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sideルーカス②

「……お嬢様の、家庭教師……ですか?」


想定外の宰相の言葉を受け思わず聞き返してしまった。


片や宰相は満足そうに頷いている。

まるで当然の提案をしているかのようだ。

こちらはまるで意味が分からないと言うのに。


「そうそう。うちの娘は優秀なんだけどねぇ、ちょっとこう……放っておくと魔法に没頭しすぎちゃうというか?」




宰相のご令嬢の家庭教師。

名誉なことではあるのだろう。

しかし、ご令嬢の機嫌を損ねてしまえば物理的に首が飛ぶかもしれない。


……引き受けたくない。

率直にそう思った。




「いや、ですが宰相閣下。私はまだ帰国したばかりでして……」

「うんうん、知ってる知ってる。でもね」


被せるように宰相はにこやかに言った。




「我が家相手に“断れる人間”って、そういないと思うんだよね」



……ただの脅しではないか。




「それに君、留学中の成績は“歴代最高評価”だったそうじゃないか」

「……は?」




そんな評価、聞いた覚えがない。


「いやぁ、現地の教授陣がね。“あれは人間の学習速度じゃない”って泣いててねぇ」


それは褒められているのか怖がられているのか分からない。


「だが安心してほしい。うちの娘も“同類”だから」

「同類、とは……」

「魔法の天才だよ。しかも四属性」

その瞬間、ぞわりと鳥肌が立った。




四属性。

それはかなり稀有な存在だ。

自身も光属性持ちで希少な類の人間ではあるが、四属性はそれとは比べ物にならないくらい珍しい。

宰相の言葉にふつふつと胸の奥から興味が湧いくるのを感じる。


──宰相のご令嬢と関わる危険性よりも四属性持ちへの興味が勝るとは我ながら危機管理がなっていないなぁ。

そう心の中で苦笑していると宰相が言葉を続ける。



「ただねぇ……ちょっと真面目すぎるというか、思い詰めやすいというか」


宰相は少しだけ困ったように笑った。


「放っておくと、自分で勝手に壊れそうになるんだよ」





その言い方が妙に引っかかった。

──壊れる。

ただの比喩のはずなのに、なぜか妙に現実味がある。

場の空気が少しだけ変わった気がした。




───……



そうして私は結局、欲に負けてこの屋敷に通うことになった。

しかし、彼女は異常な程に優秀だった。


魔法の制御。

基礎理論。

実戦訓練。

どれを取っても。




だが——それ以上に異常なのは、彼女がそれを“当然”として受け入れていることだった。


「ここまで出来るのなら確かにこれまでの家庭教師が辞めていくのも分かりますね」


私がそう言った時。

彼女は少しだけ困ったように笑った。




「そうですよね」


ポツリと、ただそれだけ。


嬉しそうでもない。

誇らしそうでもない。


それはまるで“終わりが来ること”を前提にしている人間の顔だった。

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