第63話:超肉食系
クオンリィが真っ先に退場する事にフィオナがようやく気付いてさてどうすんべかと考え始めたところでなかなかの爆弾が投げ込まれた。
(うーん……どうしよう……クオンはラスクが付いて行ったから平気?だろうし……)
「え、ええと?運命の人?クオンが?」
「ええ……まだお話もまともにできていないのですが……」
苦笑しながらオーギュストは後頭部を軽く掻くけれど、それを見るフィオナの目は胡乱気だ……。
(それ……運命のって、ただの一目惚れ?んんん……オーグとクオンがくっついたら……ヴァネッサ様大勝利だからクオンに役立たずなんて言わないだろうし……アリっちゃありなんだけれど……)
「へ、へぇ……」
「"ラッキーパンチ"なんて不名誉は受けたけれど、今でも目を閉じると鮮明に思い出せる……しなやかな足は若い雌鹿のようで、特に太ももから尻にかけての肉付きがいい!あの出会いは運命だった……」
(こいつも残念【攻略対象】かぁ……)
遠くを見る眼差しで蹴り開けられたままの裏口を見る、なるほど、雨が止んでいる……そしてクオンが言った通り地面には見事に引きずり込んだ血の跡が二つ描かれている。
「ディラーン、裏口回り掃除しておいてよねー?」
「はぁ?なんでオレが……」
「アンタの血でしょ……?なに、文句あんの?」
「……わーかったよ……ったく」
ぶつくさ文句を言いながら、勝手知ったる幼馴染の家、ブラシとバケツを手早く用意して裏口を出ていくディラン。
上半身裸のままで。
……まてや。
「――ッおい!?ディラン!?」
これには真っ先にオーギュストが身を乗り出して反応した、少しはまともなところがあるのかと思ったけれど「俺も手伝う」と言ってディランと同じように上着を脱ぎ始める始末。
ちなみに二人とも王立魔法学院の制服なのだけれど、以前説明した通り、制服には[保護]を強化、視覚化してくれるタイを巻いているわけだけれど、それは残している。
はい、つまり上半身裸でネクタイだけはしています。
外すと[保護]が外れるのです、仕方が無いんです。
見た目がアレなのは重々承知、水飛沫に笑いあうタイプの違う細マッチョ男子二人、結構目立つだろうなぁなんて天井を見上げながらフィオナは思う。
なんだこれ。
ベーカリーカノンは休息日に超特殊な謎の営業をしている不思議なパン屋になってしまったようだ……。
ともかくアホ二人が掃除しているうちに状況を整理しよう。
ソファに身を投げ出し、うんうんと唸るフィオナだった。
(えええっと、まず、オーグはクオンに一目惚れしちゃったのよね?まぁソレはいいわ、少なくとも私の≪封印≫覚醒条件さえ満たしてくれれば別にオーグに未練はないもの……)
これはフィオナにとって本音だった、オーギュストは確かにかっこいい、文句なしのイケメンだ……けれど……。
「その時思ったんだ、嗚呼俺はこの女を孕ませたいって!」
「わかったわかった、良いから往来ではやめろ……」
「わかってない!ああもう!こうガッといってな?」
………ああ。
(超肉食系どスケベさんですね、はい……行く末はね?この人との家庭とかまあ思い描くけれどさあ……)
行き過ぎにもほどがある、そしてドン引きするには十分すぎる。
コイツは無いなあ……つくづくそう思う。
(まぁ肉食獣同士相性はいいのかな?)
ぴょこっ
【残弾数:7】
(あっるぇえぇぇえええええええええええええええええええ!?)
そして同時にフィオナには一つの懸念があった。
(昨夜……"剣聖"と戦ったのはクオンの筈……なんかいかにも処刑用BGMみたいな曲に変わったから安心して寝ちゃったけれど……)
「ねえ、オーギュストさん、その怪我ってどうしたんですか?」
「ん……?ああ、なんだか今日は師匠が異様に張り切っていてね」
(ふむ、昨夜の戦闘には関わっていない……)
若き駿馬に敗れた、三対一であっても成人前の小娘達に……"剣聖"が気合を入れなおすには実に十分な出来事であった。
結果として"剣聖"は十三番街で弟子を取る防御の達人の元を朝から弟子と共に尋ね、そこで組手を続けていたのであった。
そしてオーギュストが重いケガをして達人の弟子であるディランが[回復]なら心当たりがあるとフィオナの元を尋ねたと、そういう流れなのだった。
フィオナには顛末を知る由も無いけれども、ディランが怪我人を連れてくるのは大抵が十三番街裏通りのお師匠様絡みの事、そのお師匠は『元・王領騎士団王城警護隊』だった筈、そうなると"剣聖"と面識があってもおかしくはない。
そうフィオナは分析していた、しかし。
(クオンが悲鳴を上げて逃げた理由がわからない……)
昨夜の処刑用BGMが"剣聖"側から発動していたのなら?
もしかしたら昨夜の戦場にオーギュストでも現れてそれが決定打となったクオンリィの敗北……かと思ったけれども、どうもこの様子ではそれは無い。
「あの、失礼ですけれど……クオンとはどういった?」
「失礼なものか!彼女を見た瞬間全身に電撃が奔って身動きできなくなってしまったんだ!」
(それはブチ込まれたんじゃないでしょうか)
「そして彼女は……きっと選別!選別したんだ!ラッキーパンチなんてものじゃない、俺は師匠に感謝した、感覚を鍛え、反射を鍛えてくれた……俺は選ばれたんだ!頼むフィオナさん!彼女との、クオンリィさんとの仲を取り持ってはくれないか!?」
(パンツ見たくらいで大袈裟な……)
「は、はあ……ちょっと断言できませんけど」
パンツなど見てはいないのだけれど、それはまた別の話。




