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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
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第64話:侯爵家の紋章

 上半身裸にネクタイのみという姿の超ガッツキ系に友人を紹介してくれ、仲を取り持ってくれと言われても正直。


(困る……)


 そうでなくても色々忙しいと言えば忙しい、フィオナとしては其処に係っている時間は無いのだけれど……実際問題クオン離脱に関しては残弾がある限りは多分大丈夫だろうと予測していた。


 残弾がある限り敵には回らない、と言ってくれたクオンだけれど、それはヴァネッサ様にフィオナが敵対しない限りという条件付き。

 裏を返せば残弾が確認できるという事はフィオナは虎の尾を踏んでいないという事。

 踏んでいたらジェシカが一度ジェ/シカされたみたいに、フィ/オナされてる気がする、ヴァネッサ様はトリガーが超軽いけれどクオンは導火線が超短い。


 そして何よりなんだかんだと面倒見はいいし、結構よく笑う。


(『世界の流れ』がクオンをそうしているなら『世界の流れ』だって決して悪い事じゃない……だって悪役令嬢ものということはヴァネッサ様を中心に流れる筈……)


 という事は相手がアレだけれど側近の色恋事情なんかも『世界の流れ』なのだろう……。


(で、【ヒロイン】のわたしに相談が来ると……あれ?あたしが二人の仲を取り持ったら……)


 パキン。


 フィオナの頭の横あたりで何かが弾けた気配がした、入学してから時々あるのだ。

 ゾッと背筋を寒いモノが伝う、何となく分かってきた。

 入学初日にあった思考誘導のような『世界の流れ』の【強制力】の干渉。


(うん、この相談は乗っちゃダメなんだね……)


 ぐっと表情を引き締める、≪前世の記憶≫がフィオナをフィオナたらしめてくれている、守護(まも)られている事をはっきり理解した。

 相変わらず超優秀な多機能センサーである。


 本来の使い方がどんなものかは知らないけれども転生チートは伊達じゃない。


「でも……ごめんなさい、あたしあんなにクオンが取り乱すの見た事が無いんです、何よりあたし自身もオーギュストさんの事まだよく知らないし……」

「そう……か……」


 がっくりと肩を落とすオーギュストは文字通りに辛酸を舐めたような顔をしている。

 多分彼は彼なりに真剣なのだろう事がその表情からフィオナにも伝わってきた、けれど。


「だから、オーギュストさんの事もこれから教えてくださいね?」

「え……あ、ああ……それでフィオナさんが紹介してもいいと思ったら、というわけだな」

「なんだよ……フィオナのくせに真人間みたいだぞ」


 ディランの評価は、ある意味で正しい、けれども。


(紹介するとは言ってないケドね……)


 オーギュストとの繋ぎを付けつつ、フィオナ経由でクオンリィがオーギュストとデキる事は避ける、三番下水は伊達ではない……。


(わたし経由でデキた場合、それは高確率でヴァネッサ様の孤立に繋がる……そういう事なんでしょう?)


 それが『世界の流れ』だというのなら、うまく波を乗りこなす、そして『DEAD OR ALIVE』の運命を覆す。

 改めて全員の【攻略対象】と遭遇していよいよこれからなのだなとフィオナは深く深く深呼吸、大きく鼻で吸うと……うん、血の臭いが充満している、お父さんが帰ってきたらめっちゃ怒られるやつだ。


「ディラン、掃除終わったら窓開けてちゃんと換気しておいてね」

「なんでお前さっきから俺ばっかこき使うんだよ」

「ディランだからよ」


 ソファから立ち上がりぐーっと体を伸ばすと、二人の半裸が掃除を続ける裏口に向かう。


「それじゃオーギュスト!これからよろしくね!」

「ああ、証明して見せる」


 こくりと力強く頷くオーギュスト、切れ長の赤い瞳は決意に満ちていてとても真っ直ぐだからどうしても罪悪感は感じてしまう。


「お母さーん!あたしちょっと出てくるねー?」


 家の奥に向かって少し大きめの声で母に外出を宣言、悲鳴を上げて逃げたクオンを取り敢えず探さないとならない。


「俺らも探すの手伝うか?」

「ディラン、アンタバカ?」


 桜色の眉をハの字に寄せて、ディランに顔を向けて軽くオーギュストの方に目配せするフィオナ。


「……すまない」

「ああ、そっか……オーグの顔見て逃げたんだったな」

「……ディラン、やめろ……その事実は俺に効く」


 目頭を抑えるオーギュスト、惚れた相手に話しかけただけで逃げられて運命の人と盛り上がっても傷ついてはいるのだ。

 孕ませたいとか随分生々しいのだけれど……。


(エロ魔人と肉欲暴走馬……波長が合うのかしら)

「とにかく、あたしは行くから後片付けだけしておいて、十三番街のお師匠様んとこでしょ?後で気が向いたら回復役に行ってあげる」


 そう言ってひらと軽く手を振って、フィオナは三番街の表通りに出るべく歩き始める。

 今日のクオンリィは不気味な仮面をしていたけれど、いつも通り黒基調の衣装ではあったけれど初めて見るドレス姿だった。

 ということは今は上がっているけれど先程まで降っていた雨の中歩きで来たとは考え難い……。


(そもそも何の用だろ??課外活動行く格好ではないし……)


 行きかねない、とは微かに思ったけれどもそこは深堀しないように考えないように呑み込んだ、掘ったら絶対【残弾数】減らされるやつだ。


 フィオナが表通りに出ると、案の定……馬車がある、それも……。


(――……ノワール侯爵家の紋章っ!?)


 たぶん、おそらく、あの馬車の中にクオンリィが、あとラスクはいる。

 けれど……。


(いや、まぁ……クオンは【黒い三連星】なんだからそりゃ……ノワール家の馬車を使う事もあるんだろうけれど……)


 とんでもなく嫌な予感がする、それも結構確信めいている予感。


「もし、そうなら……一旦引き返そっかなー」


 そこまで呟いて、ハッとする、今のは本当に自分の意志か?そう考えたフィオナの頭の横でパキンと≪前世の記憶≫が護ってくれたのだと感じる、きっとジェシカの巻き戻りの中で記憶を保持できたのもこの力なのだろう。


「よし」


 ぐっと水色の瞳に意志の輝きが煌めいた。


 ノワール家の馬車の御者席に向かって真っすぐと歩き始めたフィオナの耳に、フィオナの予感を裏付ける【戦闘BGM】が流れ始める。

 優雅さを強調したメロディアスな前奏……。


 【ヴァネッサ戦のテーマ1】だった。

次回三章ボス戦!

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