STEP6-4 ~月下の攻防、ふたつ~
『はああ……
俺、今日はデートの予定だったんだぜ……
なんでよりによって今日緊急でシフト入るんだよう……
もはやふられる予感しかねえよ……はあああ……』
『まあそうくさんなって。
ここさえ乗り切りゃ、なんとかなっから』
『そうだといいんだけどよー……
ユキマイ国行ったら、俺あたらしく彼女みっかるかなー……
七瀬は男ばっかだし、ユキシロのお姉さま方はみんな咲也さんに夢中だし。
かといって咲也さんにはもうお嬢様という婚約者が!!
ああっ、俺もー一体どーしたらいいんだ――!!』
『おいちょっと待て。』
国道沿いを見回りながらそんな会話をしたのは、三日前のことだったか。
このごろ愚痴の多かった相棒は、今夜はやけに大人しい。
「はあっ、本家の皆様は今頃咲也さんと……
なのに俺たちゃなにやってんだろなーホント」
そんな言葉もやけに、白々しく砂漠の夜に飲まれてく。
「まあまあ、咲也さんは明日にゃまたここにきてくれるんだしさ。
そんとき話せばいいじゃんよ」
「それはわかってるけどよー……あぁぁぁ、咲也さぁぁん!」
「彼女どうした!!」
「ふられたにきまってんだろぉぉぉ!!」
どこか晴れ晴れとヤツが叫ぶと同時に、背後で爆発音が響いた。
振り返れば、俺たちの乗ってきたジープが、夜空に火柱を上げていた。
しかし警報は、鳴らなかった。
* * * * *
「さきほど、ユキマイ工作班より完了報告があがりました。
現状の累計では、目標の200パーセントの成果が上がっております」
報告を上げれば、通信回線越しにいくつかの笑いと拍手、そして賞賛の声が聞こえてきた。
もっとも、いずれもふざけた調子のものだったのだが。
というよりも、嘲りの色が濃いだけか。
『ふむ、少々やりすぎではないのかね?』
そんな声も、主成分は愉悦と嘲笑。
計算どおりだ。
『ユキシロ独立宣言の見込みは』
深く、静かな声が問いかけてくる。
僕はつとめて注意深く答えを返す。
「現時点の計算では、一月中旬にずれ込むかと」
『おお、ならばもう充分だろう』
『いや、奴らにはサクレアがいるのだ。その程度では安心できぬ』
『四月一日以降だ。さもないとやつらは逃げるかもしれないぞ』
『それがよかろうの』
『では、四月一日以降。それを目標とし、引き続き進めるように』
「かしこまりました」
“かねてより、現状に不満をもらしていた七瀬の構成員、数名を協力者としました。
彼らの協力により、作戦は順調に進んでおります。”
――確かにそう、報告した。
そこには、ひと欠片のうそもない。
そう。作戦は、順調に進んでいる。
『ユキマイ国』が窮するまで、あと、もうひといき。
彼らなら、必ずやってくれる。
マサトは、この工作のせいで、ひどく苦労している様子だ。
この三日は、家にすら帰っていない。
仕方のないことだ。これは、彼が選んだ道なのだから。
彼の道の試練には、彼が挑まねばならない。
僕がそうしているように。
彼の手助けを、僕はできない。
僕の手助けを、彼がすることはできない。
いつものように、空を見上げた。
いつものように、月はしらんぷりして輝いていた。




