第42話:冥途の土産
先程から【戦闘BGM】の切り替わりがすごい、というかイントロクイズみたいになっている。
王都サードニクスからも歩いて来れる砦の廃墟は、なんでも"瑪瑙城"よりお歳を召していると有名な建物で……つまりは砦の周辺から砦の中までアンデッドがうようよといる。
こんなにここで人死んだの?と思うけれど魔物というのはなんでも『発生』もするらしいので、ここでお亡くなりになった方々というわけではないというのが最近の魔物学アンデッド科で主流の学説だ。
(という事は逆にお婆ちゃんが出てきたりしてもおかしくないのかな?転生してやるって言ってたけれど)
フィオナが暢気に考える余裕があるのは一行の先頭を行く剣士がべらぼーに強いからだ。
「腕が鈍ったか?」
とか言っているけれど、遭遇。【攻撃範囲】出現。終了。
(構えから抜くまでが速すぎる……)
以前完封できるなんて言ったけれどもこれは無理かもしれない、なんだか最強装備のおかげか攻撃範囲も前に見た時よりちょっと広い……壁際に追い詰められる未来しか見えない。
はい、今フィオナちゃんは黒い二人に拉致られて廃墟に来ています、withラスク。
「雷斬が帰って来たからちょいと"巻き藁"でも試そうかと思ってな。お前もどうせヒマなんだろ?」
「えっ、いや、あたしは……あれ!?ディランッッ!?」
「急用を思い出したァァァァッッ!!」
(ありがとうございますおっぱい聖、クラスメイトの眼帯おっぱいの私服姿が大変エロかっこよくて大変オレに効きます!)
縦縞ニットに殺されて裏口からダッシュで帰宅していた。
幼馴染よりも今はこの網膜に焼き付けた映像を何とか忘れないうちに……ディランは魔法の勉強を一層頑張ろうと心に誓った、目指せ[念写]である。
エロとは魔法の習得に最も重要なファクターなのだ、"雷神"に言ったらシバかれるやつである。
……[念写]が使える奴、ノットイコール、エロ。
ほんとだよ?
(巻き藁……練武場かな?)
「ラスクも連れてって良い?」
「ラスク?ああ、例の…………」
「わん」
その時紫の単眼とつぶらな黒目の間に小宇宙が広がる、レーザーソードで切り結ぶ事一合、二合、そして明かされるドラマ……。「私はお前の母です」「わおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」
……何も考えず無心で見つめあっているだけです。
「ふふ、良い子です」
「ラ、ラスク……その甘え方は……!?」
途端にくぅんくぅんと飼い主にも見せない甘え方でクオンの足元にすり寄る弟分の姿にフィオナはこいつがNTRか!?と愕然の表情である。
二秒即堕ちであった。
「クオるん相変わらず犬がすぐ懐くねー、やっぱ同類だと思われてるんじゃない?」
「犬は上下というものが本能で解るのですよ?つまり私がトップです、いいですか?いいですね?同行を許可しますラスク、そして本日だけ私の左に就く事を許可します」
「じゃーアタシがラスクちゃんの左だねー」
超賢いラスクはわふとクオンの指示に応えてその左隣へ入り、よしよしとノエルに頭をなでなでされてラスクの尻尾がブンガブンガと回っている。
(そ、そこヴァネッサ様のポジションじゃない……!?――あ、あたしも)
「あ、あたしもラスクと一緒に~」
「おめェは後ろだボケナス。母上が言っていたぞ、テメェの魔法制御は学年でもトップレベルだってな……随分と細かいことができそうだ……だから」
クオンは右手の親指を立てて背後を指さす、流石にそこに人間が入るのは許可できないのだから。
「だから?」
「見せてやんよ……実践訓練ってやつをな」
「ふぁっ!?」
結果いきなり砦廃墟への突入である、実践と言うかもはや殺戮と言うか……もう死んでるのだけれど。
「クオるんトバしすぎだよぉ」
「あーっはっはっはっはっはっはっは!!」
「わおーん!」
後衛組、正確にはノエルは中衛だけれど、並んで歩くノエルとフィオナ。
「そしてラスクが意外と強いのが私は驚きです」
「あの子チベたんの血が入ってるねー」
「チベ?」
「超でかくなる北部の猟犬だよ、怒るとすっごい獰猛」
それにしてもさっきから、一度もクオンの刀の切っ先を見ていない……見えない
抜刀術は後の先・先の先にて早く抜き、即座の応えをする剣術だ、だから別に鞘に納め続ける必要はない……。
必要はないのだけれど……攻撃範囲が見えるフィオナの見解は違った。
納めて構えた時点で、攻撃範囲が広がる。
この攻撃範囲は抜いて納めるとまた広がる。
普通の事を言っているようだけれど、攻撃範囲が出るという事は即攻撃可能ということだ、
【カウンタースキル】を現実で見るとこうなのかと【侍<サムライ>クラス】の特性など思い出す。
(……うん、こいつぁもうユニーククラスの域だ……鞘の力なのかな?)
何気にミュリア先生が【侍<サムライ>クラス】で先日の戦闘訓練の授業を受けた、勿論クオンは『主命遅刻』で不在である。
(先生も【攻撃範囲】が結構表示される時間かなり多かったけれど……モノが違う、ほぼ常時じゃん……)
居に合わば斬る。
合わねば寄りて斬る。
踏み込まば無論居が合う。
これぞ抜刀術の術理也。
さっきから"魔鞘・雷斬"がパリっているのは魔法を併用しているのだろう、離脱前のイベントバトルとヴァネッサ死後の報復バトルの強さも納得だ、レオ様呼んで来い。
ふと、【戦闘BGM】の入りがいつもと違うものに変わった、間違いない、強敵が来る。
「クオン!2時方向!来る!!」
「は……?って!!」
初めてクオンが防御するのを見た、鞘から半分抜いた刀身の峰で通路の角から現れた元騎士であろう戦装束のアンデッドの刀を受け、いなすように払いのけてから大きく飛びのく。
「抜かるなよー?」
「誰に言ってンだ?」
石畳をノエルがゴツイブーツで蹴りつけると結構な音が響く、ノエルはその音を頼りに≪伽藍洞の足音≫で何度もショートジャンプを繰り返しながら不測の事態に備えはじめる。
クオンが半分抜いた刀身を再び鞘に完全に納めながら先頭を悠然と進む、そしてニィと口端を凶暴に吊り上げた。
イントロからして二人の登場デモでも流れそうなゆったりした入りの【戦闘BGM】が、クオンが再び鯉口を切ったタイミングで転調して、フィオナは感動すら覚えて「ふぉぉ……」と打ち震えていた。
(完璧……この二人【戦闘BGM】聞こえてないよね?)
聞こえていてもリハーサルなどしなければ難しかっただろう、それくらいの美しい流れだった。
フィオナの記憶にはない初めて聞く曲……きっと、クオンとノエルの本当のテーマ曲。
ノエルは虚空を踊り、クオンは佩きモノを腰だめに水平にするようにしてゆらゆらと散歩でもするように戦装束アンデッドの周りを歩いていた。
「オウ、御同輩……そいつは西部抜刀隊の誂えじゃアねぇか……黄泉路も鉄火場とは、羨ましい限りですよ?」
クオンの言葉に戦装束アンデッドは答えない、応えずただ、八双の構えにて対する。
「クオン・ザイツだ、冥途の土産に持って逝け」
――カキュンッ!!
雷閃が迸った。
抜刀隊は抜刀術使いの集団ではありません




