80 秘密
変わらない。
同じじゃないけど、普通じゃないけど、続く変わらない毎日。
見守る。リコルを癒す。マリエルに全部は言わない。
わたしが思うように動くことを取り入れた日々。
決めたけど、目に見える変化はまだ起こせていない。
リコルとマリエルの疲れた姿。きっと二人だけで浄化して力を弱めているのだろうと想像できる。カミーユを傷つけない様に負担を掛けない様に。
わたしは正直言ってそのやり方は違うと思う。
手っ取り早いのはカミーユの神気を送り込み問答無用でどっかんしてしまうことだ。でもそれではカミーユの人に近い心が酷く傷つく。その様に考えているんだろうって思う。
けど、カミーユはそんなに弱くないのよ。
ううん、わたしが色々面倒臭いとか思っているから自分にとっての簡単を選びたいって思うのかも。
マリエルは当然誰よりも理解しているはずなのに、見守る時間を経験したせいなのか、一人で異世界転移した時の状態を忘れられないのか過保護になっていると思う。
リコルは罪悪感…いや、女性は男性より弱いという思い込みかな。それを意識はしていないだろうけど。
近い存在だからこうやって四人が繋がった。
リコルとマリエル、わたしとカミーユ。わたしとリコルだって、そしてマリエルとだって近い。
だからなんとなく感じた。何かが今素直になれって言ってるような気がするって。
「カミーユに会いたいですわ」
この気持ちはわたしだけじゃないと信じたい。今は表に出ていないけど心の奥底では同じように会いたいと願っていてくれるって。
前は行き来できていた、今は壁となっているそこに触れる。
「え」
嘘。
「あ」
本当に?
「入れるんですの?」
わたしは腕を通す。
「きゃっ」
力を入れ過ぎよ。肩が抜けたらどうするのよ。
すり抜ける事が出来た。
見たい顔があった。
教えてくれてもいいじゃない。
「どんな顔すればいいのか分かりませんわ」
「可愛いんだからそのままでいいんじゃないのかな」
胸が痛い。
なんて激しく大きな音。
強く打っているのはわたしの心臓。
「久しぶり。ようこそ私の部屋へ」
「おじゃまします」
「は、違うんじゃないかな」
「カミーユがようこそって言うからですわ」
「あ、そうか。おかえりなさい、ジル」
ああ、わたしは謝らなければならないのよ。涙なんて流している場合じゃないの。
「ご」
ああ、息が。泣きすぎて声が上手く出せない。詰まった喉が痛い。
なんてみっともないの。
「私、酷かったね。ごめんね」
先に謝られてしまった。
「わたし」
あやされているじゃない。もう。カミーユったら。
「ごめんなさい。傷付けてごめんなさい」
念話が開通したのを感じる。なのに、声が聴こえてこない。
『……』
ああ。
『カミーユったら変わらず泣き虫ですのね』
『…私だって、嬉しいのと安心したのでギリギリなのよ』
「ありがとう、カミーユ」
「うん」
久しぶりの語らい。
「まぁ!ジルスとして会った時に思い出したんですの?」
「てへっ」
「可愛くないですわ」
「ごめ~ん」
頭が痛い。まんまとしてやられたわけね。
話してみれば、あの後すぐ私達がその気になれば、条件はあったけど部屋に入る事が出来る様になっていたそうだ。
「ん~、リコルはまだだね。マリエルは知らないよ」
「いいんですの?」
にっこにこのカミーユがわたしの手を強く握りしめる。痛い。
「それでね、勿論、こっちに協力してくれるよね?だってもう、マリエルに嘘の報告したりしているでしょう?」
血流が…ああ、指先が冷えてきたような気が。でもね、嘘は言っていない。全部を言わないだけ。
「面白くないよね。ねぇ?」
「ええ、面白くないのは認めますわ」
わたし、返事間違ってないハズ。
「なら、ね?」
わたしはカミーユ派デスワ。
ああ、なんだかカミーユから怒りのオーラが昇っているように見えるのは気のせいではなさそう。
わたしがするのは、そう!世の為人の為。決して自己保身ではナイ!!
◇◆◇
味方が増えた、やった~!
もう、中々こっちに接触してくれないんだもの。
守護サマ付きのあの二人ってさぁ。話したらびっくり。あり得ない。っていうか、あっちゃ駄目でしょ。
…どうりでおじさん達使えないわけだよね。
だって、こっちのあの世で、この仕事が出来る魂が不足しているんだもん。だから格下がそれに合わない仕事をさせられていて。で、結局出来ないから仕事の質を落とすしかなくて。
しかも、この国の担当になると地獄落ちが多くなってしまうから生まれるのが嫌って。
それさぁ、もう天使じゃないよね?なんかもう終わってるって判断してもいいんじゃないかな。
それでも、私は見捨てて放置はしないよ。
可哀想だけど、おじさん達がしている事って、この緩衝地帯の維持だけ。それが彼等のできる限界だって分かるけどね。
マリエルとリコルはさ、わたしに見つかっているって気付かないほど弱っているの分かっているのかなぁ。
私さ確かにもう正直どうでもいいって開き直ったけど、私の性分考えたら無理に決まってるじゃない。
確かにもう聖国にした事程がっつり面倒見てあげるつもりはないよ。だってそもそもこの国ってそこまでしてあげられるほどの下地もないし、そこまできれいな国じゃないもの。
下地作りをするためのその下地。私がするのはそこ。
マリエルとリコルが精神すり減らしてやってくれてるから私のする事が効果的になる。
「ということで、じゃじゃ~ん!!」
ジルがきょとんとしているんだけど。
「オカリナだよ」
「知ってますわ」
「何?」
いや、何でそんなきょとん顔なのか分からないんだけど。
「何って何が、何で、なんだかさっぱりわかりませんわ」
「そう?」
「ええ」
「まずは、二人で吹いてみよう!」
私の教本を渡す。二人でそれぞれ練習する。
「…それなりになりましたわ」
「プロの演奏家になろうっていうんじゃないからいいんじゃない?」
「楽しいですわ」
「でしょ?」
じゃあ、と数曲示す。
「これとこれ。あとこれは私が一番吹くから、ジルは二番で。あ、高音の方が出しやすい?」
「いいえ。この中音域の方が安定して出せますわ」
「うん、じゃあ、よろしく」
「いつまでに仕上げればよろしいのかしら?」
「急がないよ~。でもきっと楽しいから結構すぐ出来る様になるんじゃない?ジルの部屋、防音になっているから練習しても大丈夫だよ。この部屋もジル一人の時でも入れるように設定したからここで練習してもいいよ」
「ええ、ありがとうございます」
きっと神子も暇してるよね。渡したら喜ぶだろうけど、まだ早いんだよなぁ。彼女、譜面は読めるのかなぁ。ジルも神子とお話しさせようかなぁ。どうしようかなぁ。ボロが出るかも、かな。増えたら神子、浮かれそうだもんなぁ。うん、保留。
「ねぇ、ジル」
「なんですの?」
「お願いがあるんだけど」
あ、今、念話で聞きたくありませんわって言った!!
「ジ~ル~~~ゥ」
「嫌ですわ」
「何故!」
「面倒事の予感がするからですわ!!」
可愛い顔が引き攣っている。でも、知らない。
「リコルとマリエルにもそれとな~くこの世界にもオカリナっぽいものがあるって仄めかせておいて」
「無理ですわ!」
「何故?」
「タイミング的にカミーユが係わっているってバレバレですわ」
いや、だからそこをなんとかね?
「あの二人なら、ちょっとの練習ですぐわたし達より上手くなりますわ」
あ、そう。っていうか、何故バレた?
「カミーユの考える事が分からないわけないでしょう?」
ジルが大きなため息をつく。
「楽器だけならまだしも、この曲と楽譜も広めるつもりでいてバレないはずがないでしょう?馬鹿ですの?」
あ。
「出てみたのでしょう?吟遊詩人は耳で覚え、口で伝え、残るのは精々メモ程度。譜面として残っていないでしょう?」
あ。
「カミーユ自分で言ったじゃないですの。楽器を作る陶芸家が譜面を知らないから読み方を教えたけど、耳で覚えて貰ったって。聖国とは文化面でも違いすぎだって」
ああ、味方ができて本当に良かった。
「ハハ。えっと、ちょっと修正するね」
「…不安ですわ。全貌を話しなさいな」
ジルがグイっと顔を近づけてくる。可愛くても凄むと怖い。
私は考えている事をジルに話し、何度も突っ込まれることになった。




