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目の前で鍋がぐつぐつと煮えたっていた。白い湯気は向こう側の景色が見えないぐらいもくもくとのぼっていたが、天井につくまでには全て消えてしまう。それをひたすら見ていると、今日のことなんて忘れてしまいそうだ。湯気が消えるみたいに。それでも忘れさせてくれないのは神様のいたずらだろうか。そうだとしたら神はとてもたちが悪い。
白い手がのびて茶碗が前に置かれる。並々盛られた白ご飯だ。そこからも湯気が上がっていく。
僕の向かいに母が座った。着古して少しあせてしまった黄緑のTシャツを来ている。PUNCH LINEと書かれたロゴが斬新だ。髪は後ろでまとめてポニーテールにしている。首筋には汗がつたい、髪が数本はりついている。
どこにもおかしいところはなかった。
いただきますと母が言い、ついで僕も手を合わせる。目は母から離さない。
母がテレビをつけた。
ニュースが流れる。
何となく予想していた嫌なことが起きていた。




