81 集め方
つまらない。それでも時間は過ぎていく。
ああ、なんて胸糞悪い。長く滞在したい国ではない。
俺は内心この国なんか滅んでしまってもいいとさえ思う。
「クソだな」
「リコル、そんな事を口に出してはいけませんよ」
窘めるけど心の中では同意している。
「んだよ。これのどこが病院なんだよ」
ああ、毎日浄化されても気持ちは中々新しくできない。カミーユと肌を合わせて身も心もかなり落ち着かせることが出来ているが、それでもほんの少しずつ積み重なっていく。
病院とは名ばかり。
召喚に必要な魂を集める場所。
病院はその一つでしかない。
神子のリアル乙女ゲームなんていうくだらない物から選ばれなかった者達は別の場所に運ばれていた。
そして、犯罪者も別の場所で贄として扱われ、入国の時にも一部が贄として命を奪われている。
「医療技術を進めるつもりがないわけだよな」
俺は知っていた。だから、カミーユがこの国で下手に知識を広めることを抑えたかった。せめてやるなら陣を破壊してからだ。
この状態でそんなことをしたら目を付けられる。いや、命を絶つために躍起になってくるだろう。
そんな危険に晒すわけにはいかない。
「なぁ。陣を描ける奴って一般人の中にも存在すると思う?」
「どうでしょう」
陣をただ紙や地面に描いても発動しない。
幾つか条件を揃えなければいけないのは知っている。
どの悪魔も知っているというわけではない。
「逃がしてしまったのかもしれません」
「僕には分からないな」
「別の悪魔かもしれないし、滅し損ねた悪魔かもしれない。弱らせた者が再び力を得たのかもしれない。俺にも判断できません」
「そう」
あの国に居たなら、あの規模の浄化なら滅することが出来たか弱らせる事は出来ていたと思うが未確認だ。正直、あの頃は全く余裕が無かったのだから。
「何で治りもしない病院に運び込むんだ?。訳わかんねーよ」
やっぱりまだ俺よりリコルの方が純粋さを持ち合わせている。
「簡単ですよ。知っているんですよ」
「何を?」
「自分たちの豊かさと幸せを支えているのが神子であり、神子を呼ぶために命を使っているって。消えそうな命を使うことで罪悪感を抱きにくくしているのですよ。犯罪者を使うのも同様の理由です」
「じゃあなんで神子の扱いが悪いんだよ」
「だからですよ」
そう、なんて自分勝手なんだろう。
「誰もが正当化したいのですよ。自分は悪くない、そう思いたいものでしょう?」
仕方ない。自分は悪くない。見捨てたのではない。国の為。皆の為。神子が必要。安定した幸せの為に神子を呼ばなければならない。神子なんていう気持ち悪い化け物。同じ人に見えるようで別の生き物。神子があっての幸せ、だけど、そのせいで病気の家族や恋人を手放さなければならない。治らない病人ならただ死んでしまうのではなく残された自分達の幸せの為に使われろ。という上からの目線を感じる。
「嫌なら手元に置いて看病すれば良くなる人だって多いだろ?何なんだよ」
「だから良くならないと判断したから病院へ行くんですよ」
リコルはまだ納得いかないというのを崩さない。
「病院で与える薬の効果も治療の知識も技術も低いのです」
「ああ」
「元々効く薬を開発するつもりがないのです」
「僕、もうやめたくなってきた」
「そろそろ動いてくれませんかねぇ」
最後の俺の言葉はリコルには理解できていないようだ。リコルがこうであるならジルも俺がどういう狙いで行動しているのか理解できていないのかもしれない。
可能性としては、カミーユが俺の考えに思い至っても好きに動きまわるかもしれないとうことだ。
面倒だが本当にやらなくてはならない事は早々変える事はできない。
悪魔と次に依り代にされそうな人間は潰しておきたい。浄化で済むのか、深く喰われ分離は不可能な状態か。俺が弱めておけばカミーユが神気・聖気を浴びせても消滅しないで済むのか。
そして、現神子と今までに召喚された神子の、ここに残されてしまった魂をあちらへ還す為に繋ぐことが出来るのか。
俺はここの人間を育てることはもうしない。
守護サマ同士で共有すればいい。参考にして育っていけばいい。それだけの地盤を聖国で作ったのだから。
その為の下地は出来ているのだから。
◇◆◇
でっきたかな、でっきたかな、でっきたかな?
おじさんから次は完成できるはずと言われて、今日は約束の日だ。
チューニングメーターと楽譜を持参しておじさんの工房を訪ねる。
「やっほー、来たよ」
おじさんとブラッドリーが私の声に態度を硬くした。
説明をした日以来、彼等の態度はすっかり固くなってしまった。それも仕方ないと思う反面、やはり寂しい。
そして、守護サマは私に怯えたのか全く姿を現さなくなってしまった。まぁ、守護サマに関してはちゃんとやることやってくれれば別に構わない。むしろ私達に頼り切りの状態でいるつもりだった様だから居ない方が気分がいい。
結局駄目なのは守護サマなのだろう。五家もブラッドリーもやり方を知らないだけで役目を果たそうと真面目に取り組んでいるのだから。
責任感もやる気もあるし、仕事に誇りを持っているところも嫌いじゃない。
とはいっても、やっぱり、それにしてもどうかと思うってところもあるんだけどね。
「…駄目じゃないけど、その態度、他の人が見たら不振がるよね?そういう意味でやめて欲しいんだけど」
カミーユ様とか呼ばないで欲しい。今日は居ないけど、ジルもジル様と呼ばれて頬をヒクヒクさせていた。
「心結さんのままでいい、っていうか、もう命令しちゃうよ。心結さんって呼んで。おじさんは嬢ちゃんとか心結って呼び捨てでもいいし。その堅苦しいの凄く嫌。ね?」
「ですが、カミーユ様。知ってしまっては」
「今までの失態と無礼を恥じているのです。償わせて下さいませ」
ブラッドリーに至っては片膝をついて頭を下げている。私何様?いや、確かにすっごい偉そうにしたけどさ。
「おじさん、そんな事より早くオカリナ見せて?完成なんでしょう?」
「はい!」
うん、もう気にしない。
「あ、でも、本当に呼び方だけは気を付けて。ここでは心結なんだから。心結って名前も間違いなく私の名前なの。ブラッドリーと同じく両親に付けて貰った大切な名前なの。他の名前はあえて隠しているんだから。汲んで欲しいな。それだけ」
「心結さん」
「そっか。分かったぜ、嬢ちゃん」
年の功なのかおじさんには私の想いが漸く伝わったのを感じた。
おじさんの顔が見知った表情に戻った。うん、いい。
持ってきたのはピンクのオカリナ。…今度はピンクになったんだ。何色でもいいけど。
手に取ってみる。構えて息を吹き込む。しばらく吹いて慣らし、チューナーを使ってみる。
「うん、安定しているね。それも貸して」
「え、これは私が試し吹きしたのでちょっと」
「いいから」
「はい」
口の所は拭くし。
「これ、一緒に作ったんでしょ?」
「ああ、そうだ」
吹いてみる。うん、大丈夫。
そのまま譜面を広げ吹いていく。
有名アニメ映画の曲集だ。つい演奏に夢中になってしまい3曲演奏が終わったところで周りを気にする。
「心結さん、これはあなたの力ですか?それとも音楽の力?」
常に私の周りは私からほんの少し漏れ出す力で浄化されているが、演奏が終わるとこの辺だけ清々しくなっていた。
「ここまでなったのは私の力だけど」
でも、これでこれから始める事が無駄な事じゃないって理解してもらえるでしょう?
「元々良い音楽にはそういう力があるの。作曲家がそうとは知らず力を得ている場合もあるし、音そのものに力があったり色々あるんだけど。あなた達も吹いてみて」
そう、私がここで広めたいのは音楽。でも、ここでは歌ではなく楽器で奏でる事。楽器を作る事。楽譜の普及。新しい娯楽。
そして、本来、この工房で作られていたはずの物の復活。それはオカリナの後。
ほら、あなた達の演奏でも浄化されていくでしょう?




