魔王城の愉快な変人達①
自分の部屋を出て魔王城を歩き回る事数分、僕達は人形が思った道り広大な魔王城を迷いに迷っていた。
言い訳だが、この魔王城が広大過ぎるのが悪いと思う。
それに、この世界に来てから転移魔法でしか移動をした事がない。だから、僕はぶっちゃけ悪くないと思う。
ちなみに、僕は方向音痴では無い。
だから、ある程度の目途を立てて歩いていた。
食堂というから、一階にあるだろうと思い階段で下を目指した。
一番下まで降り、歩き回っていたら優しそうな見た目をしたオッサンが「こんな地下深い所まで来てどうしたんだ坊主?」と興味あり気に喋りかけて来た。
どうやら、この魔王城には地下があるようだった。
つまり僕の、階段を最後まで降りて行って、その階をウロウロしていたら食堂にたどり着けるんじゃね? という淡い希望が消えたのだった。
とりあえず、その時は「地下に興味がありまして……」と言いその場を後にした。
今更思ったが、地下に興味があるとかどんな奴だよ、と思う。
とにかくその事があり、まあ初めからそうだったんだが、自分が今何階にいるかも分からない状態で僕達は魔王城を歩き回っていた。
「あの、ご主人様……。いい加減、誰かに尋ねた方が良いと思うのですけど」
「話した事のある奴とかだったらいいけど、素性の分からない奴に頼むのは嫌いなんだよ」
「何故ですか?」
「だって、面識の無い奴を頼るって何か嫌じゃない?」
「私には良く分かりません。ですが、このまま歩き回るのは愚策だと思いませんか?」
「そうなんだよな……。やっぱり、普通に聞いた方がいいかな」
「そうした方が良いと思います。でしたら、早速あそこにいるがらの悪そうな中年に聞いてみましょう」
……中年ってどこでそんな言葉を?
僕ってそんな言葉を使ったりしたっけ、でも多分使ったんだろうな。
吸収しないと普通は言葉を覚えないもんだからな。
またランクアップして、ちゃんとした自我を持った時に言葉遣いが悪かったらショックを受けそうだな。
……人形の前では汚い言葉を使わないようにしよう。
よし、だったら早速この中年で僕の言葉遣いの良さを人形にちゃんと見せるか。
「あの、ちょっと良いですか?」
「ん、どうした?」
「実は僕達、食堂に行きたいのですがここに来たばっかりで、道が分からなく迷ってしまい自分たちが今何処にいるかも分からない状態なんですが……良ければ食堂への行き方を教えては頂けないでしょうか?」
「えっ、無理。俺、そういうのはやらない主義なんだよな。特にお前みたいな良く分からない見た目をしている奴にはな」
「……ソウデスカ。時間を取ってしまいすみません」
「ん、まあ他を当たるんだな」
チッ、カスが! 使えない野郎だな。
そういう主義ってどういう主義だよ。
それにこの見た目はモンスター化しているからでしかたないんだよ。
僕だってこんな見た目は嫌だわ、普通に着替えたいわ。
魔王が変人ばっかりとか言ってたけどこいつもその一人なのか?
本当に変人だな! 全く役に立たない奴だな。
このまま引き下がるのは嫌だな、何か目にもの見せてやりたい……。
そうだ、爆破するか。
「……人形あれを」
「ハイ、ご主人様」
人形から受け取ったのは毎度お馴染みの爆発物だ。
人形は僕の欲しい物を察して的確な物を渡してくれた。
きっとこいつを爆破したいという思いが通じ合っているのだろう。
以心伝心していると言っていいレベルで。
転びやすくて、こけやすい僕が持っているとただ動くだけで爆発するので、人形にもある程度の爆発物を持ってもらっている。
僕が転んでも大惨事にはきっとならないだろうレベルに調節している。
サイズが相変わらず直径二センチ程しかなくとても持ちやすいのでかなりの量を所持している。だから、人形が衝撃を受けたら大惨事になるだろう。
ちなみに今回、自分のでは無く人形の持っている爆発物を使う理由は、そうした方が相手から見て偉そうに見えると思ったからだ。
「時間を取ってしまったお詫びにこれを差し上げます」
「へへっ、気が利くなあ。で、なんだこれ?」
「飴玉です。食べ方としては嚙んで食べる事をおすすめします。そうしたら美味しすぎて爆発すると思います」
「おお飴玉か、まさかこの世界で食べられるとは思わなかったぜ」
「そうですか、では僕達はこれで」
そのまま自然な動作で、その場から足早に去る。
そして、少し距離を取ったところで人形と目配せをする。
「よし、逃げるぞ人形」
「ハイ」
後ろを振り返らずに全力疾走を始めた。
きっと後ろではがらの悪そうな中年が怪訝そうな顔をしているだろうが気にしない。
距離を取って安全な所まで逃げた方が得策だからだ。
ボン!
後ろで小さな爆発音がした。
同時に困惑する声も聞こえた。
更に走る速度を上げ、後ろを軽く振り返った。
がらの悪そうな中年の男が凄い勢いで走り出している所だった。
「待てや、コラァァ!!」
はは、人の事は言えないがあんな見た目でもやっぱり勇者なんだな。
全然ダメージが入っていなさそうだし、凄く足が速い。
僕は後ろを見るのを辞めて走る事に専念し出した。
追いつかれたくないからな。
……って人形走るの早!
僕と同時に走り出したのにもう二メートルは離れてる!
主を差し置いてあんなに早く逃げていくとは……。
それとも僕の走る速さが遅いのか?
いずれにしてもこのままじゃ中年に追いつかれそうだ。
……スキルを使うしかないか。
何が出て来るか分からないから出来れば使いたく無かったが。
「サプライズボックス」
目の前にカラフルな箱が現れた。
僕はそれを手にとり中年の足元に投げつける。
何が出て来るか分からないが、必ず中年を驚かす物が入っているはずだ。
だから、時間は稼げるはず。
「キャ、キャアアーー!! 何でゴキブリが出て来るんだ!」
直後、可愛らしい悲鳴が上がった。
僕は悲鳴が乙女すぎて誰かを巻き込んだのでは? と心配になったが、続いて中年らしき声も聞こえたので「お前かよ!」とツッコミそうになった。
あの見た目でゴキブリが苦手なのか。
「も、もう許さねえわ、絶対に捕まえて泣きながら謝るまで殴る! クイック!」
中年が叫んだと思ったら、追いかけて来る速さが早くなった。
恐らく敏捷が一時的に上昇するスキルでも使ったのだろう。
これはもう絶対に捕まったな。
僕は走るのを辞めた。
「ん? どうしたんだ? もしかして逃げられない事を知って謝って許してもらおうとも思っているのか!?」
「えっ、許してくれるの?」
「そんな分けあるかー!? 絶対ボコボコにしてやるからな」
「――そしたら、僕には触れない方が良いよ」
「知らねえな」
中年が胸倉を掴んできた。
こいつ馬鹿だな。
人の話を聞かないタイプか。
「あーあ、後悔するよ」
「フン、何を言って――」
ドーン!!!
中年のその先の言葉は続かなかった。
僕が自分を軽く殴った事により爆発が起こったからだ。
――――――――――
「だから言ったじゃん。あーあ、これ完璧に落ちちゃったなどうしよう」
「ほっときましょう」
「あ、人形! 逃げるの早いわ! 少しは主をだな」
「何のことでしょう? 私には分かりません」
「くっ!」
こいつ本当に自我が無いのか?
疑問にしか思えないレベルだ。
本当にランクアップしたらどうなるんだ?
地面には中年が転がっていた。
いくらあまり爆発物を持っていないとはいえ、こんなに簡単に倒せるとは思わなかった。
……それにしても、爆発したのにこの城ビクともしないどころか、全く傷ついていない。
まだまだっていう事か。
もしも本気でやっても駄目だったらメンタルが傷つくな。
早く強くなるか。
「じゃあ、この中年はほっとくか。ま、そのうち気が付くだろうな」
「ハイ」
「……じゃあ、食堂目指すか」
「ハイ」
振り出しに戻った。




