82 広げる
♪チャラララチャッラ、チャラララチャッラ、チャララララ、ララララ、、ラ・ラ・ラ…♪
「そうそう、上手!」
♪チャッチャッチャッチャチャ、チャチャララララ、チャッチャッチャッラララ~……♪
「そう、うん、いい感じ。次はこう」
私はオカリナの購入者に教えている。内容は譜面について、オカリナの基礎練習などだ。皆同じ早さで上達とはいかないので多少の衝突もあったりするが、今教わりに来ている人達は大人も子供も楽しんでくれている。
勘のいい子は運指表と手本の演奏で楽譜が読めている。素材が悪いわけじゃないんだよね。
「じゃあ、この速さで吹いてみようね。ワンツーさんし」
使わなくなった粘土板にドラムのスティック位の棒でタンタンタンタンと刻みながらゆっくり演奏させていく。
「腹筋使って~」
うん、いい感じになってきてる。学校での音楽の授業みたいだ。
音楽の中に居ると、また歌いたくなってくる。
リコルはいつ、リコルタからリコルに戻ってくれるかなぁ。私が思い出しているって自分から言えばいいんだろうけど、ジルみたいに自分から欲して欲しい。
マリエルは…あげるも凄いけど頂戴もすごいもんね。だから対等なんだろうけど。
時々思うもの。マリエルの赤い糸って私の小指だけじゃなくて、着物の帯みたいに太いので体をぎゅうぎゅうと巻き付けているんじゃないかって。今は見える力が無くて良かったと思う。
地上であの世と同じ力の全部が振るえたら頭がおかしくなっていたと思うもの。
私の計画は順調に進行していく。
ジルがこちら側に付いてくれたお蔭で同時進行が可能になった。とても助かっている。
マリエルが何をしたいのかもジルと繋がる事で分かってきた。でも、ジルは分かっていないみたい。
これからは私の動きでマリエルの方もきっと加速され動きやすくなるだろう。
けど、あ~、面倒臭い。早く青雲の志での活動を再開したいなぁ。
色々してみたい事あったはずだけど、やっぱりアニメ歌手っていうのが一番だったせいか、歌手に惹かれてしまうみたい。この国って、音楽も未だ吟遊詩人なんだよね。何で地球では国や地域ごとにあんなに様々で多くの魅力に溢れていたのに。
不自然なほどに音楽が弱い。何度も文明が破壊されてきたからなのかなぁ?
よく分からない。
◇◆◇
心結さんが奏でるオカリナからだけでなく、何人かからも浄化の波動を感じる。
「どういう事だ?楽器の力?」
悩む私など気にならないのだろう。
「ほら、ぼうっとしていないでブラッドリーも吹いて」
背中をゲシゲシと叩いてくる。もう少し軽くでお願いします。軽く咳込んでしまう。
最初から彼女はこの様な神器を父に作らせたかったのだろうか?
考え事をしている間に彼女の音楽教室が終わる。
私には理解できない事が多い。私達一族が託されている役目はそういう分野なのだと突き付けられた。
足りないから理解できない。そして、理解できてもそこまで成長できていないから行うことが出来ない。
それでも。
父と心結さんが話始めていた。出遅れた。気合を入れなおす。
「この場所なら、元々作っていたのって食器や芸術系の皿やツボじゃなかったと思うんだよね。っていうか、何か意味わからない飾りや置物って作っていた記憶や配置されている記憶ってないかなぁ?」
父さんと顔を見合わせる。
そう、心当たりはあるのだ。ただ、上手く継承されていない事にも気付かされてしまった。
代々行われてきた焼き物の試験。その課題の意味。私は自分の時の試験の物と父さんの作った見本を持ってくる。
「触るけどいい?」
「はい」
私達の顔を汗が伝う。指先が冷たくなっていく。緊張だ。父さんは言葉を発する事が出来ないほど固くなってしまっているようだ。形を確認するかのように見ている。そして手をかざして何かを感じ取ろうとしているように見えた。
私達は何を作らされていたのだろう。いや、何となくわかる。答えは導かれる。そうできる程のヒントは数多く与えてもらっていた。今まで考えなかった事が愚かだったのだ。
彼女が望むほどの力は込められていないだろう。そんな事分かってしまう。だって、心結さんの音楽からは波動を感じたのだから。
この地域が結界の様な役目をはたしている事も知らされていた。守護様が伝えてこなかったのは私達に力が足りないから教える事が出来なかったのだろう。でも、それさえも心結さんは守護様の怠慢だと言うに違いない。
そう厳しく言えるだけの実績も力もあり、言う事が当然の立場にあるのだろう。
好意を持った。腹も立ったし、立場を知り畏れた。それでも、明るく美しい心結さんに惹かれる。
ピアスが夫婦の証と伝えたら、すぐに交わされてしまった。そういう人があると聞いていたけど、厳しさと優しさと強さのすべてが輝いて見える。
それもまた、番う方の愛ゆえなのかと考えると胸が痛む。
心結さんが顔を上げ、私を見た。
「これ、字が違っているね。何か書くもの。あ、ありがとう」
さっと手渡した私に声を掛け、説明が始まる。
あの模様は文字だったのか。文字だと認識されなくなってきたから形が変わってしまったのだろう。
「うん、こうね。似ているけど違うんだよね。ちょっとだけなんだけどさ。でもそれで効果が無くなってしまうから」
出来についてそれ以上触れられることはなかった。
それに私は何とも言えない気持ちになる。私達の力の無さを不快に思わないのか。伝えられている事すらそのままにを残せない私達に呆れないのか。
それが表情に出てしまっていたのか、心結さんが今度こそ呆れを露わにした。
「あのさ、そんなに卑屈になる必要ないんだけど」
卑屈になっていただろうか。
「基本的にこの世界の守護サマ持ちって無駄にプライド高いんだけど。ホント、無駄に高いからね!なのに仕事放棄するし、しても手抜きだし、楽ばっかりしようとするし」
無駄にかどうかは分からないが、特別な事に誇りをもって何が悪いのだろうか。国の安全と平和の為に一族だけが従事できる特別。役割も果たすための力も選ばれた一族であることも全てが誇りだ。人にできない事が出来て貢献出来ていて、それを絶やさないできたことも。どれもが誇りだ。
「まぁ、うん、とりあえず、ブラッドリーは陶芸家よりオカリナの演奏家をしたほうがいいよ」
「え?」
「おじさんはもう普通の陶芸家…じゃないなぁ、オカリナを専門にしてみたら?」
「何故…?」
何で突然全てを否定する様な事をいうのだろう。ぐわんぐわんと脳が揺れている様な感覚が私を襲う。
「まずおじさん。多分自覚在るんじゃないかと思うけど、感じる能力は高い。けど、作品に込められる力が少ない」
それの何が悪いのだろう?
「そして、ブラッドリーは込めることは上手い。でも、これからの役割は結界の補助器を作る事じゃない。理解できる?」
分かるのは、やっぱり今までを否定された事。上位者であっても、怒りが湧いてくる。
口を開こうとした時、肩に重みが掛かる。
「父さん」
「息子の頭を冷やします。また日を改めて」
「そう?…………そうだね」
父さんは何故折れた!握る掌には爪の痕が付いてしまっているだろう。血も滲んでいるかもしれない。
「ブラッドリー、息、止めない」
クソッ。思わず厳しい目を向けてしまう。でも、私は悪くない。
「嬢ちゃん、理解した。何が失われた力でこれから望まれる事が何か」
「さすが年の功!」
「じゃんじゃん作って!楽しくしよう!!」
私は何なのだろう。私が間違っているのだろうか。
カッカしたままではまた過ちをおかす。
私は大きく息を吐きだした。
◇◆◇
「神子の力が未だ現われないとはどういうことだ」
「壊れずに長持ちしていてよいではないか」
本当にまだなのか?
「それよりも、神子に味方する者が現れ始めたと聞いているぞ。その方が問題ではないか?」
「望まれたら逃がすかもしれんぞ」
「人の内外の声が聴こえるなど、気持ち悪い。発狂もせず、こちらを信用したままなのだろう?」
「訳の分からん乙女ゲームなんてものも止めたそうではないか」
「我が儘が少なくお人よしで知識もあり狂わない。力が制御できるようになっても役立つが、そのままでも十分ではないか」
「当たりでしたな」
「ですが、老いも見えてきていますな。ああいうのを年増とかいうのであろう?」
「そろそろ次の召喚の準備を始めますか」
「遊ばせておかずに、そろそろ知識を搾り取りにかかりますか」
「****殿?」
「何でもありません」
気になる。
どこからだ?
天使が居るのか?
少しずつ感じる違和感が増えていく。
それでも贄は集まるし、こいつらはクズでこの悪感情が溜まる場も国も快感をもたらす。
自分達の幸せの為に見て見ぬふりと罪悪感の否定。
壊れてもいいし、そのままでも積もっていく。
濁れ、渦巻け、溺れろ。心を強く病めば体も病魔を受け入れる。
この国の愛は浅い。
「我々は国民の誰よりも国家と国民を愛しているからこそ、神子を使うのです」
肯定し醜く嗤う愚か者ども。共に、地上も居心地のいい地獄にしていこう。




