レッスン(二十六)
早苗の顔が怖い。友香里はそれを見て、やはり賢い子だと思う。
侮り難し小学生。きっと『クラス委員長』とか『班長』とか、そういうのも卒なくこなしてしまうのだろう。自分は御免だ。
だから今、小学生に戻った所で、楽しみは運動会と遠足しかない。
しかし、こんなに面白いことは久しぶりだ。
「じゃぁあぁ、素敵な『愛の詩』を書いた方の勝ちぃ」
「うん!」
友香里の不敵な挑戦に、早苗は余裕の笑みで答える。
直ぐにページを捲って書き始めたのを見ると、普段から『言いたいこと』が随分と溜まっているのだろう。良い良い。全部吐き出せ。
友香里は机に転がっていた『赤鉛筆』を、そっと摘まみ上げると鉛筆立てに入れた。代わりに自分の鉛筆を用意する。
お気に入りのその鉛筆は、昨日削ってからそのままだ。
さて。何を書こうか。深呼吸して真っ白なノートを睨み付ける。
いや、お題は『愛の詩』と自分で決めたばっかりだ。
さぁ始めようか。作詞というものを。
『愛とは何か』
何だろうね。それが判れば苦労はしないんだよ。
二人は机の向こうとこちらで、ノートに向かい合う。
しかし『小さな机』だったので、頭がゴチンとぶつかった。
痛くはない。その証拠に、更に二度三度とぶつけ合う。
互いの目を見て、そして笑った。再び創作に戻る。
ちらりと見えた『最初の詩』は、背中がむず痒くなるような『愛の言葉』が散りばめられていた。次は『大きさ』の勝負に変わる。
それは、どちらも『同じ男』に捧げられた言霊に違いない。
一応、誰だか判らない『言い回し』にはなっている。それでも、きっと『当事者』ならば、思い当たる節があるだろう。
それからは『見るな』と、隠すように書き連ねて行く。
しかし何作も書き綴る内に、全ての人々に向けられた『愛の言葉』に変わってきていた。
それでも楽しいし、これもまた『愛』には違いない。
友香里と早苗は、夢中になって創作に打ち込んでいた。
だから、夕日が部屋に挿し込むことさえも気が付かない。
時に辞書を引いて漢字を調べながら。また時には、一つの消しゴムを奪い合いながら。鉛筆だって何度も削った。
勿論『無駄に削る』なんて、そんな愚行はしない。
早く次の詩を、この手で誕生させるのに忙しいのだ。
その時二人は、世界で一番幸せな姉妹であったに違いない。
友香里と早苗は、どれ程の間、作詞をしていたのだろうか。
足が痺れてあぐらを掻いて座っていた。そこへ突然響いた『ノックの音』に二人は驚く。パッと正座に座り直していた。汗を拭う。
その変わり身の早さに、思わず二人は目を合わせて笑い合う。
どうやら『誰が』来たのか、瞬時に判ったみたいだ。




