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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
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第48話:夜の賑わい

「――っは!」


「ジェシカくん?どうしたんだい??ガンガン行こうじゃないか!ははっ!!」


 気が付くと、死の砦の一角でザイツの気配を察知したところに『戻って』いた。

 当たり前だけれど斬られた傷はない、あったら今頃ごろりと右腕と頸が転がっている筈だ。


([保護]も戻っている……戻ってるんだよね?)


 ヴァネッサに仇成す言葉と判断された、のだと思っているけれど、そこから放たれた"抜刀術(クイックドロー)"は初見の業だったと記憶している。

 まさか[保護]ごと斬り裂かれるとは流石のジェシカも思わなかった雷閃。

 ジェシカが知る限りザイツが使う≪雷迅(らいじん)≫は刀を正面に掲げ、彼女のルーティーンを行ってから、「発動ッ!」の一声で雷を纏う[自己強化]だった……筈だ。


 発動シークエンスは毎回見守っていたから知っている。

 何故見守ったかって?……そりゃそういうものだからだ、無視するのはヴァネッサくらいのもの。


(もう発動してた?や、だとしたらもっと稲妻を纏ってド派手だったよねぇ?マジわけわかんない)


 そして繰り出された≪雷迅(らいじん)≫と"抜刀術(クイックドロー)"の合わせ技……タイ付きの[保護]を一撃で抜いた刀閃でたぶん自分は絶命したのだろう。

 考えないといけない事が多い、今ザイツとの接触は避けるべきだ。


 フィオナには申し訳ないが何とか切り抜けて欲しい、ここ数日は寮で自習している時間か寝る前くらいだけれど、勉強を教えてあげようと思ったら……多分フィオナの方がジェシカより頭がいい。


(こんな奥で一緒にいてまだ斬られてないって事は何か事情がある?……今夜あたり聞ければいいケド)


「いえっ!先輩……この先ヤバイやつがいます、ここで引き返しましょう」

「キミと僕、そして彼女達がいてもかい?」

「はい」


 順調に進んでいた課外活動……ほぼジェシカ一人が戦いフェルディナンドは時折強化魔法を飛ばすだけ、という一行は実質ジェシカとフェルディナンド二人いるだけに過ぎない、あとの女生徒はフェルディナンドにべたべたしているだけで何もしていない、だけれど。


「えー?大丈夫だよぉ![保護]あるしぃ」

「敵がアンデッドばっかりで怖くなったんじゃないの?まー、一年生じゃねぇ」


 言いたい放題だ。


「キミたち、ジェシカ君はここまで全力で僕達を危険から遠ざけてくれた。彼女の実力は本物だよ?――感じないかい?この気配……うん、やっぱりね……おそらくは強力な攻性魔術士のアンデット、これは幽体系だな……炎属性が得意な者はいるかい?」


 ジェシカと彼女達の間に入るように優雅に歩を進め、闇を指さしながら甘いかんばせをキリリと精悍に引き締めて語るフェルディナンド。

 強力な狂犬と忍者と可愛い犬とアホの四人?組です、生きてます。

 あとアンデッドな。


 それでも、フェルディナンドが庇ってくれたことにジェシカは頬を桜色に染めてその精悍な姿を見つめるのだった。


「ちょっと試したのさ、ゴメンネ?……さっきジェシカ君が行くと言ったら僕が止めるつもりだった、ここはね、相当古い砦でね……ごく稀に、アルファンが内乱に明け暮れていた頃の猛将の霊が……んッ!?」


 緊迫感に声をやや潜め、フェルディナンドの赤銅が闇の中の霊を探すようにゆっくりと左右に廻らされ……霊の気配を見つけたようだ、一方向を見つめ動きを止める。


「先輩?」

「静かに……こっちは居場所がわかってるケドあっちはまだこっちに気付いてない……今タイミングを探っているんだ……いいぞ、そのままもう少し離れていけ……いいぞ……――今だ!!走れッッ!!」


 フェルディナンドは撤退の号令を鋭く発し、全速力で来た道を戻り始めた……誰の手も引かず一目散に。


「「「きゃああああぁぁぁぁーーーーーーッ!!」」」


 死の砦に黄色い大絶叫が鳴り響く、通路に反響してそれは轟音となった。

 我先にとハーレムの女生徒達もフェルディナンドに続く、この音量では当然のようにフィオナやザイツ達にもけたたましく聞こえる事だろう、特にあちらには察知に長けたガランがいる。


 何事かと向こうからやってくる前にジェシカもまた踵を返して走り出した、それにしても。


(あの子たちを逃げる気にさせる為に一芝居打ったのね!すごいわフェルディナンド!!)


 なんて茶番なのだろう。

 フェルディナンドは全く察知などしていない、そういう魔法もあるにはあるけれどそれは弟の得意分野だ。

 適当な事を深刻そうに言っていただけだ……。



 その夜、ジェシカは寮に帰ってくることはなかった。



 ……



 すっかり日も暮れた、王都サードニクスは夜の賑わいに街の彩を変える。

 いくつかある街門のうち、行きにも通った三番街に近い街門を抜けるとそこは十三番街、飲食店なども多く立ち並ぶがよく酔客同士が喧嘩を始める、そんなあまり教育上よろしくない通りは、行きは何処の店も閉めていた戸が開けられ、色取り取りな照明魔導具の光が笑い声と共に漏れている。


 どの店も今夜の稼ぎに腕を磨いた料理の香りを漂わせ、喧騒に満ちた通りを三人と一匹は歩いていた。


「ぁあ……まーだ頭に残響が残ってますね?しかしうるせぇなあこの街は」

「クオるんまだましじゃん……音使いのアタシのが深刻ー、あーあ、アタシももっと[音声遮断]上手くならないと、助かったよフィオナちゃーん」


 ……


 砦に黄色い叫び声が響きはじめ、ノエルの追及がうやむやになった時、丁度一行で一番悲鳴の発生源に気を配っていたフィオナは見よう見まねで"音を断って"みることにした。

 勿論、一度見たクオンのやり方を真似てだ。


(魔力発揚……イメージは通路一杯の音を……断つ?確かクオンはそう言ってたよね……準備は正確なイメージ!音をわたしが斬る!)


 自然と体が動いた……綺麗に背筋の伸びた実に正確な"馬歩の構え"だった。

 ここに新たな"馬歩ァー(バッファー)"が誕生した瞬間である。

 発揚した魔力が両手に、指先に行き渡る。

 ふわ、と純粋な魔力が発動準備に入り、フィオナの桜色の髪と制服の裾がゆらゆら風もないのに揺らめいた。


(雷属性……付与、今!!)


()ッ!!」


 裂帛の気合で音の発生方向をフィオナが両手を合わせた手刀で切りつけると、一瞬電光が通路の空間を斜めに奔って[雷属性音声遮断]が発動し、鳴り響いている叫び声がプツリと断たれて静寂が戻った。


「……で、できた!?あれ?足が」

「――ッ!!あれ?音が……これ……[音声遮断]?」


 パリパリと四角い通路を斜めに走る線が微かに雷光を纏っている、雷属性、ということは?とノエルはクオンを見やるけれど、当のクオンはぽかんと間抜けに口を開けて肩で息をしながらも斬りつけた姿勢のままややふらふらしているフィオナを見ていた。


「は、やっぱお前"警戒対象"だよ」


 そして軽く吐息を吐き出しながら笑うと、ふらつくフィオナにラスクと共に近づいて肩を支える。

 ノエルの瞳から光彩がスコーンと伽藍洞に入ったけれど、今は置いておく。


「やるじゃねぇか"馬歩ァー(バッファー)"、[音声遮断]なんか使えたんだな?」

「見よう見まねぇ……前に、見せてくれたから……」


 弱弱しくフィオナが応えると、クオンも嗚呼と思い至りがあって。


「はー、別に[音声遮断]を雷属性で『音を断ち斬る』必要はないのですよ?バカですね?余計なイメージで発揚した魔力では足らずに魔力を余計に消耗したんでしょうね?多分?知らねェけど」

「ええ~……」

「なるほどねー、クオるんの音声遮断は特殊だからねーってかフィオナちゃん凄いよ、抜刀ママが絶賛してたってのも嘘じゃないっぽーい……できるようになるまでクオるん随分かかってたよねー?」

「うっせ」


 両手を後ろ手に組んで近付いてくるノエルの頭を軽く小突こうとしたクオンの拳は空を切り、ノエルは回避してひらり身体を回すとぺしん!とフィオナのお尻を叩く。

 いつまで支えられてんだー?と。


「ぁいたあ!?あ、あれ?ふらふらしなくなった」

「[魔力譲渡]だな、私は使えませんが。いまいち上手くイメージできねぇんだよな」

「うん、クオるんはそれ二度と練習しないで、雷属性の[魔力譲渡]とか痛いんだか気持ちいいんだか判らないからアレ」


 フィオナが普通に立てるようになったので、クオンはその背中から手を放して右手をぐーぱーぐーぱーさせる、魔法の練習も基本的には三人一緒だけれど、クオンの補助魔法の実験台は大体ノエルが引き受ける事になっている……感電するから。


 ……


 と、そんな事があった。


「あ、でも今日の[音声遮断]の感覚はさっさと忘れちゃった方がいーよ?」

「なんでです?」

「イメージがおバカちゃん式に染まるから。クオるんは音声遮断失敗して爆音鳴らしたことあるからねー」

「ノエるん……バラさなくていいのですよ?殴られたいですか?」


 十三番街の喧騒の中を三人で歩く、ノエルにとってフィオナは依然警戒対象なのは間違いないけれども、少なくとも現時点で敵ではなさそうだと少しは歩み寄りがある。

 並ぶオープンスタイルの酒場からはいい匂いがしてきた、そろそろお腹も減ってきた……。


「二人はご飯は?」

「そうさなぁ……ヴァネッサ様は城にお泊りするから私達は適当にそこらで――」


 "瑪瑙城"には三人娘が宿泊できる部屋が勿論ある、時間的にはもうヴァネッサは王家の歴々と夕食をとった後だろう、クオンとノエルは適当に済ませて登城するつもりであったのだけれど、そこに声が差し込まれた。


「――ぉ~うぃ娘ぇ~、マァマですよ~?こっちきて酌しませんかぁ~?」

「「学食」」


 オープンスタイルの酒場の奥からどう考えても酔っ払った講師エイヴェルトことクオンリィ・ザイツの母の声が聞こえたけれど、クオンとノエルは即決で外食を諦めて無視を決め込んだ、つかつかと二人して歩く速度を上げるので、ラスクも少し速足で追いかけている。


「え、あれ?……いいの?お母さん呼んでるよ?」

「アレは間違いなく大尉のトラップだ、二人してつぶれても支払いと帰りの足を確保する為のな」

「抜刀ママ酔うとめんどくさいから、絶対目を合わせちゃダメ……!」


 三人でご飯ができれば良かったのにな、なんてフィオナは思いながら、この場を早く立ち去ろうとする二人と一匹を追って三番街の実家へと帰宅するのだった。



 その夜、フィオナも寮に帰ってくることはなかった。


 実家に泊まってラスクと寝たのだから。

講師エイヴェルトは義妹と共に生徒が一三番街を夜中までうろつかないよう見回りをしているのです。この時点で三軒目。

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