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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第3章
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第69話 言い訳

『万年青。魑魅 万年青』

 またあなたか。何だよ?少しはゆっくりさせてくれ。

『何故力を使わなかった。そうすればあんな無様な姿を晒さずに済んだはずだ』

 またその話か。別に深い意味はない。使うタイミングが無かっただけだ。

『嘘だ、私とお前の間に隠し事は出来ない。お前は力を使うのを意図的に避けている』

 だったら何だよ。僕の勝手だろ。

『………まだ人間である事にこだわっているのか』

 ……………

『いい加減認めろ。お前は人間ではない。もう人間に戻る事も、当たり前の人間の生活を送る事も許されない』

 そんなの、分かってる………

『では何故仲間の前で、元の姿に戻らない。お前の本来の姿を見せようとしない。そうすればあの程度、なんて事はないはずだ』

 その必要がない。それだけだ。

『そんなの言い訳だ。お前は怖がっている。自分の本来の姿を見せて、仲間が離れる事を』

 たとえそうでも、そんなの僕の勝手だろ。

『お前が大切にするのは何だ。大切な人が隣にいる事か。それとも大切な人が生きている事か』

 いきなりなんだよ。

『たとえ化け物と罵られ逃げられても、そんなの当たり前だろう。お前は化け物だ。それから目を逸らすな。お前の背負うべき宿命だ』

 それくらいは理解している。

『では何故私から目を逸らす。背負わされた宿命から逃げて、まだ人間であることに縋っている証拠ではないか』

 黙れよ………

『そんな馬鹿馬鹿しい考えで大切な人が守れると思うか。どんな事があっても守りたいんじゃないのか』

 うるさい………うるさい………



『また失いたいのか、()()のように』



 いい加減にしろよ‼︎いつもいつも‼︎

 そんなの………僕だって分かってる!このままでロイゼを守り切れるわけない、また大切な人を殺す事になる!

 そんなの………嫌ってほど分かってるんだよ!

 頭では分かってるのに、当たり前のことなのに!

 大切な人が離れるのが嫌?その程度のこと分かりきってる事だ。

 大切な人が生きてくれるなら、僕は手段を選ぶつもりはない。

『では何故力に手を伸ばさない。お前にはその力があるのに』

 お前なら分かるだろう。僕の力はあまりにも大きすぎる。

 力を手にして、大切な人まで傷つけたくないんだよ………もう、大切な人を殺したくない。

『お前の力だ。使えるのもお前だけだ』

 たとえそうでも、もし制御出来なかったら………それで、大切な人を傷つけてしまったら………

『出来る出来ないの判断など、ただの甘えだな。それくらい、お前なら分かってるだろう』

 あぁ。やらなきゃならない。出来ないなんてただの言い訳。それくらい分かってる。

『守れ。そのための力はあるし、無いなら手に入れろ。何を犠牲にしても』

 守る力、かぁ………まったく、面倒なもんだよな。色んな意味で。

『ようやく私の方を向いたか』

 あぁ、酷い姿してるよ。相変わらずな。

『当たり前だろう。()()()()だからな』

 そりゃそうか。

 僕は納得すると彼の元を離れた。醜い化け物、アルクリーチャーの元から。




 僕はハッと目覚めた。ここは………森の中か。

 またこれか………いい加減に何とかしたいもんだけどなぁ。

 外はすっかり暗くなり、虫の声がよく聞こえる。空には綺麗な月が輝いていた。

 辺りに改造人間の気配は………無いな。今のところは問題無いのか。

 昼間の戦いから時間が過ぎて夜。ご飯を済ませた僕はみんなで固まって寝ていた。

「あれ?オモト様」

 すると後ろからロイゼの声が聞こえた。振り向くと彼女は剣を持ったまま、木にもたれかかっている。

 褐色の肌が月明かりに照らされて、何とも画になる姿だ。

「ロイゼか。見張りご苦労様。というかそろそろ僕が変わるか?」

「いえいえ、まだ大丈夫ですよ。今の私はこれくらいしかやれる事がありませんから」

「ダメだよ。ちゃんと寝ないと」

 一応周りのモンスターの襲撃を考えて、ロイゼには寝ている間の見張りをしてもらっていた。

 僕なら多少寝なくても全く問題ないので、ずっと僕がやろうとはしたんだけど、ロイゼがやりたいと強く言うので交代制にした。

「オモト様は昼間の戦いのダメージがまだ残っているでしょう?しっかり休まれた方がいいかと」

「そんなに心配しなくてもいいって。回復が早いのも改造人間の特徴だよ」

 体もだいぶ回復した。明日には問題なく戦えるまでにはなるだろう。

「そうですか。しかし見張りなら大丈夫ですよ。今はそこまで眠くありませんから」

「何だ、寝られないのか?」

「あ、いや、その………まぁ、少し」

 そうだよな。ロイゼもすっかりハイルセンスのことに巻き込んでしまったけど、元々はただの奴隷なんだ。

 あんな化け物達に囲まれて、まともに寝られる神経は持ち合わせていないだろう。

「ごめんな。色々負担かけさせちゃって」

「いえ、そんな………自分で選んだ道なので。オモト様こそ疲れてませんか?少し顔色が悪いような」

「僕は慣れてるから問題ないよ」

 心配そうにに覗き込むロイゼから、僕は手を振って目を逸らした。

 いかんいかん、ロイゼにこれ以上負担をかけるわけにはいかないからな。

 相変わらず自分のことより人のことか。まぁロイゼのそういうところ、割と好きなんだけどさ。

「もっとも、それで寝られなかったのは、私だけじゃないみたいですけど」

 ロイゼはそう言って手で向こうを指し示した。そこには布に包まれたセルフィとシルフィがいる。

 色々知りたいこともあったけど、二人とも疲れているだろうし早めに寝かせた。

 特にセルフィはこれまでハイルセンスから逃げて、それで怪我も負っている。一応応急処置はしたんだけどさ。

 寝るための布が足りなかったが、僕とロイゼが交代で見張りをするので、僕達で僕の布を使い、双子姉妹にはロイゼのを使ってもらってる。

 しかし二人はモゾモゾと動いたり寝返りをしたりして、寝ているようには見えない。

「あれ?二人ともまだ寝てなかったの?」

 するとモゾモゾと動いていた双子姉妹は、身体を起こして苦笑いした。

「その………寝てない、というか今日色々ありすぎて寝れなくて」

「私も。何か周りの音に敏感になっちゃって寝られないよ」

 まぁそうだよな。あんなもん見ちゃったら、普通なら心置きなく寝られるわけがない。

「何だみんな寝れてないのか。それなら、もうちょっとみんなでゆっくりしてるか?」

「うん!シルフィも行こう!」

「え?あ、うん」

 二人は起きるとこっちにやってきた。というか僕達といる時間はシルフィの方が長いはずなのに、順応してるのはどちらかというとセルフィだな。

 まぁ性格上何となくそんな気はしてたから言わないけどさ。

 セルフィはシルフィと対極的な感じで、誰に対しても物怖じしない。

 身分も気にしないから、奴隷と一般市民という関係でもとっつきやすいんだよなぁ。

 僕達はランタンを一つつけて、それを囲むようにして座った。

 せっかくなら今のうちに色々聞いちゃうか。

「そういえば、ハイルセンスの事ですっかり有耶無耶になってたけどさ。セルフィ、そもそも君は何故馬車から逃げ出したりしたんだ?」

「そ、そうだよお姉ちゃん!マルディアさんもすごい心配してたんだよ⁉︎自分達に何か非があったんじゃないかって!」

「え?あ、あぁ、それね………別にマルディアさん達は悪くないよ」

 僕とシルフィに問い詰められて、セルフィは困ったような顔をした。何か言いにくいことでもあったのか?

「実はあの化け物達が私達を狙ってたの。割と前から気がついてたんだよ。だから逃げ出した」

「え?そうだったの?」

 獣人は五感が優れているから、まぁ嗅覚とかで分からなくもないんだろうけど、それでもすごいな。

 特殊なアルビノ種だからなのか、はたまた彼女自身の才能なのか。それは分からないが。

「お姉ちゃんは昔から感覚が鋭いんです。運動も出来たから、周りからも頼りにされてたんですよ」

「何言ってんの。シルフィも手先器用だし、気配りも出来るし、みんなの助けになってたじゃん」

 シルフィの言葉にセルフィが笑いながら答えた。

「仲のいい姉妹なんですね」

「あぁ、いい事だよ」

 二人の様子を眺めながら、僕とロイゼは話し合った。見ていてほっこりとする姉妹だ。

「まぁとにかく、何とかして逃げないとって思って、私だけでも逃げたの。シルフィも何とかするつもりだったけど、追いかけ回されて出来なくってさ」

「もう!本当に心配したんだからね!」

「あははは!ごめんごめん」

 なんて風におちゃらけてはいるが、たぶんその選択をしたのはシルフィのためだろ。

 いくら余裕が無くても、その存在をシルフィや周りに知らせる事くらいは出来たはずだ。

 それを敢えてやらずに、自分が囮となって逃げる。少しでも自分が引きつけるようにして、シルフィを守りたかったんだろう。

 単なる予想だけど、仲良く話してる二人を見たら、自然とそれが正しいように思えてきた。

 妹のために体を張って守る姉と、姉を心配して行動出来る妹。いいじゃんいいじゃん。

 それから僕達は眠くなるまでみんなで話していた。

 この平和が守るために、僕はどうするのか………その考えはまとまらないまま。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。

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