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83 おもてなし精神

「ただいま」


「おかえりなさーい」


 カミラの店「アイリス」の扉を通りパメラが声をかけると、店の奥からカミラの声だけが聞こえてきた。厨房で料理を作っているのだろう。


 すると厨房からカミラがにょきっと顔だけを出した。


「それで教会学校はどうだった?」


 カミラが問いかけると、パメラが小走りで近づきカミラの耳に手を添え、ごしょごしょと内緒話を始める。


「うん、うん、へー。……えっ、そんなことを? やるわねー。あんたも頑張らないとね」


 なにやらカミラから漏れ聞こえるが内容は分からない。そのまま入り口付近でニコラと二人待っていると、厨房から手を拭きながらカミラが近づいてきた。そしてニコラを見るなり目を丸くして感嘆の声を上げる。


「朝も見てびっくりしたけど、この子がマルクちゃんの双子の妹ちゃん? あなたすっごくかわいいわね! 将来ウチで働かない?」


「ううん! ニコラはね、将来お姫様になるの!」


 満面の笑みを浮かべて即答するニコラ。


「あらっ! かわいい! ……でも、そうね。ニコラちゃんなら玉の輿も十分ありうるわねえ」


 カミラがニコラの顔をじろじろ見ながら思案顔で答える。ニコラは働くなんてまっぴらごめんと言いたいだけだと思うけど、まあいいか。


 挨拶が終わると厨房に案内された。たしかにさほど広くはない厨房だ。屋上まで客を呼び込むとなると、とても賄いきれないだろう。そのためにも今日はここでひたすらアイテムボックスに料理を詰め込むのだ。


 俺たちを案内すると、カミラはまな板に置きっぱなしだったキュウリを短冊状に切り始めた。これは野菜スティックかな? あの色艶はおそらくギルが持ってきた空き地産のキュウリに違いない。


 しばらく待っていると用意していた野菜が切り終わった。カミラは一息つくとこちらに振り返る。


「それじゃあマルクちゃん、おねがいするわね」

「うん」


 俺たちが来る前に切っていた野菜も含め、全てアイテムボックスに収納した。それを見たカミラが心配そうな口調で話しかける。


「アイテムボックスって便利すぎるわね……。マルクちゃん、本当に気をつけなさいよ? 世の中には無理やり命令を聞かせる魔道具なんてのもあるんだからね?」


「えっ、そんなのがあるの?」


「あるのよ。犯罪奴隷なんかが付けられるんだけど、命令を聞かないと耐えられないような痛みが走る仕組みなんだって。以前この町に来た奴隷商のお客さんが言ってたわ」


 やだなにそれ。奴隷が存在することは聞いてはいたけど、そんな魔道具まであったのか。


「血を魔道具に登録して使うらしいわ。騙されたりしないように気を付けるのよ?」


「うん、分かった」


 実力派冒険者のセリーヌなら詳しい話も知ってそうだ。今度聞いておいたほうがいいな。


 野菜を仕舞った後は揚げ物だ。鶏の唐揚げとポテトフライのようだ。下味の付けた鶏肉に小麦粉をまぶし、熱した油へ投入していく。


 カミラはこの暑い厨房の中で長袖の服に手袋まで付けている。商売道具の美しい肌に火傷を負わないための対策だろう。うーん、プロですなあ。


「料理はいつもカミラさんが作るの?」


「さすがに専用の人を雇う余裕はないからねえ。それにお客さんは私の手料理だと聞くと喜んでくれるし、パメラも手伝ってくれているしね」


 パメラの方を見て微笑む。パメラはポテトフライ用のジャガイモの皮を手慣れた様子で剥いている。俺なんかよりずっと上手い。


「まぁ普段は揚げ物までは作らないんだけどね。視察は大勢の兵士さんが領主様をお守りしながら何日も野営して町に来るじゃない?」


 たしか領都からここまで馬車で一週間くらいだったか。護衛する兵士には徒歩が含まれるだろうし、徒歩に合わせるともっとかかるんだろうな。


「領主様が町でお泊りになった後、大半の兵士さんは宿舎に泊まって自由時間を与えられるんだけど、その貴重な自由時間で楽しむためにウチの店を選んでくれた皆さんには、たっぷりサービスをしてあげたいじゃない」


 カミラがニッと笑った。利益だけじゃなくて、そういうことも考えてたのか。確かにお酒と女性の接客がメインだから、食べ物に凝ってもそれほど利益には繋がらないよなあ。


 カミラのおもてなし精神に感心しながら、出来立てでいい匂いのする唐揚げに近づき、アイテムボックスに収納しようとした。そこでカミラから待ったが入る。


「あ、ちょっと待って。少し冷ましてからお願いするわ。熱々の揚げ物は美味しいけれど、揚げ物の匂いが店内にこもるからね。もちろん冷えても美味しいように作ってるのよ」


 ああ、なるほどなあ。おつまみ一つとっても色々と工夫があるんだね。



 ――――――



「邪魔するぞ」


 しばらくすることがないので、ニコラと二人で椅子に座りながらカミラパメラ母娘の調理風景を眺めていると、ギルがカゴいっぱいのジャガイモを持ってやってきた。空き地では育てていないから、どこからか買ってきたんだろう。


「おお、マルク坊にニコラ嬢ちゃん。今日はすまんな」


「ううん、気にしないで」


「おやギルさん、また持ってきてくれたのかい? 助かるけどそんなに気を使わないでいいんだからね?」


「まあまあ、ワシが応援できるのはこのくらいだしな。貰ってくれい」


「そう? 分かったわ、それなら遠慮なくいただきます。……けれど、ジャガイモは何に使おうかしら。ウチだとポテトフライくらいにしか使ってないのだけれど、さすがにもう十分だと思うのよねえ」


 ワリとストレートに言っちゃったな。気の置けない間柄ってことかもしれないけど。あっ、ギルがションボリしている。


 初めて会った時はいきなり怒鳴り込んできたあのギルが、幾つもの店を経営してるやり手の商人のギルが、カミラ関連になると何故こんなにも残念になるのか。……まぁ理由は一目瞭然だけどね。


 俺もなんだかんだとカミラ関連でギルのお役に立つように色々とやってきたが、あのションボリ顔を見るとまた何かやってあげたくなってくるな。


 爺ちゃんに何かしてあげたくなる気持ち。これって母性本能ならぬ孫性本能とでも言うものなんだろうか。ちなみにウチの家族の母方の爺ちゃんは存命だけど、特にそういう気持ちが湧き出たことはない。


 とにかくジャガイモを使ったレシピを考えよう。匂いの少ないものがいいな。それと当然ながら酒のつまみにもなる料理。ということはアレですね。

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