2
僕はあわてて適当に転がっていた箱で猫を隠した。隠した拍子に毛が舞い上がる。
ドアがきいっと音をたてて開く。母が顔を覗かせた。
「あ、おかえり母さん」
上ずらないようにとお腹に力をいれて発したはずの声が、ひょろひょろと気弱だ。それでもなんとか自然に見えるよう、母に笑顔を向ける。
「どうしたの、その箱?」
早速気付かれた。
「ああこれ?今そうじしてて、棚の上から落ちてきちゃったんだ」
カサッとビニール袋がこすれる音。母が持っているスーパーの袋からネギがのぞいている。
「ネギ買ってきたってことは、今日のご飯はすきやきか何かなの?」
自然に話題をそらす。自然に。
母はわずかに逡巡して袋の中を覗き込んだ。
「うーん確かに牛肉も卵もあるしねえ……すきやきにしようか」
「うん、それがいいよ」
うまく話をそらせたようだ。母ももう箱のことは忘れているはず。
「じゃあご飯できたら呼ぶからね」
「分かった」
母は後手にドアを閉めて出て行った。
ため息をついた。胸にたまっていた緊張を吐き出す。すべて吐き出しきろうと思ったのに、心の中ではまだ雨雲のように不安定なものがぐるぐるととぐろを巻いている。
まずはナイフを元の場所に戻さないと。