STEP3-0 ~俺とナナっち~
2019.03.31
誤字報告をいただき、ありがとうございます。
さっそく修正させていただきました。
第10部分73行目: 土を離れるため学者になる。そんな逃避的な目標しか持ってなかった俺に、友達を守り、まわりの誤解を解くという、前向きな目標が『始→初』めてできた。
2020.06.08
そこには、→ 聞き覚えのあるガタンという音に右を見れば、
ほか改行ルールや一部ダッシュの削除、朱鳥へのルビつけなどの修正をいたしました。
俺は高校受験の下見ではじめて、その町に足を踏み入れた。
故郷の村からは、快速で一時間かかる大きな町。
だから、知らなかったのだ。
『七瀬』がそこでどれだけ恐れられ、忌み嫌われ、しかしながら排除できない“厄介者”とされているかを。
まあ、俺には結局、関係なかったのだが。
* * * * *
その日俺は、入学二日目にして遅刻の危機に瀕していた。
愛くるしいにゃんこにみとれ、知らない路地に入ってしまったのが運のつき。
いくら神童咲也サマだって、知らない道はわからない。
路地から路地へ、迷って迷って、走りまくっていたときだ。
ふいにぽこっ、と表通りに出た。
聞き覚えのあるガタンという音に右を見れば、自販機で飲み物を買う少年がいた。
サラサラと綺麗なブラウンの髪に、優しげな顔立ち。どこかさびしい目の色。
「あ、……っ、はー、はー、ぜー、ぜー、あ、の……っぜえ、はあ……」
ぽかん、とこちらを見た彼は、俺と同じ制服を着ていた。
第三高校の人ですよね、一緒に行ってくれませんか。そういおうとしたのだができなかった。
なにぶん俺は、一瞬前まで焦りに焦って走りに走りまくっていたのだから。
もしもこれが女の子相手だったら……いや男でもぶっちゃけ事案ものだったと思う。
それでも彼は臆することなく、買ったばかりのペットボトルを俺に差し出してくれた。
思わずひったくるように一気飲みしてしまい、平謝りする俺を、優しく笑って許してくれた。
俺はその時すでに、すっかりはーとをつかまれていた――なんてラッキー!
学校につくまでの間に、こいつと友達になろう。絶対なりたい。
だって、こんないいやつが友達だったら、毎日絶対楽しいじゃないか!
けれどやつは、学校への道だけ教えて、自分はどこかへ走り去ってしまった。
土地勘のない場所でまた迷うのもしんどい。なにより、同じ学校の生徒なのだし、またすぐに会えるだろう。そう考えて、俺はひとまず学校へ向かったのだった。
* * * * *
教室について驚いた。隅のほうの席にそいつがいたのだ。
「あれ? お前同じクラスだったのかよ!
さっきはありがとな、俺、此花咲也。お前は?」
「…… 七瀬、奈々緒」
小さな声で答えたやつは、なぜか泣きそうな顔をしていた。
「へえ、可愛い名前じゃん。よろしくな! あ、俺は……」
「やめたほうがいい」
「え?」
やつはうつむいて、暗いくらい、暗い声で言った。
「俺なんかとつるんでると、関係者だって思われるから。
もう、話しかけないで。ごめん、此花君」
「え……?!」
呆然としていると、誰かが俺を引っ張った。
教室の後ろまで連れて行かれて、ささやかれたことは。
「やめとけよ、あいつ七瀬の子だぜ」
「へ?」
「そっか、此花君知らないんだ。
七瀬ってのはこの辺で、いや朱鳥でも有名な『ファミリー』なんだ」
「下手にかかわって目つけられたら殺されるぜ! だからもうさ、あいつには」
「冗談だろ?」
そのとき、俺は言っていた。
「あいつ、道に迷ってた俺を助けてくれたんだぞ。
買ったばっかのお茶、ぜんぜん迷わずゆずってくれて……のど渇いて死にそうだったから思わずふんだくって飲んじまって、それでも笑って許してくれて。
道だけ教えて一緒に行かないのなんでかって思ったけど、それでなのか。
俺が今ここにいるのはあいつのおかげなんだ。あいつは、そんなヤツじゃない!」
教室中が俺を見ていた。
そう、七瀬までも。
* * * * *
その後、俺は七瀬家がちまたでどういわれているのかを知った。
だが、そんなのは関係なかった。
だって、奈々緒はいいやつだったから。
メシの時間に教室移動、席までかわってくっついてくる俺をいつも気遣い、しまいには涙を見せてまでもうやめろといったほど、優しい、優しすぎるやつだったから。
それでも、お前はでっかい迷いネコを餌付けしちまったんだよ、だから諦めて懐かれてくれと諭したら、わんわん泣きながら抱きついてきた、そんな、さびしがりの少年だったのだから。
――誰がなんと言おうと、ナナっちはいいやつだ。
いつしか俺は、それを皆に知らせようとし始めていた。
土を離れるため学者になる。そんな逃避的な目標しか持ってなかった俺に、友達を守り、まわりの誤解を解くという、前向きな目標が初めてできた。
だから俺はナナっちと、強引なくらいに一緒にいて。
誰かにつまらない文句を言わせないために、全力で勉強して学年トップをキープして。
同時に、いろいろな活動にナナっちを引っ張っていき……
一年も経つ頃には、ナナっちはすっかり、みんなの人気者に。明るく優しく、人懐こい笑顔で誰にも好かれる、ほんとうのナナっちになっていた。
そしてナナっちはその前にも後にも、たくさん俺を助けてくれた。
シックハウス症候群を発症したときには、誰より力になってくれた。
何ヶ月も授業に出られず、卒業を諦めようとする俺に、ナナっちは何度も言ってくれたのだ。
「サクやん。お前の頭脳はホンモノだよ。
誰がなんと言っても、俺はそれを信じてる。
絶対、卒業できるよ。俺が、お前を卒業させてやる」
そして周りの人たちに協力を仰ぎ、先生に頭を下げ、何時間でも俺と一緒に勉強してくれた。
だから俺は、高校中退を免れた。
バイトが決まらず苦しい生活をしていたときも、自分の勤務先の繁忙期の募集を紹介して、俺が生きてけるようにしてくれた。
そしてゆうべは、俺のためにと命まで張って戦ってくれた。
――ナナっちは、俺のたいせつな恩人だ。そして、大事な大事な親友だ。
やつが笑ってくれるなら、俺はどれだけだって、がんばれる。




