ダンジョン突入
魔王がダンジョンに行けばいいんじゃねって言ったから、ダンジョン行くことにしたのだが、何故か、僕は魔王の部屋で髪を染めていた。
「なあ、魔王。何で僕って髪の毛染めてるの?」
「あ? そりゃあ目立つからに決まってるだろ、この世界で黒髪、黒目なんて勇者かその子孫しかいないんだよ」
「バレちゃ不味いのか?」
「当たり前だ。勇者とその子孫はだいたい強いからな。強いからいろんな国が勇者やその子孫を欲しがる、なんたって魔王がいるからな。勧誘がしつこいし、酷い時は誘拐されたりする。あいつらは人権というものを知らないからな。そして、奴隷にする魔法を使われて死ぬまで戦わされたり、強い子供を作るのに利用されたりする。それが嫌だったらバレないようにするんだな」
「分かった」
この世界の闇を垣間見た気がする。
確か魔王はもともと勇者だったらしいし本当にいろいろあったんだろう。
絶対バレたくない。
そう思った。
「というかナオ、本当にその色でいいのか?」
「ああ、これで良い。早くやってくれ」
「いや、でも抵抗無いのか? 今は子供だから無いのかもしれないが、大きくなって改めて考えた時にあの時の自分は何て馬鹿だったんだって後悔すると思うぞ。その時に髪色は変える事は出来るが、記憶までは無理だぞ」
「良いって言ってるだろ」
「でも銀はないんじゃないか」
「僕は昔から髪色を変える時は金か銀って決めていたんだ。そして最近、凄く明るいものを長時間見たせいで目を傷めた。その影響で目に優しい色に憧れをもったんだ。ずっとグラサンしているのもその影響だ。お前も分かるだろう金と銀とじゃ、どっちが目に優しいってことぐらい」
「選択肢が極端すぎると思うんだが」
「うっせ、早くやれよ」
「――ッ、黒歴史になっても知らないからなっ!」
「おうよ!」
「よしっ! ミリナ頼んだ!」
「分かりました! 魔王様!」
「お前じゃないんかい!」
ミリナさんは魔王の従者の一人だ。
何を隠そう僕がずっと変な奴呼ばわりしていた人だ。
だけど話してみてびっくり、凄い良い人だった。
ただ一つ欠点がある。魔王に執着し過ぎているのだ。
そこさえ無ければ凄い良い人なのだ。
言い訳だがミリナさんが変な奴に見えたのには理由がある。
ミリナさんはモンスター化で蜥蜴人になれる。
だから、変な奴に見えたのだ。
ちなみに、モンスター化を解除したら、眼鏡をかけたかなり美人な女の人だった。
ミリナさんは人間の姿の方で情報操作というスキルを持っている。
そのスキルを使って僕の髪の情報を黒から銀に変えてくれるそうだ。
「終わりました」
「早っ! もう終わったの?」
「ああ、もう銀色になってる。気になるならそこに鏡があるから見てみろよ」
魔王が指を向けている所にダッシュする。
――うわっ! 本当に銀になっている。
しかも元からそうであったように自然で綺麗な銀色だった。
「よし! 髪の毛染めたから次は目だ!」
「あのさ、これって染めているわけじゃないし、どちらかって言うと変えたの方が合ってるんじゃね」
「確かに! って、そんな事は別にいいんだよ! 目だよ目!」
「目だったら僕は基本的にグラサンか仮面だから大丈夫じゃないか?」
「……それもそうだな、バレなきゃ大丈夫だし、元からの馴染みのある色を無理に変える必要もないか。後は道具類だな。ダンジョンに必要な道具は食料と地図と回復系のポーションと武器ってところか……よし、ミリナ持って来い」
「ここにもうあります」
「流石ミリナだな!」
「ありがとうございます」
「ナオ収納箱出せ」
「いいのか?」
「ああ、俺が勇者を召喚してるのは、勇者の保護と抵抗する力を強くするためだからな」
「そうなのか、ありがとう。『収納箱』」
魔王は収納箱を開いて次々に道具を入れていく。
この収納箱は発動したら目の前に出て来る事は変わらないが、落ちない。とても便利だ。
慌ててキャッチする必要が無いからとても使いやすい。
何でも入るし。
「武器は一通り入れてみたから合うやつがあるか試してみてくれ。ポーションは赤色のがHpで、青色のがMpなちゃんと覚えとけよ」
「ああ、ありがとう」
「あ、そうだ。この世界の常識を少し言っとくか。何から言おうか……そうだな、まずお前が今から行くダンジョンは俺の友達の魔王が作ったダンジョンだ。そのダンジョンは練習用みたいなダンジョンだから死ぬ事が無い。死にそうになったら外に放り出される。でも、怪我したら普通に痛いからあまりダメージは受けない方が良いだろう。ダンジョン外だったら殺したモンスターはアンデッド化するから燃やすか埋めなきゃいけないが、ダンジョンだったらダンジョンに吸収されるから何もしなくていい。あと、殺したモンスターからは魔石が落ちる。売ったら金になるからちゃんと回収しとけよ。って所か」
長いな。
でも、常識らしいし覚えていた方がいいよな。
えっと、・今から行く所は魔王の友達の魔王が作ったダンジョン
・そこでは死なないが痛い
・ダンジョン外のモンスターは倒したら燃やすか埋める
・ダンジョンのモンスターの死骸は処理しなくていい
・モンスターからは魔石が落ちる
って言ってたな。
「あ、そうだ。ステータスは召喚された奴しか使えないから外ではあまり使うなよ」
「そうなんだ、分かった」
「あと、モンスター化は魔族しか使えないから魔族以外の奴には絶対見られるなよ」
「ああ分かった。あれ、僕って魔族なの?」
「魔王に召喚されたからな」
「そうなんだ」
僕って魔族なのか。
まあ、別にいいか。モンスター化っていう便利なスキルが使えるし。
ステータスは……別にいいか。
僕あいつ嫌いだし。考えたくないね。
「あとは、加護をやるよ。あると便利だしステータスにも恩恵が付く。でも、加護を与えたら俺に属した者となる。それでもいいか?」
「別に良いよ。魔王良い奴だし」
「ありがとな。じゃあ、名前を授ける別に何でもいいか?」
「凄く変じゃなければ良い」
「そしたら、ナオにはピエロという名前を授ける」
「……まんまだな。まあ、別にいいか」
「よし、じゃあ飛ばすか! 夜には迎えに行くから入口にいろよ」
「あ、ちょっと待って! 服装を変え――――」
「転移!」
「マジ――――」
――――――――――
「気持ち悪ぃ、やべぇ吐きそう」
転移に全く耐性が付く気がしない。
何回も使ってたら慣れるとか言ってたけど、僕は慣れるまでに何回吐くのだろう。
それにしても……着替えられなかったな。
今の見た目完全にピエロになってるよな。
どうしようなんか嫌だな。
仮面取ってグラサンにでも変えとくか。
……これで少しは見た目がましになっただろう。多分。
さて、気を取り直してダンジョン攻略でも行くか。
えっと、あれが入口か?
目の前には石で出来たアーチみたいなものがあり、その奥の巨大な岩には三人くらいだったら余裕で通れそうな穴があった。
そして、その穴の近くにはテーブルと椅子が何個かあり、人がちらほらと居る。
とりあえず、僕は椅子に座っている受付っぽい人に情報収集の為に話かける事にした。
「あの、すみません」
「はい、どんな用でしょうか」
「実は僕、今日ここに初めて来たんですが……」
「新規の方ですね。では、確認したいことがあるので幾つかの質問に答えて貰っても良いでしょうか」
「あ、はい」
「貴方はどちら側の人間でしょうか、差し支えなければ主の名前をお聞かせ下さい」
受付っぽい人の雰囲気が鋭くなった。
きっとこれは、魔族かどうか確かめたいのだろう。
ずっと魔王って呼んでたから魔王の名前知らないし。
魔族側って言っても証拠を求められそうだし。
ステータスプレート見せれば一発だろうけど魔王に釘をさされたからな。
モンスター化も……あれ、そう言えば僕って今モンスターになってるよな。
グラサンだから分からないのか? 仮面付けてみるか。
グラサンを取って仮面を付けてみた。
受付っぽい人の雰囲気が元に戻った。
「ピエロですか、珍しいですね」
「自分でもそう思いました」
「失礼しました。私はこのダンジョンの受付をしているマエルと言います」
「はあ、そうですか。マエルさん何かここのマナーとかってありますか?」
「マナーでしたら、人が弱らせたモンスターを横取りする。モンスターを引き連れてそれを人に押し付ける。等の人の邪魔をすることを控えていただけたら、あとは特にありません」
「そうですか、覚えとくと良い事とかは?」
「そうですね……ではここの説明を。右から順に受付、武器屋、道具屋となってます。武器屋では武器や防具を売っていて、道具屋ではポーション等を売っています。そして、ここでは魔石等のモンスターからドロップした物を引き取っています」
「そうですか、ありがとうございます」
受付の姉ちゃん苦手なタイプだ。
ああいうタイプは喋りにくいんだよな。
というかダンジョン入っていいのか?
確認っていうのが終わったらしいしもうダンジョン入っていいよな。
僕は受付の人を何度かチラチラ見てからダンジョンに入って行った。
――――――――――
長い階段を下って行ったら、やっと平けた場所になった。
どうやらここが一層らしい。
壁ににそう書かれたプレートがあったしきっと一層なのだろう。
とりあえずモンスターどっかにいないかな。
僕はそう思い、きょろきょろと一層を見渡した。
ん、あれは何だ?
全身緑色で、細い棒きれを持ち、汚い布を纏ったモンスターがいた。
きっとあれは雑魚キャラとして、元いた世界で有名だったゴブリンだろう。
目が合う。
そしたらこっちに走りだし何かを叫び出した。
『ウッヒャア! ニンゲンダ! 俺ノエモノダ!』
……あれ言葉が分かるぞ。
もしかしたら、これが翻訳というスキルの効果の効果なのか。
人外の生物の言葉が理解できるようになるとは……凄いな翻訳。
チートスキルじゃないか。
そうだ言葉が分かるのなら試したかった事が出来そうだ。
「思考誘導」
『食ラエ! ニンゲン!』
「止まれ!」
ゴブリンが僕の前でぴたっと止まった。
思考誘導の使い方は自信が無かったがちゃんと効いているようだ。
それにしてもまさか一言で効くとは、何という反則的なスキル。
よし、じゃあ試してみたかった事をやってみるか。
「お手」
『ゴブ?』
「おかわり」
『ゴブ?』
犬みたいな事が出来るかなと思っていたがゴブリンには出来ないらしい。
知能が足りてないのか?
これじゃあ、試したい事が出来なそうだ。
というか、お手やおかわりすら出来ないんだったら、こいつは一体なんだったら出来るんだ?
……試しに色々言ってみるか。
「歌え」
『ゴブ?』
「ジャンプ」
『ゴブ?』
「……回れ」
『ゴブ?』
「……バク転」
『ゴブ?』
「……なんだったら出来る」
『ゴブ?』
こいつ舐めているのか?
しかも何故『ゴブ?』としか言わない。
さっきは普通に『うっひゃあ! 人間だ! 俺の獲物だ!」とか言っていたのに。
馬鹿にしているとしか思えない。
掛かった振りでもしているのか?
ゴブリンは僕で遊んでいるのか?
……ムカつくなぁ、練習用ダンジョンの一層目ごときの魔物の分際で。
「死ねばいいのに……」
『ゴブ!』
「えっ?」
ゴン! ゴン! ゴン!
ゴブリンは『ゴブ』と言ったら、何回も自分の頭を持っていた棒で殴り出した。
十回くらいそうやっていたらゴブリンは倒れ、石を残し消えた。
どういう事だ?
今までの言葉は理解出来てなかったのに、何故さっきのは理解出来たんだ?
殺すという事しか考えられないような、野蛮で低能な生き物だったという事か?
分からない、謎だ……。気が向いたらまた試してみるか?
……とりあえず、この問題は置いとこう。
さっき出て来たこの石が受付の人が言っていた魔石だろう。
収納箱にしまっとこう。
……あれ? そういえばこれ初戦闘じゃないか。
こんなんでいいのだろうか。
それにしても、まさか上手く行くとは。
思考誘導でどんな敵も倒せるのではないか。
もしかしたら知能の高さで掛かりやすさが変わるかもしれないが。
ゴブリン頭悪そうだし。
……やべえ、何か楽しいぞこれ。
ゴブリンを倒したという事実が全身を心地気に刺激している気がする。
あとは、これが経験値として入っていれば、尚且ついいのだが。