんなにダメなやつなのか、一緒にいるだけでわかってしまう。
しらないふりをしていたいのに。
となりのじさまは意地悪だ。
だって、どんなにねがっても俺のととさまにはなってくれない。