第21回 善きサマリア人~警務官~
「香川!どうした!?しっかりしろ!!」
香川が倒れて1分。心臓は動いてはいるが、少々荒い。
ふと気づくと、香川を除いたみんなが立ってこちらを見ていた。さっきまで気絶していた5年、6年女子も。
「先生、香川さんは!?」と小野くん。
「わからない。早く救助が...」
「先生!!あれ!!」と加藤さんが空を指差し叫んだ。
高空を飛ぶ1機のヘリコプター。あっちから見えるか微妙な距離だろう。しかし、迷っている暇はない。
「おーいっ!!!ここだ!!!」
俺は叫んだ。手を降った。
気づくとみなも同じようにしていた。
11:20 多賀城市 東田中集会所上空
「おい、パイロット!もっと高度を下げろ!!こんな高さじゃ届くわけがな」
「馬鹿野郎!!、無茶言うな!ワイヤーカッターあるとはいえ、電柱と民家にぶつかんだろ!!」
「んじゃ、縄梯子とか無いのか!?」
「あるかんなもん!!毎回毎回積んどらん!!」
無理だ、と俺は思った。
FLIR(赤外線監視装置)で確認した結果、7名の生存者を確認していた。しかし、どうやって助けると言うのか。打つ手はないのか。
「とりあえず、HQと霞目にレスキューを頼んでおいた。松島から空自のUH-60Jでも飛んでくるだろう」
「それまで、置き去りにするのか!?」
「馬鹿野郎!!俺達が見守るに決まってんだろ!!」
とりあえず、警務手帳に内容を書き記す。こちらに救助する手段がないこと、代わりのヘリが向かっており30分以内には救出されること、そして「君たちの存在は、我々を通じて全ての救出部隊に知られた」こと。
ヘリが墜落した場合に備えて積んであるサバイバルセット袋の中に警務手帳を突っ込んで、サバイバル袋を投下する。見事に成人男性の近くに落ちる。中を開けて確認する姿を、しっかりとFLIRは捉えた。
が、男性が「×」と手で表示してきた。確かにFLIRによると一人の人間が倒れている。きっとこれは女性だろう。
俺は思わず「ダメらしいぞ!!」と叫ぶとパイロットが「知っとるわ!!」と言ってきた。そりゃ、パイロットも見えてるか。
どうすべきか。警務科の人間が航空科の人間よりも更なる意見を言えるはずがないが、思わず考えてしまう。周りの連中もそうだろう。
その時、ヘッドセットを通じて「よっしゃ」と声が聞こえた。すると、ヘリは少しずつ高度を落とし始めた。
「何をするんだ?!」
「こうなったらあの女の子だけでも助ける!神業の妙技見せてやる!!」
と、パイロットは副操縦士と共に親指を立てていた。
電柱と同じ高度というのはなんとも不思議な感覚だ。パイロットは周りの民家や電柱を巧みに避けつつ、集会所の屋根に接地する直前まで高度を落とした。これを成し遂げるのに、ワイヤーカッターを用いて電線を1本切断した。近隣住民に申し訳がないが、そもそも生存者が他にいれば、ベランダに出てくるだろう。
部下の警務手帳を使って降下することを教えていたとはいえ、生存者たちの顔はみな驚愕の表情だ。ちなみに接地しないのは、屋根がヘリの重量に耐えられるはずがないからだ。
窓を見ると、成人男性1名、男児1名、女児4名が立っていた。左側の扉を開ける、そしてスキッドに足を掛けつつ飛び降りた。
周りはヘリのエンジン音でとても騒がしい。大声で話さないとまともに聞こえない。
「陸上自衛隊です!お待たせしました!!」
「あ...あ、はいっ!教師をやっている高見と言います。彼女だけでもお願いします」
「容態はっ!?」
「約5分前に失神しました!心臓は止まってはいませんが、荒いです!!」
「頭は打ちましたか?!」
「いえ、打ってません!!」
「分かりました!それでは収容するので、頭を持っていただいたもよろしいですか!?」
「もちろん!!」
高見という男と2人で失神していた少女を運ぶ。頭を打っていないようなら特に心配することもないだろうが、安心はできない。慎重に運び込む。
ヘリにはパイロットを除いて6名が乗り込んでいる。反して生存者は7名。ヘリは11人乗り(パイロットを除く)。気絶している少女は誰かの膝の上で固定させるとして....。
「パイロット!!、2人くらい定員オーバーしても良いか!!?」
「下にバケツつけて消火できるヘリだ!、どうってことない!全員乗せるつもりだ!!」
「なら早い!」
「その代わり、あんたは椅子じゃなくて床に直接座るかスキッドに立ってろ!!」
「合点だ!」
冷静に考えれば、小学生くらいの体格ならばつめればなんとか全員座れる。しかし、シートベルトはきっかり11人分しかない。安全性を考えれば1人1席が良い。
全員乗る間、ヘリはぎりぎり接地しない高度で耐えた。パイロットは本当に神業を見せてくれたと思う。
「全員乗ったぞ!!」
「よし、この不気味な場所からおさらばだ!!」
こうしてヘリは集会所から離脱した。下にはヘリに釣られてやってきた感染者でいっぱいだ。
スキッドに足をかけ、ヘリの床に腰を下ろしながら見ていると、まるで映画のワンシーンを思い出す。それこそ、ワルキューレでもかけながら機関銃を乱射したくなる。
眼鏡をかけた少女が、肩を持っていてくれている。きっと、落ちないようにしてくれているのだろう。
風が強く吹き抜けた。まるでヘリをそこから追いやるかのように。
全員助かってよかった。本当に良かった。窓の外を見ると、さっきまでいた集会所が見えた。
あんなに小さなところにいたのか、と考える。しかし、我々にとっては砂漠の中のオアシスのようなものであった。
「ありがとう」と静かに唱える。
児童たちはみな疲れたような顔をしている。当たり前だろう。よく耐えたみんな!!。
私は、気絶したままの香川を見る。彼女は俺と迷彩服を着た自衛官の膝の上で寝ている。頭は俺の膝の上だ。
俺はこいつが起きてから、改めて「全員助かってよかった」と、今度は声に出して叫ぼうと思った。
遠くにイオンの看板が、太陽に照らされて光って見えた。




