となりのじさま 2
さて、となりのじさまはジイさんの言う通り日がくれたあと、山の麓にある小さな社へと向かった。
大きな御神木に続く参道には灯りが灯されその御神木の裏から笑い声と軽快なお囃子の音が聞こえてくる。
(こんな場所で宴が本当にあるなんて…奇妙なことがあるもんだ)
そう思いなら御神木の裏をひょっこりと覗くとそこでは青、赤、黄色、緑、黒…色とりどりの肌と立派な角を持った鬼達が宴会を開いていた。
ガハハと笑うがばりとあいた大口には黄色いギザギザとした歯と大きな牙。
小鬼達に酌をさせている鬼達の側には行李箱がひとつ、無造作に置かれていた。
バチりとひときわ大きな黒鬼ととなりのじさまの目があった。
黒鬼はニィッと血のように真っ赤な口を開けて笑った。
「おうおう、逃げずによう来たなァ。さぞやこの質草が大事と見える」
そういって黒鬼は行李箱を開けるようにと小鬼に命令をした。
(そういえば、ジイさんはこぶは鬼が貰ってくれたと言っていたな…)
昼間の会話を思い返したとなりのじさまの前で、開けられた行李箱の中からジイさんのこぶがぽーんと放り出され、鬼の前にころりと転がった。
「さあ、昨日のように踊って見せろ」
大きな黒鬼はガラガラ声でとなりのじさまにそう告げた。
なるほど、そういうことか。ととなりのじさまは納得した。
「宴とは聞いておったが鬼の宴とは聞いておらなんだなぁ…まったくジイさんも呑気な人だ」
はぁ、とため息をはいたあと、となりのじさまは舞うためにすい、と手を空に泳がせた。
手の甲には光る牡丹の花がぼんやりと浮かび上がった。
ひらり、くるりととなりのじさまが舞う度に光の軌道が結ばれて精緻な印を描いていく。
そうこうしているうちに呆けた顔をして躍りを見ていた鬼達の中で唯一、となりのじさまのしていることに気付いた黒鬼は慌てて立ち上がって叫んだ。
「お前の踊りなんぞ見たくもない!こっちのこぶも返してやるからもう二度とここへは来るな!!」
黒鬼はそう怒鳴ると、となりのじさまに昨日、ジイさんから質草にとったこぶをおしつけ、小鬼達を連れてせわしなく帰っていった。
こぶをふたつに増やされたとなりのじさまは悩んだ。
鬼に質草としてとられていたジイさんのこぶはみぎに、いつものようにひだりのこぶがある場所はそのまんま。
「さて、こまったのぉ」
そう呟いてとなりのじさまはこぶをみた。
まあよいか。
となりのじさまは増えたこぶといっしょに家路についた。
帰り道、ぽつりと声がした。
「ととさまは…」
儚いこえはその先を言わなかった。
となりのじさまはその声の主の手をぎゅっと握り返した。
「ジイさんは実家に用事があると、昼間、西に旅立っていったよ」
そう答えたとなりのじさまの言葉に返事はなかった。
ただ、ぽとり、とあたたかなものが繋いだ手の甲におちた。
(本当にジイさんは呑気なひとだ)
となりのじさまはそっと息をはいた。




