魔法Sクラス
冒険者学院には第一校舎と第二校舎があるのだがS,Aクラスが第一校舎でBCクラスが第二校舎のようだ。ちなみに正面玄関に掲示板が貼ってあったのが第一校舎で第二校舎は少し離れたところにある。
校舎内に入って少し歩くとすぐ魔法Sと標識に書かれた教室を見つける。
恐る恐る教室の扉を開けると中には既に10人ほどの生徒が席についている。掲示板で見た限りでは全員で15人くらいだったのでもうほとんど来ていることになる。
教室内を見渡せば端で1人きりの者、最前列に座っている者、真ん中辺りで3人ほどで会話しているグループ、中には机に突っ伏して寝ているであろう人もいる。
どこに座ろうかなと少し悩み真ん中やや後ろの方に座ることにする。クラスが15人くらいなのにも関わらず席は50人分くらいあるのでガラガラである。
席について少しすると教室に新しい人が入ってきた。
年は多分俺と同じか少し上くらいかな、なんて思いながら、ぼーっと眺めていると目が合う。
俺を見ると、やや微笑んで近づいてくる。どうやらこちらの席に座るようだ。
「よっ、俺はロイドっていうんだ。ロイって呼んでくれよ。お前は?」
俺の隣の席に腰掛けつつ声を掛けてくる。
「俺はセト。名前は好きに呼んでくれ」
「そうか、じゃぁセトと呼ばせてもらうわ。まぁ同じクラスのよしみだ。これからよろしくな」
「あぁ、よろしく。でもどうして俺に声かけたんだ?」
「それはまぁ目が合ったからって言うのもあるが、何と言うかシンパシーを感じたんだよ。お前冒険者やってたろ?」
「あぁ、学院に入る前に少しな」
「俺もやってたんだが、分かるんだよな。そういうのって。ここは特待生でもない限り学費が高いから貴族も多い。でもそういうやつはダメだ。実践を経験したことあるやつとは動きや所作が全然違う。学院を卒業したって肩書だけ欲しいやつよりかは、お前みたいな本気で裏側目指してるやつに話しかけた方が面白いだろ?」
ロイの話を聞いて俺も自然と笑みが零れる。
「やっぱロイも本気で裏側目指してるのか?目的は?」
「当たり前だろ。俺が欲しいのは神樹の葉。まぁそれから金だな」
「そうか。まっ、お互い頑張ろうぜ」
世間では世界の裏側に憧れる者は多いが、それを本気で目指している者は多くはない。
本気で目指しているなんて言ったら馬鹿にされることもあるくらいだ。やっぱり、こういうことを本気で言い合える人がいることはとても嬉しい。
ロイと話していると、また教室の扉が開く。
「げっ」
咄嗟に口を塞ぐが時すでに遅し。気づかれてしまった…。入ってきたのはライムの魔法で撒いたあの貴族だった。
「貴様は!」
名前は確かアルベルト=ストローノフだったか。ストローノフが俺の方に近づいてくる。
「さっきはおかしな魔法で逃げたようだが、もう逃げられんぞ!あの子たちを解放しろ!」
やっぱこうなるよな…。どうすればいいんだよ、めんどくさい。
と、そんなやり取りをしてる内にまた扉が開く。入ってきたのは40歳くらいの男性だった。
「よし、お前ら全員揃ってるか?とりあえず席につけ」
その男性は教卓に立つとそう指示する。おそらく彼が講師なのだろう。
「ふん、後で覚えておけよ」
そう言ってストローノフも前の方の席につく。
「おい、あれって貴族だろ?お前何やらかしたんだよ」
小声でロイが訊ねてくる。
「いや、やらかしたというか、勘違いされたというか、何というか…」
俺の様子にロイはご愁傷様といった表情を見せる。
そうこうしているうちに講師は点呼を始め、俺の名も呼ばれる。もちろんロイやストローノフの名前も呼ばれている。
「よっし、全員いるな。まずは自己紹介から始めるとするか。俺の名はエドワード、お前らの興味ありそうなことを言うなら、知恵の実を持ち帰った帰還者だってことか」
エドワード先生がそう言った瞬間、教室がざわつく。
当たり前だろう、帰還者であり、外界の産物、それも知恵の実などという有名なものを持ち帰っていれば英雄扱いだ。
隣にいるロイの視線も鋭くなっている。神樹の葉を求めているのだから、知恵の実を持ち帰った人物であれば興味を示すのは当然だろう。
「まぁあれは単なる偶然だったんだけどな。中々食える物が見つからなくて、飢えそうな時に見つけた果実を藁にもすがる思いで食ったらめちゃくちゃ魔力量が増えるっていう。そのおかげで生きて帰って来れたわけだ」
快活に笑いながら語るエドワード先生。外界を知っている人が先生というのはありがたいな。
「んじゃ、まぁ今日は初日だ。お前らもクラスのやつのこと全然知らないだろ?とりあえず自己紹介がてら模擬戦でもすっか!」
さっき同様教室がざわつく。初日から模擬戦ってまじかよ!
「ふはは、面白い。さっそくやろうではないか」
ストローノフが真っ先に立ち上がる。それにつられて幾人かの生徒も準備をし始める。
まぁやるしかないよな!
「じゃぁとりあえずお前ら全員校庭へ出ろ。説明はそこでするからな」
そう言って教室を出るエドワード先生。その後それに続いてぽつぽつと教室を出ていく生徒たち。
「セト、行こうぜ」
「おう」
ロイに呼びかけられ、俺も愛用の杖だけ持って校庭へ向かう。
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