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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
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第51話:お風呂へ

 皆で一通り心地よい汗を流す時間にも、体力差というものがどうしても出て来て一人また一人と練武場の片隅に出現した優雅なお茶会のテーブルに自然と張り付いていく。

 現在練武場では幼い才能の武稽古を見た事で意気も軒昂な西部方面騎士団の精鋭たちが各々稽古に勤しんでいる、"抜刀伯"は娘と稽古をしているのだけれど見守る回復系防性魔術士達は気が気でない。

 父娘が手にする鞘の内は本身、真剣だ……。

 いつ西部最凶の戦争狂の右腕で、西部最強の戦闘狂が、とうとう愛娘すら手にかけるのではないかと気が気ではないのだ。


「てりゃあ!」

「応、ヌルいヌルい、なんだそりゃ、ただの抜刀術か?」

「いえ!私なりに"抜刀術(クイックドロー)"をアレンジしてみました!どうですか?師匠?」


 紫色の単眼を喜色に染めて電光パリった刀をゆっくり納刀する、慌てると鞘を持つ手が感電してしまう。


「百年早い、まずは術理を磨け」


 ただの送り足、しかしずいと圧を込めて間を詰める"抜刀伯"、あれほど「刀に頼るな」とそう教えたのに、カミさんがまた魔術指導でもしたか?と溜息が漏れる。

 愛娘がやろうとしたのは≪雷迅≫[雷刀]といったところか、いや、こんなものは[痺れる棒]だ。


「視て覚えろ、クオン……これが"抜刀術(クイックドロー)"だ」


 一閃。


 殺りやがった――!!


 見守る術士達が()()()()()()()娘に駆け寄ろうとするけれど、娘は飛ばされながらくるりと空中で身を廻して抜刀の構えのまま着地する。

 何のことはない、跳んだのだ。


「視ました、覚えておりますよ?師匠?」

「それで何故(なにゆえ)奇策に頼るか!未熟者!!」


 ああこの娘はやはり魔術師にするなど惜しい、磨き磨いた"抜刀術(クイックドロー)"の術理を教え、沁み込ませ、理解させるのだ、親バカ結構、剣術バカ結構、継げよ我が刀理、何と愛しい娘だろう。


 加速した"抜刀伯"の刀閃を間一髪と掻い潜るクオン、『受け』はしない、それは緊急手段だと他ならぬ師がそう教えた。

 間合いを、合間を見よ。


 ――居の間だ。


「疾ッ!」

「今のは悪くない、悪くないぞ!!」


 バトル父娘の家族団欒を椅子に座って眺めながら、ジョシュアは呆れたような溜息をもらす、自分とて『王家剣術指南役』である"剣聖"に、剣こそ習っていないけれど鍛錬は受けている、それ以外にも王領棍術の功夫を積んでいるし槍術は嗜みとして始めてヴァネッサに褒められて今も続けていて自信はある……それでも。


「クオンは……よく動けるね」


 女の子より体力がないのはちょっと口惜しい、不満げに唇を尖らせるけれども、婚約者が片肘着いて悠然と笑っているのを見て睫毛を伏せて肩を竦めた。


「当然でしてよ、このヴァネッサ・アルフ・ノワールの"愛刀"ですもの」

「……なるほどね」


 ふふふんと自慢げに胸を張り、左手の短銃をくるんくるんガンプレイにて舞わすヴァネッサに「あいつ人外だろ」なんて言ってお水を差すのは悪手に過ぎる。


「前に抜刀ママが言ってたケド、魔力発揚時点で雷属性がー……なんだっけ?」

「発揚する時点で魔力の属性を固めている、クオちゃんは魔力が完全に雷属性だから自然にそうなるね……そうか、魔力を発揚して循環させる……全身に属性を行き渡らせるって事だね」


 ノエルが思い返すように、背凭れに身を預けながら抜刀ママこと西部最強の攻性魔術士である"雷神"クラリッサから聞いたことを思い返すけれど、抜刀ママの話はいまいちノエルには理解ができない。

 引き継ぐのは王国最強の攻性魔術士"魔龍侯"が嫡子レオナードだった。


 最高位の魔術を学ぶ環境にあるレオナードは結構正確に分析していた。


「レオ、どういうことだい?」

「ジョシュはクオちゃんの[魔力譲渡]受けた事はないかな?」

「アタシくらいじゃないかな?レオちゃんあるの?」

「うん、ノエちゃん、どうだった?」

「どうって……痛気持ちいい?」

「そう、ちょっと気持ちいい、クオちゃんは今ずっと自分を痛気持ちいい状態にしている!だから動ける!」


 といっても八歳児、説明は不足しているので補強。

 簡単に言えば全身電気マッサージでほぐし続けているのだ、疲労?止まったら多分一気に来る。


(気持ちいいのって[魔力譲渡]だからじゃないかなー?)

(それって単に漏電しているのではありませんの?)


 特に親しい二人が楽しそうにパパと戯れている親友をちらと見やる。

 なんだか父娘そっくりな凶暴な笑顔で切り結んでいて、本当に「痛気持ちいい」状態なのかも?

 性癖っていうそうですわね。


「ま、まあ、わかったような判らないような?それにしても汗かいたからかな、少し冷えるね」


 同じようにクオンを見ていたジョシュアが、話を切り替えるように切り出した。


「あら、お風邪を召してはいけませんわ!」


 ヴァネッサが声を弾ませぺふっと指を鳴らすとたちまち侍女がずらりと並び。


「この前新しくしたお風呂にご案内して差し上げなさい、大きく広くしましたの!」


 自慢のお風呂である、ふんすとドヤ顔キメて侍女たちに案内するよう指示を出す。


「ぼくも行こうかな、ヴァニィちゃん達は?」

「わたくしはクオるんを待ちますわ」

「そゆことー」


 レオナもお風呂にびっくりするでしょうね、上機嫌のままヴァネッサはお風呂への案内を指示したのであった。

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