乙女心と鬼のお話し
「それにしても・・・何とかならんのか?」
その蝿は俺の部屋に入るなりそう呟いた。
恐らく部屋の散らかり具合を見て言っているのだろう。
失礼な奴だ。
「男の独り暮らしなんてこんなもんだろう。」
俺は大学入学以来独り暮らしだ。
「それにしても限度があるだろう。これ魔族の仕業じゃないか?」
知らない単語が出てきた。
「魔族というのはお前らのことか?」
一応聞いておく。
「そうだ。そんなことよりここら辺少し探してみろよ。こりゃあ魔族の仕業以外に考えられない。」
俺は、
「そんなの居るとは思わないけどなぁ。」
と、ぼやきつつも腕時計のライトを点けて周りを探してみる。
特に何もいない。
「ほら、居ないだろ。」
「マジかよ!逆にヤバイぞお前!早めに世話やいてくれる嫁さんでも見つけた方がいいんじゃないか?」
つくづく失礼な奴だ。
「五月蝿い!余計なお世話だっ!・・・っと?」
調度この話を切りたいと思っていたタイミングでスマホのバイブがブーブーと鳴り始めた。
「電話出るから黙ってろ。」
そう言って通話ボタンをタップする。
「あ、こーた?久しぶり!」
相手は小方文江だった。
文江は俺の幼なじみだ。
今は違う大学に通っているが、ここから近い大学なので未だによく会う。
「文江か。で、用件は?」
「日曜日暇?暇ならキョートーに出掛けるわよ!」
ああ、いつものか。
「ったく何でいつも出掛ける度に俺を誘うんだ?一人で楽しめばいいじゃないか?」
「良くないわよ。こうでもしないと録に外にでないでしょ。だーからこーたは擦れた性格かつ友達もぜんぜんできないのよ。」
毎回このやり取りをやっている気がする。
どいつもこいつも余計なお世話だ。
「わーた。わーかった。集合はいつも通り駅前広場の最終兵器っぽいオブジェ前に九時半でいいな?」
こいつはこうなると頑固だ。
後、あいつの言うことにも一理あって俺は確かに外出が少ない。
擦れてるとか友達少ないは完全に余計な一言だが。
それにキョートーでの買い物はなんやかんやで楽しいのでまあ、満更でもない。
「よろしい。じゃ、日曜日にね。」
プツッ。
通話終了。
ふぅ。疲れ・・・
「なんだ。女か?」
まだ一人いた。
お節介が。
いや、一匹か。
お節介というだけでもイライラするがどこかしらにやついている様な気がしたので余計にムカつく。表情は無いけど。
「五月蝿いな!別にいいだろ!」
俺は日曜日、この蝿を隔離しておく虫籠を買うことに決めた。
そして日曜日。
空は少し曇っていた。
「出掛けるならばこのくらいが快適で調度いい・・・か。」
[ここはジメジメして不快だがな。]
急にどこからか声が響いた。
しかし声の主は間違いなくズボンの裾に忍ばせたベルであろう。
「外で話すなよ。」
[安心しろ、俺たちは時計を通して念話ができる。]
相変わらず不思議な時計だ。
[こ、こうか?]
試しに話しかける。
[上出来だ。ただめんどくさいからできれば家では普通に話してくれ。念話の力の源は俺だからな。]
[あいよ。]
「おーい、待った?」
文江が着いた。
「15分程な。」
「相変わらずあんたは可愛く無いわね。」
「お前程じゃ無いがな。・・・痛っ!」
拳骨が飛んできた。
「そんなんだから彼氏できないんじゃねーの?」
小声で呟いてしまった・・・しまった!
「いってぇ~!」
もう一発食らった。
やはりこいつの前では本音をポロリとこぼさない様に気を付けなければ。
「こーたの・・・ばか。」
今何か聞こえた気がした。
「そろそろ電車来るし行こうぜ。」
電車が来るのもそうだが、これ以上話していると何かもう一発位拳骨をくらう様な気がした。
「さてと、どこから巡る?」
「別にどこでもいいよ。」
普段とは違う返事が返ってきた。
いつもならあの店が気になるやら、新しい店ができたやら自分から意見を言ってくる。
どうやら機嫌が悪いらしい。
電車でも終始無言だった。
普通の女の子なら駅前でのやり取りがいけなかったかと思うが、俺とこいつの仲は普段からこんなもんの筈だしなぁ。
「そうか。そんじゃあ俺の趣味の店から巡るぞ。」
今週は事武器屋の新作プラモデルが発売したばかりだった。
「いや~すっかり楽しんでしまった。悪かったな。こんな時間まで。」
時計は午後二時を示していた。
俺たちはまだ昼飯を食べていない。
[全くだ。]
ベルが話かけてきた。
[悪いがお前は我慢してくれ。その分良いもの食わしてやるから。]
[では帰りに高級ゼリーを買ってくれ。]
[金のかかる蝿だなあ。]
[良いものと言ったのはお前だろう。]
ベルは無視して、
「何食べる?」
と、文江に聞く。
「何でもいい。」
やはり今日は特別に機嫌が悪かった。
「じゃあそこの牛丼屋入るぞ。」
文江は頷いた。
[女の子とのデートで牛丼屋入るか?普通。]
[五月蝿いな。別にデートじゃないし。]
「ふう。食った食った。次どこにいく?」
文江はこう答えた。
「百貨店に行きたいな。」
俺たちは百貨店に向かった。
どうやら文江は文房具が欲しかったらしい。
自分も虫籠と高級ゼリーが欲しかったので一端別行動を提案する。
文江は少し迷ってから承諾した。
「じゃあ俺買い物済ませたらここに戻ってくるから。」
そう言って文江と別れた。
文江は文具を眺めていた。
普段ならあれこれとこっちのは使いやすそうとかあっちのは可愛い等と考えるのだが、今日は違った。
(こーたのあほんだら。普通なら気づくでしょ。なのにあんな言い方酷いよ。私はこーたが・・・だから・・・)
(思い通りに行かないならいっそ消えてしまえばいい。その方が楽だ。そうは思わないか?)
「誰?どこにいるの?」
(そんなことはどうでもいい。俺の質問に答えろ。消したいと思わないか?苦しくないか?いなくなってしまえと思わないか?)
「確かに・・・そうよ、消えてしまえばいい!」
(その答えを待っていた!!)
「!?」
文江は一瞬目眩を覚えたが直ぐに立ち直った。
「そうよ・・・こーたなんて消えちゃえ!」
「おー待たせたな。お前の方は買い物終わったか?」
文江は何も答えなかったが手に持っている袋から買い物が終わったことを確認する。
「他に行きたいところあるか?」
「無い。」
と、文江は簡潔に答えた。
「じゃあ帰るか。」
帰りの電車の中で文江が話かけてきた。
「ねぇ、次の駅にさ、きれいな公園があるんだ。寄ってかない?」
今日は俺中心だったからこのくらいはいいかと思い、
「じゃあ、行くか。」
と答えた。
電車を降りると田舎らしい景色が広がっていた。
「こっち。」
文江は山の方に向かって歩きだした。
暫く歩くと突然文江は立ち止まった。
「ここなら、ばれないね。」
そう言うと袋からカッターを取り出した。
「何がだよ?」
すると、首を狙って切りつけてきた。
「こーたを、殺しても。」
何とか左手の甲で受け止める。
そして右手でカッターを取り上げる。
左手には激痛が走り、血がだらだらと流れ出ていた。
ただ、それが気にならない程に驚いていた。
「どうして?俺を殺すなんて?」
「どーもこーもないよ!こーたが、馬鹿だからぁ!どーして分からないのよ!全部こーたが悪いのよ!」
文江の言い分はよくわからない。
しかし俺には思い当たる節が一つあった。
[孝太!]
[分かってる!]
少し乱暴だが文江を突き倒してから時計のライトを点ける。
すると大きな影が浮かび上がる。
俺はこいつを知っている。
いや、この国の人間なら誰もが知っているだろう。
二本の角、虎柄パンツ。これらの記号は丑寅を表す。即ち、
「鬼」
「御名答。」
「文江に・・・何をした?」
何をしていたとしてもこいつを許す気は無いが。
「なあに、ちょっとこいつのお前を殺したいという悪意を増幅させただけさ。お前が悪いんだぜ。楽しいなぁ、人が感情に任せて動くのを見るのは。」
?
俺が・・・そんなに文江を・・・?
「五月蝿い!黙れ!」
「ベル、頼む!力を貸してくれ。こいつを倒したい!」
「分かった。驚くなよ!」
ベルは大きくなったと思ったら光になって俺に向かってきた。
そして俺は光に包まれたと思ったら姿が変わっていた。
背中にも違和感がある。
羽が生えたようだ。
力が湧いてくる。
「不死者化・・・か。こいつは厄介だな。ならばこちらも・・・」
すると鬼も同じように光になって、文江に取り憑いた。
文江からは角が生えて肌が青くなっていた。
「貴様ーー!何をした!?」
「なぁに。そっちと同じさ。意識は俺が主体だがな。」
[落ち着け、大丈夫だ。]
ベルが言う。
[何がだよ!文江と一体化されたら攻撃できないぞ。]
[これは不死者化と言ってな。詳しい説明は後に回すが、]
「行くぞっ!」
鬼が向かってくる。
[とりあえず身体能力が向上する。」
鬼の動きがよく見える。
そして脇の隙間をすり抜けて攻撃をかわす。
[俺の場合俊敏性と動体視力が特に上がる。そしてもう一つ、不死になってダメージを負わなくなる。つまり、あいつを攻撃しても問題ない。]
[OK。]
後ろから鬼を蹴りつける。すると鬼は突撃の勢いと蹴りの勢いが合わさり、吹っ飛んだ。
[でもそれじゃあきりがないぜ?]
[安心しろ、力が切れたら勝手に解ける。」
鬼が立ち上がる。
そしてまた突撃してくるが、途中で動きが止まった。
「い・・・や・・・傷つ・・・たくない・・・だって・・・こーたの・・・こと・・・す・・・なんだから・・・」
そういってバタリと倒れた。
すると鬼は再び光に包まれ、文江と鬼に分離した。
「ちぃっ!このくそ女がっ!!」
[孝太!好きな食材を思い浮かべながら鬼を見つめるんだ!]
ベルが謎の命令をしてくる。
[わかった!]
とりあえず言われた通りにやったら何と鬼が蛤に変わっていた。
「なんだこりゃあ!」
元鬼、現蛤が困惑する。
「これが俺の不死者能力、暴食への捧げ物だ!」
明らかな説明不足はきちんと次話で説明します。




