となりのじさま 1
「おーい、となりのじさまや!!」
どんどんと戸を叩く音にはいはいと返事を返しながらとなりのじさまはガラリと戸をあけた。
すると、隣に住むジイさんがすっきりとした顔で戸を叩いていた。
ジイさんは明るく、話上手なひょうきんものでいつでも笑っている。
年も同じ頃、住んでいる場所もとなり同士持っているこぶも同じくらい。
けれど、ジイさんとなりのじさまの性格はずいぶんと違った。
「おらは旅にでることになってなぁ、すまんが…今晩、山の麓の社の奥でちぃとした宴があるでな、おらの代わりに舞をおどってくれや」
賑やかしの上手のジイさんのように踊れるかの…となりのじさまは悩んだが、
「なぁに、たいしたこたぁねぇべや!」
と背中をばしーんと叩かれ、まぁジイさんがそう言うならば、ととなりのじさまはジイさんの代わりに踊ることを引き受けた。
「しっかし旅とは急なことだなぁ…なんぞあったか?」
「急いで実家にいかにゃならんでなぁ」
と、その時となりのじさまは、ジイさんの右にいつも在ったこぶが無いことに気がついた。
「おや?ジイさんのこぶは?」
「ああ、鬼が貰うてくれたわ」
カカカッと明るく笑ってじいさんは「したらば」と荷物を背負い直して峠を降りていった。
ジイさんはこの村の長老の妻のセン婆さんのことをよく鬼ハバとからかって村人の笑いを誘っていた。
「へぇ、あん人がこぶをねぇ…」
意外なこともあるもんだ。
そう思いながらとなりのじさまは西へと続く道をゆくジイさんの背中を見送った。