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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
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第41話:ちょろくない!

 王立魔法学院に入学して初めての休息日だっていうのに朝っぱらからルームメイトの【転生者】がとんでもない爆弾を投下してくれた、こいつもしかして狙ってやってるんじゃないだろうか?そんな風にもフィオナは思ってしまうけれど、今はそれより。


「フェルディナンドって、フェルディナンド先輩って!フェルディナンド第一王子殿下!?」

(【攻略対象】と【お助けキャラ】がでででででーとぉぉぉぉ!?)


 相手が相手で助かった、そりゃジェシカを学内で見かけない筈だ……二年生の教室あたりをうろついていたのだろう。

 思わず鼻水まで噴き出してしまった、可愛いフィオナちゃんフェイスが台無しである。


「あはは!そんなにびっくりしないでよ、デートって言っても二人きりとかじゃないから!」


(いや、【お助けキャラ】が【ヒロイン】差し置いて【攻略対象】と……)


 呵々と快活に笑いながら片手をひらひらと振るジェシカを恨めし気に水色を細めたフィオナだけれど……。


(やっぱりジェシカは油断できない……コレ、たぶん彼女なりの『攻略』だ……!!)


 ジェシカはゲームにおいて終盤突然離脱する、細かい描写は無くてレイモンド商会で買い物もできなくなっちゃうし、そういえば惚れ薬とか扱ってたからガサ入れ??

 とか思っていたフィオナだったけれど、ジェシカがフェルディナンドと距離を詰めている事に一つの思い至りがあった。


(これは間違いないッ!!対ヴァネッサ様対策……!!)


【悪役令嬢】ヴァネッサ・アルフ・ノワールは国内で押しも押されぬ大貴族西部侯爵ノワール家の長女様だ、学院内に『身分』は問われずとも『権力』は効くと威風堂々それを振り翳す純粋我儘令嬢。

 ……昨日の"雷神"降臨はどうなったんだろう、二組に友達がいないのは困った。


 そんな学院内無敵に近い彼女だけれど例外が二つだけある。


 一つは自身の婚約者で第二王子のジョシュア・アルファン・サードニクス殿下。


 もう一つがその兄で第一王子のフェルディナンド・アルファン・サードニクス殿下。


(『侯爵令嬢の権力』が『王権』にばかりは敵うはずがない、ジェシカがフェルディナンドを陥落せしめればジェシカは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!)


 様ァつけろやデコ助。


 しかしフェルディナンドは【攻略対象】の中でも最難関!学年が違う為授業イベントでの交流がほぼ皆無な上に≪燦然(さんぜん)≫と輝く銀の髪に銅色の瞳、甘いマスクと備える属性が"ザ・王子様"のせいか周囲には女生徒が雲霞の如く付き纏っているので二人きりにもなりにくい。


 しかしそこで鍵になるのが課外活動だ、フェルディナンドの希少魔統≪燦然(さんぜん)≫は皆無ではないけれど驚くほど攻性に欠けた魔統だ、その代わりと言っては何だけれども回復や付与補助に非常に優れている。


 そう、彼は一人では戦えない完全後衛。


 そこに遠近両方こなせて現時点で一年最強と思われるジェシカが接近すればどうだろう、姫プレイならぬ王子プレイでフェルディナンドを熱烈接待し友誼を築くのに最高の環境じゃないか!?


(ジェシカ……回復も補助も完璧だけどそこは猫を被れば何とでもなるものね)


 しかし感心ばかりもしていられない、果たしてフェルディナンドの『王権』をジェシカが手に入れたのならば何をする?


(ヴァネッサ様に対する防御?()()()()()ッッ!!私なら()()()()()()()()()()()、自分の【DEAD END】への()()ッッ!!ヴァネッサ・アルフ・ノワール様への【()()()()()ッッ!!)


 相変わらずナチュラルにクズな発想だけれど、最悪の場合という意味でフィオナの考えは真っ当と言えるのかもしれない。


「さて!そんじゃ集合時間遅れちゃうから先行くね!ラスクちゃんに美人のルームメイトって紹介しといてよぉ?」


 ばちこーんとウインク一撃フィオナにかませば、真っ赤なボディに金の星が描かれた盾と剣を背負い、手持ち式弩とそのボルトを装備した完全装備で白い少女ジェシカが出撃してゆく。


 服が制服姿なのでそれはそれで異様なのだけれど、生徒が武装する事を見越してデザインされているのか、清楚な制服に無骨な装備品の組み合わせはこれはこれでアリという判定が王都サードニクスの民意だ。

 男子ぃ?知らんよ。


「いってらっしゃ~い……」

(ヤバイ……ホント油断ならない……ジェシカはクオン(ちょろいの)と違ってちょろくない!)


 ぴょこっ

【残弾数:9】


「ああああぁああぁあぁぁあぁああっぁぁぁぁああぁああぁぁぁあぁあああああああぁ!?!?」


 いちいち煽るな。


 ……


 ともあれ、王都サードニクス三番街"ベーカリーカノン"何のひねりもないネーミングのフィオナの実家のパン屋である。

 元々は食堂だったらしい店内はそこそこ広く、いわゆるイートインも置かれているけれども当然接客などは期待しない方がよい……。


 いや、いた。"ベーカリーカノン"の看板犬ラスクちゃんである。

 名前の通りのこんがりラスク色の毛並みはフッサフサで、そこそこ大きめのボディはムチムチと丸っこく抱き心地は至高の一語に尽きる、しっぽをブンガブンガ振りながら振り撒く愛嬌はイートイン利用客のパンを今日も無慈悲に回収する魔王。


「よーしよしよしよしよしッッ!!」


 一緒に帰って来たディランは学院制服をラスクの抜け毛だらけにしながらイートインでラスクと戯れていた。

 すっかり仲良しの兄弟のようで、制服からお気に入りの白いワンピースに着替え、愛用の薄いピンクのエプロンを身に着けて実家のお手伝いをするフィオナは呆れ顔だ。


「ちょっとディラン!いつまでラスクをモフってんのよ!他のお客様がモフれないでしょ!!お店手伝いなさいよ!」


 パンを買ってイートインを利用してラスクをモフるとは即ち餌付けに直結しパンの買い足しを意味する。

 ベーカリーカノンにとって売り上げに直結する事象である。

 それをワイルドイケメンに育ったからちったぁ集客に一役買っているとはいえ幼馴染のエロ異端者に独占されるなど言語道断だ。


「あらあら、ディランちゃん、奥さんが手伝えって怒ってるわよ」


 コロコロと揶揄いの鈴を鳴らすのは近所のおばちゃんだ。


「だっ「誰が奥さんですかッ!!もう!!サービスしてあげませんよ!?」

「ほぉディラン、テメェやっぱりうちの可愛いフィオナを……」

「お父さんもやめてよ!違うんだからっ!!」


 ――まだ。


 おばちゃんや父グラントの言葉を髪の色に頬を染めながらフィオナはヒテイするといそいそとラスクの元に向かう。

 恩人でお母さん、大好きなお姉ちゃんの接近に気付くとラスクはわんわんっと嬉しそうに声を弾ませてディランの腕の中から離れた。


(ふふん、あんたには愛嬌振り撒いてるだけよ?)


 駆け寄ってきた愛犬をしゃがみ込んで迎え入れれば、飛び込んだ茶色の丸いやつを抱き締めきれずにフィオナも床に転がってしまう。


「あはははっ!ラスクぅ!寂しかった?私は寂しかったよぉ!?」

「入学して数日しかたってねぇだろうよ……あと、パンツ見えてんぞ、今日はライムグリーンか」

「馬鹿ッ!スケベ!エロ魔人!!やっちゃえラスクッ!!」


 わうっ!と忠実に主命を実行するラスクは果たしてディランの顔をぺろぺろ唾液だらけにする刑を執行するのだけれど、ディランもフィオナも、そして店内の誰もが楽し気に笑っていた。


(この雰囲気なら……いけるかな?)


「ねぇディラン、良かったらこの後……課外活動……一緒に……行かない?」

「へっ!?……ぉ……ぉ」


 ――ちりんちりん……


 嗟中、来客を告げる鈴がディランの回答を遮った。

 入り口に立つ陽光を遮る影()()


 ラフなデニム風生地のぴったりとしたパンツは脚の長さを際立たせ、縦縞ニットがDT抹殺の殺意を満載している。

 ボア付きフードのモッズコート風の外套に袖を通した長身。

 ぱっと見イケメン。


「ここがそうですか?そうですね?何だァ?シケた店じゃねぇか?ですよね?」

「もー、いきなりシケたは失礼でしょー?おじゃましまーす」


 同じような生地のパンツ姿だけれどこちらは若干ダボッと着こなして裾の折り返しも大きく腰回りもブカブカ、サスペンダーで吊ってちょっとセクシー。

 動きやすそうなジャージ風の上着に身を包んだ小柄。

 ぱっと見可愛い。


「応、フィオナぁ、ヴァネッサ様が王妃殿下んとこ呼び出し喰らってヒマだから冷やかしに来てやりましたよ?」

「フィオナちゃん、入学式以来だねー?」


 二人とも金具類やボアを除けばほぼほぼ上下黒、亜麻色の髪を首の後ろで一つに束ね、眼帯の目立つ長身の左手には黒壇に金銀銅をあしらった芸術品の如き"魔鞘・雷斬(ましょう・らいきり)"。

 小柄は派手な浅葱の髪に瑠璃の瞳ながら()()()()()()()()気配をさせる。


【黒い三連星】うち二星が私服姿で実家に急襲を仕掛けてきたのだった。

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