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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第2章
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第48話 お茶

「お久しぶりです」

 奴隷商館に入った僕達は、目の前にいたマルディアさんにお辞儀をした。

 相変わらずの露出の多いドレスを着ていてソファーに座っていた。

 スリットから覗く艶かしい脚に思わず目が惹きつけられそうになったので意識して目を逸らす。

 すると逸らした目線の先には鋭いロイゼのジト目が。

 あれ?僕がマルディアさんをガン見しようとしてたのバレてる?

 これに関しては勘弁してくれ。ほぼ本能みたいなものなんだよ。

 僕はそれを誤魔化すように商館の中を見渡した。

 ここに来るのも久しぶりだよなぁ。というかそんなに頻繁に来ようとは思わないけど。

 いくらここが異世界だと分かっていても、やっぱり僕には日本で染み込んできた倫理観がある。

 この世界では問題無いとしても、人買いの場所にそう頻繁に訪れようとは思えない。

 こういう考えは何とかしないととは思っている。でもそうすぐに何とかなるものではない。

 まぁここにいる人に悪人はいないってのは何となく分かってるから、来ようとは思わなくても来る事に抵抗があるわけでは無いんだけどね。

 かつてロイゼを奴隷にしたヤツらみたいに、奴隷商人の中には犯罪に手を染めているようなヤツもいる。

 正式な形で奴隷を手に入れたりせずに、全く問題のない人を攫って奴隷にしたりね。

 その点マルディアさんはそういう事はしてないらしいし、今のところ特に問題のある人じゃない。

 らしいってのは僕はこの人の事をよく知らないからな。何とも言えないのよ。まぁロイゼの話を聞く限り大丈夫な人なんだろうけど。

 まぁ今回は奴隷を買いに来たわけでまた見に来たわけでも無い。それならこの部屋の奥、奴隷達が並んでいる部屋に行く必要はあるまい。

 当然といえば当然だが、それさえ無ければここは普通の商館の入り口と変わらないからな。特に思う事なく話せる。

「あなた達、どうかしたの?」

 マルディアさんはそう言うと、ロイゼの方をジッと見た。その目つきはちょっと厳しい。

 あーなんか勘違いしてるかも。もしかしてロイゼが何かやらかして、それで苦情とか思われて無いかな?

 いや奴隷を連れて主人が来たら、普通はそう考えて当たり前か。むしろ僕達が特殊なんだ。

 新しい奴隷を買いに来たって可能性もあるけど、そういうのは基本的に上流階級の人間だ。

 何せ奴隷は高いからな。一人買うだけでも結構な出費となってしまう。

 僕はあくまで冒険者。そんな大金は持ってないし、持つような職業でもない。

「えっと、今日はちょっと聞きたいことがあって来たんですけど」

「聞きたい事?」

 僕がそう言うとマルディアさんは首を傾げた。

 勘違いが解けたからか表情はいつも通りになっている。やっぱり勘違いしてたか。

「何を聞きたいの?奴隷の情報とかかしら?」

「それは………あーっと、ここで話すのはちょっと問題が………」

 いきなり押しかけておいて失礼かもしれないけど、こういった話題をこんな商館の入り口で堂々とするわけにもいかない。

 貴族の噂話ってだけでも周りからしたら変なのに、さらに面倒な問題関連と知られたら色々困る。

 そうでなくても、ハイルセンスの改造人間がいるはずなんだ。どこで聞かれるか分かったもんじゃない。

 改造人間の事を気にし始めたらどこで話しても変わらないんだけど。一応対策だけでもしたい。

「…………分かったわ。何だかよく分からないけど、談話室が空いてるからそこで聞くわ」

 しばらく考え込んだ後に、マルディアさんは静かに言った。

「いきなり来た上にすみません」

 僕達はそう言って頭を下げた。急な来客なのにちゃんと対応してくれて、本当にありがたい。

 そのままマルディアさんに案内されて、僕達は談話室にまで連れられた。

 マルディアさんが扉を開けると、僕達はその奥へと入っていく。ここに入るのは初めてだ。

 部屋の中にはそれなりに大きなな大型テーブルがあり、その脇には小さめの花瓶があって大きめの白い花が飾られている。

 それを挟むように大きめのソファーが二つ。これも結構高かったりするのかな?

 でも飾りはそれくらいで、部屋全体はシンプルなデザインだった。

 煌びやかな部屋なんてたまったもんじゃなかったからよかった。目が死ぬっての。

 マルディアさんの格好がこんなだからちょっと危惧していたところはあったんだよね。

 とはいってもやっぱり僕達が普段いるような部屋とは明らかに違った雰囲気に、僕もロイゼの飲まれ気味だ。ロイゼ、口はちゃんと閉じとけ。

 どう見ても場違い感がハンパない。見た目は割と普通なんだけどなぁ。不思議なものだ。

 まぁでもそりゃそうだよなぁ。ここは他の商人とか客と話す場所。ある意味この商館の気品とかが試されるわけだし。

 そう考えたらこれくらいの場所じゃないと務まらないって事なのかな?

「お茶は後で来るからとりあえず座ってちょうだい」

「は、はい」

 僕達の向かい側に座ったマルディアさんに言われるがままに、僕はソファーに座った。

 しかしロイゼだけは座らずに僕の後ろに控えていた。

「何してんの?ロイゼも座りなよ」

「いえ、私は奴隷ですので。こういった席にオモト様と同席するわけには………」

 僕がこっそりと尋ねると、ロイゼが言いにくそうにして答えてきた。

 そういうものなのか?相変わらず奴隷の世界の礼儀はよく分からない。

「とりあえず座ってよ。僕一人だと落ち着かないんだって」

「そ、そうですか………それでは、失礼します」

 ロイゼはそう言って僕の隣に座ってきた。ふぅ、ちょっと落ち着いたかも。

 しばらくしてお茶が運ばれてきて、僕とマルディアさんの前に出された。

 あ、そうか。ロイゼは奴隷だから用意されてないんだな。元々後ろに控えるの前提だったみたいだし。仕方ないよな。

「ロイゼ、お茶飲むか?」

「え?あーいえ、大丈夫ですので、お気になさらないでください」

「そうか、喉乾いたら言えよ」

「はい、ありがとうございます」

 僕はそう言ってお茶を一口飲んだ。そして口の中に流れ込んでくる味に、思わず目を見開く。

 いや別にこのお茶がとんでもなく美味しかったとか、そういう事じゃないよ。

 ただ出されたお茶が紅茶だった事にちょっと驚いたのだ。

 日本にいた時は大体麦茶か緑茶、たまに飲むものでも昆布茶だったし。紅茶なんてほとんど初めて飲む。

 だからお茶を出されて、てっきり麦茶なのかと思ってしまった。

 この世界のお茶って言ったら紅茶が主流なのだろうか?というかこの世界に来てお茶自体飲むのが初めてな気がする。

 宿だとほとんどコーヒーだったし、そうでない時は大体水だ。

 こうやってみると、至るところに日本と異世界との違いが見られるな。

 この世界に来て色々あったから、じっくりとそれを感じる暇も無かった。

 最近はロイゼと一緒に街を回ったりする事が増えてきたけど、意外と気がつかないもんだなぁ。

 というか市場でそんな頻繁にお茶っ葉なんて見てなかったし、そんな一般市民がホイホイ飲むものでもないんだろ。

 すると目の前のマルディアさんがクスクス笑ってるのが見えた。

「? 何ですか?」

「ん?あーごめん、本当に君達の関係は変わってるなぁって」

「変わってる、ですか?」

 そう言われて僕とロイゼはお互いを見た。どこも変なとこなんてないと思うけどなぁ。

「普通のパーティーなら当たり前かもしれないけどね。奴隷の主人が奴隷を隣に座らせたり、お茶を勧めたりなんてまずしないよ」

 そういうもの、なのか?イマイチよく分からないんだよなぁ。

「僕は何というか………ロイゼを奴隷と思ってないから、ですかね」

 いくら奴隷が物だと言われても、ロイゼを見てたらとてもそんな風には思えない。

 前に比べて表情が豊かになってきてからは特にそう思うようになった。

 むしろこんなに子がお金を払うだけで僕の所にいてくれるなんて、未だにもったいないとすら思う。

 だから僕はロイゼとは常に同じ目線でいたい。彼女の感じた事を僕も同じように味わいたいと思う。

 するとロイゼはフッと僕に向かって微笑んでくれた。僕も釣られて笑ってしまう。

「ふーん、ロイゼったら愛されてるわねぇ」

 マルディアさんは僕達の顔を覗き込むようにしてニヤニヤしている。

 その言葉に僕は自分の顔が熱くなるのを感じた。

「あ、愛って⁉︎いやっ、その………別に、そ、そういう意味ってわけじゃないですから‼︎普通に、普通にパ、パーティーメンバーとしてって事です‼︎」

「そんな事分かってるわよ。それとも、何か別の捉え方しちゃった?」

「なっ⁉︎別に………」

 マルディアさんは面白そうに僕の方を見てくる。

 ふと隣を見てみるとロイゼも僕と同じように考えたのか、顔を赤くして俯かせている。

 別に僕はロイゼをそういう対象として見ているわけではない。単純なパーティーメンバーだ。

 くっ、これ以上話してるとまた揶揄われそうだ。さっさと本題に入ってしまおう。

「それで聞きたい事があるんですが、いいですか?」

「あぁそうだったわね。それで聞きたい事って何かしら?奴隷(商売)の事?」

「あ、いえそれとは全くの無関係ですよ」

 まぁそれを伝って来たから外れてはないんだけど、ほぼほぼ違うだろ。

「商人に商売以外の質問って………まぁいいわ。それで何?」

「はい、実は………」

 それから僕達は事情を説明した。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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