STEP2-4 ~もっと信じてお前の神をっ!~
2019.10.07 改稿いたしました!
(特に後半のサクのセリフ……説明へったくそですみませんっ……orz)
状況を整理しよう。
まず、俺はスノーのことを秘密にしていた。
スノーが持つ、トラウマのためだ。
スノーフレークスは心を通じる力ゆえ、悪魔の植物と呼ばれ弾圧された。
その辛い経験から人間を恐れるスノーは、『俺以外の人間にはその力を秘密にしてほしい』と頼んできた。
心を伝える力を秘密にするなら、その力を持つ存在も秘密にせねばならない。
だから俺は、スノーのことを誰にも言ってなかった。
だが、スノーは自ら、その秘密をユキシロのみんなやナナっちに暴露していた。
理由はひとつ、俺を救うため。
そのことに対して、異議はない。
愛しいひとが俺を守るため、トラウマを乗り越えて声を上げてくれたのだ。感動と感謝はあっても、怒りなんかない。
しかしあれ以降、スノーとは話せていない。
ひとつには、スノーが言葉を発するよすがとしていた、俺のスマホが壊れてしまったからだ。
なぜ直してなかったのかというと、スノーの秘密を守るためだ。
昨晩のこと。サクがすでにスノーのことを知っている……などと思いもしなかった俺は、スマホの中身は見ないでくれと懇願した。
もちろん、そんなデリケートな状態にあるスマホを、直すことはできかった――今日の昼過ぎまでは。
ナナっちを通じて、もうスノーのことを隠さなくてよくなったと知り、サクと昼飯を食って一旦部屋にもどるまでは。
だが、それ以前に。
スノーは死んでいたはずなのだ。
ゆうべ。アズールとの戦いで。
「つぎのわたしをよろしくね」と、ちいさな綿毛ひとつを託し、スノーの大樹は燃え尽きた。
なによりスノーは、自分はすでに寿命だといっていた。なのに……?
そのとき、メール着信音。
スマホを耳から離し、画面を見れば――
『メール着信 バレちゃった?:S.F』
『メール着信 わたし、転生できたの。サキとまた、話せるの!:S.F』
「スノー…………」
『メール着信 おどかしたくて、だまってたの。:S.F』
『メール着信 だってサクスやナナキとすっごくなかいいんだもん!:S.F』
『メール着信 ちょっとはサキにも、やきもちやいてほしいんだもん……ダメ?:S.F』
「どうしたのサキ?」
「ご、ごめん、ちょっとメールが……きょうはありがとう。また、デンワするから!」
可愛い。なんだか口調が幼い気もするが、そんなところもなお可愛い。
ほんの一昼夜ぶりなのに、何年も話せてなかった気がする。
こんなちょっとの言葉だけで、胸がぎゅっとしてしまう。
いとしくて、かわいくて、こころがいっぱいになってしまう。
そんな、俺の最愛の存在からの言葉は、やわらかくあたたかく視界でにじんだ。
『メール着信 それにしても、サクスってば……わたしのこと、だまってたんだね:S.F』
「サクが?」
サクスというのは、サクの『昔』の名前だ。俺は思わず聞き返した。
『メール着信 うん。いちおう連絡したんだよ。サキのスマホこわれてたから……:S.F』
『メール着信 サクスのほうに。サキのスマホ、直しといてねって。:S.F』
『メール着信 ま、しょうがないか。だって……おぉっと、これはないしょないしょ。:S.F』
『メール着信 いけないサクスに、わたしからもお返しなんだから!:S.F』
「なん……だと……」
俺は愕然とした。
いま考えると、あの間。
『…………(←ココ) 大の男にそこまでされて即『知ってました』とは(以下略)』
あのときは恥ずか死しててそれどこじゃなかったけど!
「サ~ク~~~~~」
あいつ、またしても黙ってた!
俺は部屋から飛び出した。
メール? そんなん打っていられるか。
デンワ? そんなもんじゃ生易しい。
これは直接、顔を見て一言、ツメてやらねばおさまらない!
――はたして、奴の返事は。
「だから、ご実家に連絡しろといったのだ。」
「え」
「『スノー』はサプライズを演出したいようだったからな。
まさか『あの会話』で気付いていないとは驚いたが、ならばと考えてのことだ」
「あの……会話?」
「昼間、奈々緒は言っていたな。『スノーは陸星に呼びかけ、力を授けた』と。
それだけで、ほぼ確実に推定できるはずだぞ。
陸星への力の授与が行われたのは、アズールとの戦闘の終了後。スノーフレークスの大樹が焼け落ちた後、すなわち……と」
「……なんで、そういえる?」
「まず、陸星への力の授与が行われたのは、『スノーフレークスの発芽・樹化のあと』だと断定できる。
発芽前、何度もお前に力をよこせと言ってきたのがその証拠だ。
樹化覚醒――発芽し大樹となるまえのスノーフレークスには、『力を授ける』権限がなかったのだ。
しかし、陸星への授与のタイミングは『アズールとの戦闘の間ではない』とも推論できるはずだ。
授与を行うなら、まず目の前で戦う奈々緒だし、その後は戦闘終了まで奈々緒とお前の支援に集中するのが、たった一つの最適解だからだ。
陸星への授与は無駄打ちになる恐れが大きい。
あの時陸星は、お前の推測どおり、ユキシロ本社ビルにいた。戦闘の現場から電車で一駅分離れた場所にな。
ユキシロに可能な最速の手段を駆使しても、あのアズールが相手だ、到着までには戦闘が終結しているだろう。
よってそれは、アズールとの戦闘の間には行われない。
以上より、陸星への力の授与が行われたのは、『授与権限を得た後』、かつ『戦いに労力を使う必要がなくなった時点』。すなわち、『あの戦闘の終了後』と推測できる。
戦闘時死んだはずの者が、その後行動できるのは、何らかの形で『生き返った』からに他ならん。つまり、蘇生もしくは転生が行われたという事になる。
何か間違っているところがあるか?」
しっかと俺の目を見たままで、奴はとうとうとこう述べた。
ぐうの音もでないとは、まさしくこのことだった。
「……いえ」
「まったく……
奈々緒と戦いながらあれだけの推理とコールドリーディングを展開したお前が、こんなことに気付かんとは。
やはりあれはまぐれだったのだろうかな。計画は順延するか。もしもそれでもダメなら、いっそ王冠に猫耳をつけて国民のアイドルに……」
輝きはじめた星たちに語りかけるサクの目は、とってもとても遠かった。いうなれば、全てを悟りきった賢者様のように。
「いやあああ!! あきらめないで!! あきらめないで俺の人生――!!
がんばります!! がんばるから王様!! 強くて賢くてかっこいいガチの王様に俺はなるから!!
もしもそんな『おーさま』になったら、故郷のみんなに顔向けできないからああ!!」
「……ほんとうか?」
「ほんとうです!!」
「ほんとうにほんとうか?」
「ほんとうにほんとうですっ!!」
「ほんとうにほんとうにほんとう」
「だー!! ほんとうにほんとうにほんとうだってのー!!
もっと信じてお前の神を――っ!!」
星空に、押し問答が流れてく。
こうして俺は、社長直属特務技官、兼、未来の神王様となったのであった。