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亡霊の戯れ  作者: 桜坂 高
戯れの中で・・・
20/38

第18回 善きサマリア人~教師~上

「ねぇ、ママ。お兄さんお姉さんまだかな?」

「そうねぇ、もうそろそろじゃないかな?」


「ママ!おっぱい!!」

「もうそんな年じゃないでしょ、りょうくん!!!」


「やはり、賑やかですな」

「そうですね、ここの町内会も少子高齢化が進んで参りましたけども」

「やはり、子供の笑顔は良い。大切にしたいものじゃ」

「全くです」

「それにしても、お母さんも若いですの~」

「まだ三十路にもいかれてないらしいですぞ。ワシらにとっては、お母さんも子供みたいなものじゃの」

(ドーン!!!)

「おや、何ですかな今の音は?」

「はて?、ずいぶんと騒がしかったですな...」

「まぁ、良いでしょう」



(ドンドンドン!)

「おや、誰か来たようですな」

「刻では、先生達ですかの?にしても乱暴な」

「何かあったのですかね?ワシが見てきましょう」

「頼みましたぞ」

 現時刻より約2時間30分前 08:45 多賀城市 東田中集会所付近


 「高見先生、いまだにバスケされているんですか?」

 「そう顧問じゃないんだけどね。趣味の一貫として続けているよ、若い頃やっていたからね、一番合うスポーツなんだよね。香川さんもバスケ?」

 「いいえ、私は中学から水泳しています...って前お話しましたよ!」

 「ごめん、そうだった(笑)」


 4年ほど前に卒業した教え子と、今教えている教え子とこのように歩くことは、教師生活において最高の至福であると俺は思っていた。

 香川楓は、小学校卒業後、バスケットボールを止めて水泳をし始めていた。やめたバスケクラブの顧問では無いため理由は定かではないが、少々心当たりがあった。

 俺は今、本来の顧問であるボランティア活動などを目的とした「JRCクラブ」のメンバーと香川を連れて歩いていた。香川に関しては、JRCに入ってはいなかったが、香川が6年生時代に担任であったときに「ボランティアに興味がある」と言われてから、よく連れ回していた。

 JRCは、全員で8名から成り立っている。男子2人に女子6人。クラブ活動は4年生から絶対参加で、定員までなら好きなところに毎年参加できる。それこそ、1年おきに変えてもいい。しかし、JRCの場合、地味な反面、ボランティア活動があるため人気がない。

 今回は香川と6年生3名5年生1名で歩いている。男子は6年生クラブ長の小野君だけだ。残りの4名は予定が入っていたためダメだった。まぁ、よくサボる男子1人と女子1人はともかく、残りの2人は嘘ではあるまい。もともと熱心に活動してくれている人達だ。

 地元のご老人や幼稚園児とのふれ合い、が今回のボランティア内容だ。目指すは東田中集会所。あと数分で着く。香川も含めた児童たちはみんなお喋りして楽しそうだ。特に香川は人気だ。だって年も性格も1番の「お姉さん」だからだ。彼女が活動に参加しないときは、決まってみんな残念がる。そういえば、小野君は香川が来ると、なんかいつもより張り切る。もしかして....。

 と、その時猛スピードで車道を車が走っていった。黒いマツダ製のSUV片側一車線の道路、歩道を歩いている我々には直接危険ではないが、それでも危ない。「危ないな」と誰ともなく呟く。

 目の前の信号は赤だった。「嘘だろ?」と思った瞬間には「ガッシャーンッ!!」と左から進んできた佐川のトラックの運転席の側面に激突した。その衝撃でトラックはぶつけられたのと逆の方向に行く。そこには信号待ちの乗用車を押し潰す形で衝突、押される形で乗用車はその後ろの車両にぶつかっていった。また、トラックの後続車両も、トラックに激突、幸いその後ろから車はもう来なかったが、大事故には間違いなかった。

 みんな、唖然とそれを見ていた。ほんの数秒だったのかもしれないが、1時間にも感じられた。

 と、小野君が「先生!」と叫ぶ。

 「助けますか?!」

 「いや、駄目だ。燃料でも漏れていたら危ない!」

 「でも!?」

 「小野くん、携帯は!?」

 「持ってます!!」

 「119番...いや、110番して!!」

 「分かりました!!!」


 小野君が110番している中、児童は皆見つめるしかなかった。この道は完全に封鎖され、渋滞が発生してした。

 と、今度は後ろの方から「ズダタダターンッ!!」と連続してぶつかる音。

 「今度はなに!?」と香川。

 

 このとき、俺達は知るよしもなかったが、その渋滞の列にバスが突っ込んだらしかった。


 もう訳がわからない。ただ、教師生活9年目の頭に浮かんだ、「児童を守らなければ」...。

 「みんな、ここは危険だ!、集会所まで行ってくれ。香川さん頼んだ!」

 「先生は?!」と5年生の女子。

 「俺はここで警察と消防を待つ!小野くん、通報は?」

 「先生!、繋がりません!」

 「はぁ!?」

 慌てて小野君のスマホを見る。確かに110番に通報している。受話口に耳をつけると

 

 「こちらは、宮城県警察です。ただいま110番通報が一時的に大変混み合っております。担当の者が応対するまで、今しばらくお待ちください....。こちらは...」


 機械的に繰り返される女の声。まさか!?警察が!?、いったい何が?。

 きっと、事故を見た人達全員が通報しているのだろうか?。にしても...。


 このとき、気づかなかった。先程衝突したSUVから1体の影が降り、集会所方向に向かっていったことに。


 とりあえず、消防、いや、まずは児童の安全だ。

 「小野君も香川さんと一緒に集会所に行ってくれ」

 強引に児童たちを追いやる。香川さんが児童達を引き連れて集会所へ走っていったのを見送りつつ、改めて事故件場を見る。煙のせいで衝突箇所がよく見えない。もしかしたら、爆発が起こるかもしれない。にしても、ものすごい衝撃であったことには間違いない。

 気づくと、SUVの助席側後方の扉が開け放たれていた。誰か逃げたのだろうか?。

 後ろから悲鳴が聞こえたのはその時だった。「!?」と慌てて見れば...。


 人が人を噛みついている、というよりも食っているのか?。とにかく、想像できない光景が繰り広げられていた。距離があるとはいえ、運転席扉を開けて逃げ出した運転手を後ろから噛みつく瞬間は、衝撃的すぎた。思わず吐きたくなる。何が起きたのだ!?。

 .....それよりも児童だ。しまった!、児童達が危ない!。

 俺は走り出した。児童を守るために.......。



08:52 東田中集会所


 私は、児童達を連れて集会所にたどり着いた。引き戸を開け、中に入ると...。

 そこは、地獄だった。若い男が、幼稚園児たちの母親と思しき若い女性の首筋に噛み付いていた。「キャーー!」と悲鳴をあげる別な女性の喉元にも、首を血で染めたお爺さんが噛み付いている。「イヤー!、離して!!やめてっ!!いや、いや、アーッ!!アー!!」と別な女性は幼い噛みつき魔達に襲われていた。

 先生、私はどうすればいいの。 

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