第49話 正確
僕がマルディアさんに話した内容は半分本当、半分嘘の内容だ。
当然だがハイルセンスの事をマルディアさんに離すわけにはいかない。いつか話せればいいけど、それはまだじゃない。
というわけでその部分だけを隠して話させてもらった。これでも人を騙すのには慣れている。
バレないように表情を見ていたが、特にマルディアさんが怪しんだ様子は無かった。ふぅ、何とかなるもんだな。
その場で適当に考えてハイルセンスの改造人間のところをその辺の盗賊って事にして話した。
即興で考えたものだけど、これなら結構自然に聞こえるだろ。
「………というわけでその盗賊が領主に協力してる可能性があるんですよね。何か知りませんか?」
「うーん、そう言われてもねぇ。この辺で盗賊団がいたなんて話聞いてないし、聞いてたとしても領主の手下じゃ情報なんてそんなに入ってこないわ」
まぁそうだろうな。裏ルートとかなら色んな情報が回ってくるんだろうけど、それにも限界はある。
何より今回の話は半分僕の嘘も混じっている。たしかな情報が分かるはずもない。だって盗賊団なんていないんだからなぁ。
かといって本当の事を言うわけにもいかないし、直接的な事でなくても、別の切り口から割り出すしかなさそうだ。
「そもそも僕達はここに領主が来るかもしれないからと思ってきたんですが、実際来たりはしたんですか?」
「ん?まぁ頻繁にではないけどね。この街で奴隷商館といえばここくらいなものだから」
お、やっぱり来てるには来てるんだな。それなら好都合だな。
「それじゃあ領主の事とかって何か知りませんか?変な噂とか」
「あのね、ウチに来るからといって私達がその人のこと何でも知ってるわけじゃないのよ?せいぜい身元がしっかりしてるかどうかくらい。私だって君のこと碌に知らないし」
そりゃそうだよな。もし知ってたらもうちょっと話は楽だったんだが、面倒事にならないからやっぱり知らない方がこっちとしては都合がいい。
「でも相手はそれなりの貴族なわけですし、又聞きでもいいので何か知りませんか?」
これが一般市民なら難しいかもしれないが、相手は領主という大きめの貴族だ。
黙っていても入ってくるの情報もあるだろう。割とグレーなヤツもいる奴隷商人なら尚更だ。商人って情報命ってイメージあるし。
「あのさ、疑問を疑問で返すようで悪いけど、何で君たちはそれを探ってるの?見つけたのは君たちなんだろうけど、そういうのって警吏の役目じゃない?君たちがわざわざそこまでする必要ある?」
うっ、まぁそこは気になるよな。本来なら冒険者がこんな事に首を突っ込む事なんてまずあり得ないからな。
もっとも本当の事を話したとしても、僕達とは関係ないといえばそうなんだけどね。
ハイルセンスがどう動こうと、僕達と関係ないなら別に干渉する必要もないし。
そういえば何でこんな事になったんだっけ?昼ごはん食べてたらすっかり忘れてしまった。
えっと…………あぁそうだ!ハイルセンスのやろうとしてる事が、僕達にも面倒な事になる可能性があったからだ。
となるとこれをそのまま話すわけにはいかないよな。適当に誤魔化しておくか。
「単純な話、僕達でカタつけた方が報酬が多く手に入るからですよ。どうせ見つけた手柄なら全部欲しいもんですよ」
ロイゼにやろうと言われた言ってもいいんだけど、絶対面倒な事になるからやめとこ。
本当の事ではあるけど、マルディアさんの会話の相手が僕からロイゼに変わったら面倒以外の何物でもない。
ロイゼは良くも悪くも嘘が苦手だ。マルディアさんに聞かれたら絶対本当の事をポロッと話す未来しか見えない。
まぁこれくらい単純なヤツだからいいと思う事もあるんだけどね。
だから正直さっきからマルディアさんがロイゼの表情から色々読み取らないか心配でしょうがない。頼むからバレないでよ。
「なるほど、ね」
よし、怪しんでる様子はないな。色々面倒事を避けるには一番いい誤魔化し方だと思う。
マルディアさんには情報が欲しいけど、かといってそれ以上関わってもらうつもりはない。まず危険だし、後々全部話すのは面倒だ。
いや、この誤魔化し方でも面倒事は起こるんだよね。僕の予想だと………
「ねぇねぇ、それって私が協力したら報酬分けてくれる?」
ほらな、こうなるだろ。この人ならこうなると思ったんだよ。まぁ僕でも聞くと思うけど。
「そうですね。情報の内容と結果によりますよ。報酬とはいっても、向こうは正式には知られていない盗賊団なわけですし。あんまり期待出来ないかもです」
それなりに名の知られている盗賊団とかなら懸賞金とかかかってるんだろうけど、今回の盗賊団、もといハイルセンスにはそんなものはかかってない。
となるとちゃんとした報酬が出るかどうかは分からないな。あるとしても結構かかるかもだし。
「そう………というかそれギルドには報告したの?冒険者の狩場で起きた事ならギルドが動いても良さそうなものだけど」
「さっきと同じ理由で知らせてません。こっちでまるっともらうつもりですから。たまたま見つけた事にして倒すのがベストですかね」
たしかに普通の盗賊団が冒険者の狩場でのさばってたら、まずギルドに報告して色々な対処がなされるものだろう。
でも当然ながらギルドにもこの事は黙っておく。ハイルセンスの事がバレれば絶対面倒な事になる。
というかそれについて僕が気がついてしまった事がハイルセンスに知られたら、またこの前のガーゴイルアンブロジウスのようにハイルセンスの刺客がする。それは面倒だ。
「そうなの…………そういう事なら知ってる事だけでも教えてあげる」
「ありがとうございます」
まぁちゃんと説明すればこうなることは想像出来ていた。この人は話の通じる人だ。
「でもいいの?たしかにこの事を明るみに出来ればかなりの報酬が期待できるかもしれないよ?でもその分危ない事だよ?」
それはそうだろうな。
何せ僕の予想が当たってれば、これは言ってみれば領主に喧嘩を売るようなものだ。それも結構ディープな内容で。
おそらく下手に動いてバレたら、色々変な言いがかりつけられて処刑されるのは間違いない。
「でも、逆に言えば上手く立ち回れば結構な報酬は手に入るわけですからね。そんなリスクを一々考えるのも無駄です」
「君はそうかもしれなけどね。でも………」
マルディアさんはそう言って僕の隣を見た。そうロイゼである。
「あー………そうですよね」
たしかに上手く立ち回るとは言ったけど、それだって完璧に自分じゃない。万が一の事だってあり得る。
その時にただの冒険者が領主相手に出来る対抗なんてたかが知れている。
そうなると、僕だけでなくロイゼにも結構な被害が出る。また商人の元に戻るのは間違いないだろう。
せっかく買ってここまで一緒にやってきたんだ。今さら他人にどうこうさせたくない。
もちろんロイゼはハイルセンスの事も全て知ってるし、それに関するリスクも承知で僕と一緒にいる。
でもマルディアさんから見たら、危険な事に無理矢理駆り出してるようにしか見えないのだろう。
こういうところにマルディアさんの奴隷に対する思いやりが見える。
本当は優しい人なんだよ、見た目がこんなだから分かりづらいけど。
どちらかというと言い出しっぺはロイゼなんだがなぁ。
マルディアさんと僕の視線に気がついたロイゼは、フッと笑って言った。
「大丈夫です。オモト様なら絶対にこの事件を解決してくださりますから。もしもの事なんて考える必要ありません」
その言葉に僕とマルディアさんはただ呆然としてしまう。
おぉ、株上げてくれるなぁ。これがアドリブで出るってのがすごい。
たぶん本音、なんだろうな。信用してくれるのは嬉しいけど、プレッシャーになるから勘弁してほしい。
何でこんなに信用してくれてるんだか。未だによく分からない。
「ふふ、なるほどね。相思相愛ってところかしら」
「ふぇっ⁉︎そ、そんなんじゃ………ない、というか、まぁ、そうだったら………嬉しい、というか」
マルディアさんの揶揄うような言葉に、ロイゼは真っ赤になって答えた。何か僕まで恥ずかしくなってきたんだけど。
「何照れてるのよ。パーティーメンバーとして、という意味よ」
「へ?そ、そうですよね………」
「まぁ、別の意味でもそうみたいだけど」
「マルディアさん!」
ったく、また揶揄われた。この人は人を揶揄うのがしゅみみたいなところあるからな。
僕は気恥ずかしさを隠すように咳払いを一つした。
「んんっ!それで、知ってる情報ってどんなのなんですか?」
「あーはいはい、それね。と言ってもほとんど噂話だから根拠とかないけどいい?」
「今はとにかく多い情報が必要なんで。どれが本当かは後で調べます」
ここは奴隷商館。さすがにそこの情報に正確さは求めていない。
今はただ色んな可能性を考えておきたいのだ。そのためにはたとえ憶測でも情報がいる。
「そう、分かったわ」
そう言うとマルディアさんはお茶で口を潤してから話し始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




